農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第48回 野菜の病害防除22020年4月17日
2.灰色かび病
(1)病原菌
ア.菌種
病原菌は不完全菌類に属する糸状菌(かび)であり、低温(18~20℃)を好み、多湿な環境が重なると多発生する。空気伝染する多犯性の菌で、多くの野菜や花き類に発生する。
イ.病徴
名前のとおり、病斑部に灰色のかびが発生するのが特徴である。作物体に侵入する能力は低く、害虫の食害痕や傷跡、やわらかい落花弁などを介して侵入し、最初水浸状に組織を軟化させ、その上に灰褐色の粉状の分生胞子を大量につくる。それが風などによって飛散し、蔓延していく。
ウ.被害
果実を中心に発生するので、直接的な被害が大きい。トマトなどでは、茎に入り壊疽症状を呈して収量を激減させたり、果実に黄白色の小斑点(ゴーストスポット)を起こして品質を低下させることもある。
(2)生活環
前作の罹病残渣などに形成された菌核(第一次伝染源)が発芽して分生胞子をつくる。この分生胞子が風に飛ばされるなどして飛散して作物に付着する。落下した花弁や傷口などから作物に侵入し、組織を腐敗させ、病斑上に新たな分生胞子を大量につくる。この分生胞子がさらに風や人に付着するなどして拡散し蔓延していく。一部は作物の残渣上で耐久体の菌核をつくり、次作の時の感染源となる。
(3)防除法
ア.耕種的防除
多湿が要因となって発病が多くなるので、できるだけ湿度を下げた栽培を心がける。また、感染を助ける落下花弁などはできるだけ取り除き、感染の機会を減らすようにする。
(1)密植を避け、葉や茎が密集しないように間隔を空けて風通しを良くする。
(2)敷きワラ、マルチを行って、土壌からの湿気の飛散を防ぐ。
(3)送風や換気を行い、湿度が上がらないように工夫する。
(4)落下した花弁や枯葉などを介して病原菌が侵入しやすくなるので、それらをできるだけ取り除く。
(5)第一次伝染源となる菌核を撲滅するために、病斑のついた作物残渣は圃場外に出して焼却処分(自治体によっては禁止している場合があるので注意)するとよい。
イ.化学的防除
(1)発生前に予防効果主体の農薬で定期的な防除
灰色かび病は一旦発生をし始めると拡散が早いので、うどんこ病と同様、発生前の予防散布を中心に組み立てる。もし、発生が認められたら、発生が少ないうちに治療効果のある農薬で、徹底防除する。
代表的な予防効果の高い農薬は、フルピカやダコニール、ベルクート、フロンサイドといったもので、これらを1作期の総使用回数制限に注意しながらで防除を組み立てる。その際、散布回数制限の無いクリーンカップ(微生物+銅剤)などを定期的に加えると、うどんこ病との同時防除も可能で、効率的かつ効果的な防除体系が可能となる。
(2)初発確認後は早期防除を徹底する
初発を確認したら、できるだけ早期に徹底した防除を実施する。その際、治療剤は、できるだけ発生が少ない時にほ場全体にまんべんなく散布する。なぜなら、灰色かび病の場合、1つの病斑からおびただしい数の分生胞子が飛散して圃場内のどこかに付着している可能性が高いからである。
(3)治療剤は系統の異なる農薬をローテーションで使用する
治療剤には耐性菌がつきやすい傾向にあるので、同一治療剤の連続散布を避け、系統の異なる農薬を輪番で使うようにするとよい。ただし、ベンゾイミダゾール系やジカルノキシイミド系、SDHI剤、ストロビルリン系薬剤の場合、耐性菌が発生している地域があるので、使用の前に地域の指導機関等に有効な薬剤を確認するようにしてほしい。
以下に主な灰色かび病剤の予防・治療の区別と残効性について整理したので参考にしてほしい(表1)。また、別表に農薬別作物別適用表(表2)を添付するので、薬剤選択の際の参考にしてほしい。ただし、その表は選択のためのものに限定し、実際の使用の場合は、農薬ラベルで使用方法を確認するようにしてほしい。
(4)第一次伝染減の菌核は土壌消毒剤
灰色かび病の第一次伝染減は、植物残渣などと共にほ場に残っている菌核である。
ほ場から菌核を手作業で完全に取り除くことは実際にはかなり難しいが、土壌消毒であれば、菌核を撲滅させることができる。
有効な土壌消毒法は、蒸気消毒、熱水消毒、太陽熱消毒、土壌還元消毒、土壌消毒(クロルピクリン、ソイリーン、ガスタード微粒剤など)の使用などであるので、他の病害虫との同時を狙って、適宜実施すると良い。
本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
【防除学習帖】
表1 主な灰色かび病防除剤(有効成分)一覧(クリックで拡大)
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