農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第44回 水田における散布手段2020年3月19日
前回までに水稲病害虫雑草防除のポイントを紹介した。
その防除の中心である農薬の散布は、水田作業の中でも重労働に分類される。特に水稲後半の暑い盛りでの散布作業は、大変な重労働で、この労力を少しでも減らせるよう農薬の製剤や散布手段は進化してきている。
特に近年では、IT技術を活用した労力を軽減させた散布手段(全自動飛行ドローンなど)も登場しており、選択の幅が拡がっている。
農薬散布は、大雑把に分けると地上散布と空中散布の2つになる。
地上散布は、背負い動噴や地上で動く散布機械、あるいは人手で散布することで、農薬の剤型や散布形態によって様々な手段がある。手段ごとの効率性は、対象とする作物や病害虫雑草ごとに異なるが、それぞれに長所・短所が存在するので、経営面積や所有するほ場の状況に合わせて防除手段が選択されている。
これに対して空中散布は、航空機を利用して空から農薬散布するもので、広範囲のほ場を一度に散布できる。
海外の巨大なほ場ではセスナ機を使用した散布が主流だが、日本では、3種類の機体(有人ヘリコプター、産業用無人ヘリコプター、ドローン)のうち、無人ヘリによる散布(平成30年度88万ha:農林水産省統計)が主流である。
以下、何回かに分けて、散布方法ごとの特性を紹介するので、防除手段を選択する際の参考にしてほしい。
1.無人ヘリ散布
(1)概要
無線で操縦する機体総重量150kg以内のヘリコプターを使用して散布する。水稲の航空防除は、平成の初期頃までは有人ヘリによる散布が主流だったが、後に無人ヘリが有人を追い越し、現在では空中散布のほとんどは無人ヘリ(産業用無人ヘリコプター)によるものである。
(2)長所
現在水稲で使用される防除機器の中では、圧倒的な防除効率を誇る。1haを約6分で散布でき、地形にもよるが、1時間で10haを散布できる能力がある。
ローターの強い風圧(ダウンウオッシュ)により、水稲の根元までよく薬剤が届く。
搭載するアタッチメントの交換により、液状農薬散布、粒剤散布、播種といった作業が効率よくできる。
(3)短所
飛行に伴うエンジン音が最大90db(パチンコ店店内と同等)程度発生し、かなりうるさい。電線などの障害物や散布不可地域を避けて操縦するため、オペレーターの精神的負担が大きい。実際の作業では、薬液を補充するものや、ほ場の端などを知らせる合図を送るものなど、最低4人程度の作業要員が必要。
また、機体価格が1500万円超と高価で、年間の維持費(点検整備、保険等)も50~60万円程度かかる。安全に飛行させるには技術が必要で、オペレーター養成のための講習費用も50万円程度かかる。このため、導入する際は、導入形態(共同利用、防除請負業)や費用対効果をよく考慮する必要がある。
2.ドローン散布
(1)概要
ローター(回転翼)が3つ以上ある無人航空機を産業用マルチローター(通称:ドローン)と呼び、機体総重量25kg以内で薬液タンク容量10L程度のものが多く、1haを15分程度で散布できる。操縦は、プロポで操縦する手動タイプとGPSでほ場位置を登録した上でほ場内をAIによって自動飛行する全自動タイプがある。
平成28年頃から使われはじめ、平成30年には約3万haの実防除面積がある。農水省は、ドローンでの防除面積を100万haにまで伸ばす計画だ。
(2)長所
無人ヘリに比べて音が静かで70db程度(昼間の幹線道路周辺)で、1haを約15分で散布できる。所有するバッテリー数にもよるが、1時間で3ha程度を散布できる。
ローターの風圧(ダウンウオッシュ)は無人ヘリよりは弱いとされるが、散布試験等では水稲の根元まで付着していることが確認されている。
搭載するアタッチメントの交換により、液状農薬散布、粒剤散布、播種といった作業が効率よくできる。導入費用は機体によりまちまちだが、農薬散布に使える機体は、100~600万円程度(無人ヘリの1/3程度)で導入できるので、個人所有のハードルが低い。個人所有であれば、自身のスケジュールで適期防除もしやすくなる。
手動タイプドローンの実際の作業では、薬液を補充するものや、ほ場の端などを知らせる合図を送るものなど、最低3人程度の作業要員が必要。これが全自動タイプであれば、合図マンは不要で補助者1人の計2人でも散布でき、オペレーターの精神的負担がほとんど無い。
平場のほ場よりも、中山間地の無人ヘリが入れないような小さい水田や住宅近隣、電線などの障害物が多い水田でも使えるため、散布可能な場所が無人ヘリよりも多い。
(3)短所
バッテリーの持ち時間が短く、満充電のバッテリーで1フライト15分程度というのが一般的。連続したほ場であれば、800ml/10a散布の薬剤であれば1フライトで1haを散布できる。しかし、頻繁にバッテリー交換と薬液補充を行わなければならず、作業効率は、無人ヘリの1/3程度である。
手動の場合は、安全に飛行させるための実技講習を受ける必要があり、その費用が30万円ほどかかる。また、無人ヘリと同様に年間の維持費用も発生するが、機体によってその額は異なるので、あらかじめ確認しておく必要がある。
無人ヘリとドローンで使用できる主な農薬の適用は表を参照。
無人ヘリ・ドローンで散布できる主な農薬一覧(クリックで拡大)
本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
【防除学習帖】
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】チャ、植木類、果樹類にチュウゴクアミガサハゴロモ 農業被害を初めて確認 東京都2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(1)どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(2) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(3) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(4) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
禍禍(まがまが)しいMAGA【小松泰信・地方の眼力】2025年1月22日
-
鳥インフル 英イースト・サセックス州など4州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】消費者巻き込み前進を JAぎふ組合長 岩佐哲司氏2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】米も「三方よし」精神で JAグリーン近江組合長 大林 茂松氏2025年1月22日
-
京都府産食材にこだわった新メニュー、みのりカフェ京都ポルタ店がリニューアル JA全農京都2025年1月22日
-
ポンカンの出荷が最盛を迎える JA本渡五和2025年1月22日
-
【地域を診る】地域再生は資金循環策が筋 新たな発想での世代間、産業間の共同 京都橘大学教授 岡田知弘氏2025年1月22日
-
「全日本卓球選手権大会」開幕「ニッポンの食」で応援 JA全農2025年1月22日
-
焼き芋ブームの火付け役・茨城県行方市で初の「焼き芋サミット」2025年1月22日
-
農のあるくらし日野のエリアマネジメント「令和6年度現地研修会」開催2025年1月22日
-
1月の「ショートケーキの日」岐阜県産いちご「華かがり」登場 カフェコムサ2025年1月22日
-
「知識を育て、未来を耕す」自社メディア『そだてる。』運用開始 唐沢農機サービス2025年1月22日
-
「埼玉県農商工連携フェア」2月5日に開催 埼玉県2025年1月22日
-
「エネルギー基本計画」案で政府へ意見 省エネと再エネで脱炭素加速を パルシステム連合会2025年1月22日
-
クミアイ化学工業と米国Valent社、水稲用除草剤エフィーダの米国開発で業務提携2025年1月22日