農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2020
【現場で役立つ農薬の基礎知識2020】春夏野菜の病害虫防除2020年4月28日
病害虫の防除を効率的に実施するには、病害虫の生育密度が低い初期を逃さないようにすることが肝要である。例年、病害虫が発生する時期にはほ場の見回り回数を増やすなどして発生初期を見逃さないように注意してほしいが、近年の温暖化等の影響で病害虫の発生が例年より早まったりすることがある。このため、例年通りとタカをくくっていると、防除適期を逃してしまうことがあるので、常に気象の変動に気を配り、必要に応じて早め早めに行動するように心がけたい。
春夏野菜の代表選手は、トマトやキュウリ、ピーマン、ナス、スイカやカボチャといった作物である。春先から初夏にかけては、まだ病害虫の発生も少なく、少ない労力で確実に防除できる時期でもあるので、この時期に防除を徹底して病害虫の密度を抑えておきたい。以下に、春から夏にかけての防除のポイントを整理してみた。
◆病害虫の密度を下げるために耕種的防除を併用する
耕種的防除法は、農作物や圃場の環境を、病害虫が活動しにくい、あるいは嫌がるような環境に変えることで効果を表す。一般的な例では、抵抗性品種の使用や輪作、黄色や青など害虫が集まりやすい色をした粘着資材、アブラムシが近づくのを嫌がるシルバーマルチなどがある。ただし、耕種的防除は、発生前や発生初期の病害虫の発生密度が低い時には効果を発揮できるが、発生密度が高まってくると耕種的防除だけでは防ぎきれないことも多い。このため、耕種的防除を病害虫の密度を下げるための補完的な手法と割り切り、これに加えて化学的防除(農薬)と組み合わせることで、より確実な防除が可能となる。
[耕種的防除の例]
(害虫)防虫ネット、有色粘着紙、シルバーマルチ、周辺雑草防除、手取り など
(病害)熱消毒、土壌還元消毒、拮抗微生物利用、有機物施用、輪作、抵抗性品種の利用、弱毒ウイルス、栽培時期の移行、適正施肥、雨よけ栽培 など
(雑草)機械除草、耕運、マルチかけ など
◆農薬は使用適期を逃さずに使う
農薬それぞれには、一番効果的に使える使用適期がある。その適期の幅は、有効成分によって異なるが、多くの場合、使用適期を逃すと十分な効果が出せない。このため、使おうとする農薬のラベル、解説技術資料などをよく読み、特にこの「使用適期」を十分に把握した上で使用するようにしてほしい。記載されている使用適期は、たくさんの薬効試験の積み重ねによって、一番効果が認められた時期を定めているので、これを守るだけでも、防除の効率は格段によくなるはずである。
例えば、「病害が発生する前に散布する」と書いてある場合、病害の発生後にいくら散布しても効果がなく、「害虫が小さい時に散布する」と書いてある農薬の場合、既に大きくなった害虫にはまず効かないと思ってよい。使用適期を逃した散布は、多くの場合、無駄な散布になってしまうので注意が必要だ。
◆春夏野菜の主な病害虫とその防除対策
【アブラムシ類】
アブラムシ類は春夏野菜の代表的な害虫だ。種類としては、ワタアブラムシやモモアカアブラムシなどの発生が多いが、特にワタアブラムシは、6月~8月が発生のピークとなり、年に10数回も発生する厄介な害虫である。モモアカアブラムシは、多くの作物に寄生し、4月上旬から5月下旬に発生が最も多くなる。
このように、何度も発生する(世代を繰り返す)害虫の場合は、1回の防除で収まることはないので、散布した農薬の残効期間を顧慮して、定期的な防除が必要だ。
また、アブラムシ類の厄介なところは、各種ウイルス病を媒介することだ。アブラムシがウイルスを保毒していると、吸汁する時にウイルスを作物にうつしてしまうのだ。
このため、ウイルス病を防ぐためには、アブラムシの防除を徹底して行う必要がある。農薬としては、有機リン系やピレスロイド系、ネオニコチノイド系の効果が高い。
ただし、有機リン系やピレスロイド系では薬剤抵抗性が発達しているので、地域で使える農薬の選択にあたっては、JAや指導機関等への確認を忘れないようにしていただきたい。
【コナジラミ類】
コナジラミ類は、春夏の果菜類によく発生する害虫であり、オンシツコナジラミやタバココナジラミ、シルバーリーフコナジラミといったものがある。
特に、シルバーリーフコナジラミは、トマト黄化葉巻病ウイルス(TYLCV)によって起こるトマト黄化葉巻病を媒介するので厄介な害虫だ。
この病害は、トマトの新葉が巻いたり、小葉化、黄化などの症状が起こり、株全体が萎縮し収量が落ちるといった被害を起こし、短期間に圃場全体に病原ウイルスを伝播して発病させるため、収量が激減し、世界中のトマト農家に恐れられている。
このため、トマト栽培においては、この病害の媒介虫となるコナジラミ類の徹底防除が最重要ポイントだ。
コナジラミ類の防除は、側窓・入口・天窓への防虫ネット(0.4mm目)の設置や苗での防除の徹底、植付時の殺虫粒剤の使用による初期防除、栽培終了後の施設の蒸しこみ処理、地域一斉対策(野良トマトの除去、周辺雑草の防除、家庭菜園への防除依頼など)などがある。これらの中で実施可能なことはできるかぎり多く実行したい。
オンシツコナジラミは登録農薬であればどれもうまく防除できるが、タバココナジラミやシルバーリーフコナジラミの場合は、それぞれに効く農薬が異なるので、JAや指導機関等に地域の情報をよく確かめるようにしてほしい。
公的機関の指導資料等によると、タバココナジラミに効果の高い薬剤は、サンマイトフロアブル、スタークル顆粒水溶剤、ベストガード水溶剤の3剤の効果が高く、次いで、モスピラン水溶剤やアドマイヤー顆粒水和剤やアクタラ顆粒水和剤、ダントツ水溶剤、ハチハチ乳剤などの効果が高い。
【うどんこ病】
ウリ科野菜(キュウリやスイカ、カボチャなど)に多く発生する病害で、主に葉の表面に白い粉状の病斑を発生させ、ひどくなると、葉柄やつるの部分にも発生し、だんだん樹が弱って収量が減ったり、実の品質が悪くなったりする。診断は容易なので、発生が認められたら、発生初期の頃から定期的に丁寧に防除したい。防除薬剤は、ダコニールやフルピカなど予防効果の高い薬剤を防除の中心にして、やや発生が増えてきたら、EBI剤など効果の高い薬剤を散布するとよい。ただし、うどんこ病は、EBI剤やストロビルリン系薬剤など複数の薬剤で耐性菌が発生しているので、薬剤の選定にあたってはJAや地域の指導機関に確認する必要がある。
【べと病】
主にキュウリなどのウリ科野菜に発生し、病気の広がり方が早く、樹勢が衰えて、商品性や収量を低下させる。病徴は、淡黄褐色の葉脈に囲まれた不整形病斑を発生させ、葉裏側の病斑を観察するとグレーの粉状の胞子を発生させることが特徴で、これを確認することで、容易に診断できる。
病原菌は、べん毛菌類と呼ばれる湿度を好む病原菌(かび)で、卵胞子という形で土中に潜み、降雨があると分生胞子を形成して、飛散し伝染していくため、梅雨時など降雨が多く、湿度が高い時に発生が多くなる。このような時期には敷き藁やマルチをするなどして、土の跳ね上がりを防ぐようにすると効果的だ。
この病害は、感染から発病までの期間が短いため、気付いた時には既にかなりの範囲で感染が広がっている可能性が高い。このため、べと病がいつも発生するような畑では、発生する時期の前から予防剤を定期的に散布し、もし初期病斑を見つけたら、できるだけ早く治療剤を入れた徹底防除を行うようにしてほしい。散布の際には、葉の裏側にある病斑にもかかるように、丁寧に散布するのがコツである。
薬剤防除は、予防効果に優れ残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果も有する薬剤を使用して、病勢を止めるようにするとよい。ただし、治療剤の多くは耐性菌が発生しており、地域によっては効果がない場合が多いので、予防効果のある薬剤の定期的散布を心掛け、できるだけ治療剤を使用しない防除を心掛けたい。その場合、使用回数制限の無い銅剤や銅剤と微生物の混合剤(クリーンカップ)などを上手に活用すると良い。
【疫病】
主にトマトなどナス科野菜に発生する病害で、植物体の様々な部位に発生し、葉では暗褐色から灰緑色の水浸状の病斑を形成し、乾燥した被害部分は黒褐色になる。果実に発生した場合は、商品価値の低下が著しくなるので、果実に感染させないよう早めの防除を心がけてほしい。
べと病と同様に湿度を好む病害なので、無駄な葉を取るなどして通風をよくし、できるだけ湿度を下げるようにするとかなり発生を減らすことができる。薬剤防除は、予防効果に優れて残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果も有する新規薬剤を使用して、病勢を止めるようにするとよい。
しかし、べと病と同様に治療剤には耐性菌が発生して使用できない場合が多いので、予防効果のある薬剤の定期散布を心掛け、できるだけ治療剤を使用しないで済むような防除を心掛けたい。その場合、使用回数制限の無い銅剤や銅剤と微生物の混合剤(クリーンカップなど)を活用すると良いが、ナス科の場合、品種によっては銅の影響を受けやすい場合もあるので、使用前にメーカーなどに確認するようにしてほしい。
下の表に、春夏野菜で使用される主な農薬を適用病害虫別に整理した。
選択することを主眼にした表であるため、適用内容など省略している部分も多い。このため、実際の使用にあたっては、農薬ラベルをきちんと確認し、適用作物、使用時期、使用方法を確実に確認して正しく使用するようにしてほしい。
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