農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2020
秋冬野菜の病害虫防除【現場で役立つ農薬の基礎知識2020】2020年7月29日
『適期防除』を心がけよう
本年は梅雨らしからぬ集中豪雨が続き、九州、西日本を中心に大きな被害を及ぼした。被災された方々にお見舞い申し上げるとともに、一日でも早い復興を祈る次第である。
このように雨が多いと、雨媒伝染性の病害も多くなり、特に風が伴うと傷口から病原菌が入りやすくなるので、早めの対処が必要だ。また、夏を過ぎると、オオタバコガやハスモンヨトウなどの大型チョウ目害虫の活動が活発になるので、早めに対策をしておきたい。以下、秋冬野菜の主要な病害虫防除のポイントについて整理したので参考にしてほしい。
※この記事は2020年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。
適期を見極める
秋冬野菜に限らず、病害虫の発生が少なく、害虫の場合は小さな幼虫の時期の防除が効率的に被害を抑えることができる。このような時期を逃さず防除するのが"適期防除"だ。
適期防除の例をあげると、小さい害虫にしか効かない農薬の場合は害虫が小さい時が"適期"であり、病害が発生する前に散布しなければ効かない農薬の場合は病害の発生前が"適期"である。この防除適期を過ぎると、いくら優れた農薬でも十分に効果を発揮することができない。病害虫も早期発見、早期防除が基本だという所以だ。
このため、ほ場をよく観察し、病害虫の発生状況をよく把握するよう心掛けてほしい。
その上で、毎年発生する病害虫であれば、防除暦などが示す防除時期に確実に散布し、発生が例年と異なる場合には、発生状況に応じて早めの対処を行うようにしてほしい。
年々気候が変化する昨今では、中々病害虫の発生状況の変化をつかむことは難しい作業かもしれないが、農家同志の情報交換や発生予察情報などを積極的に入手するなど正確な情報を把握するようにしてほしい。
秋冬野菜の問題病害虫とその防除対策
◆オオタバコガ
オオタバコガは、盛夏から初秋にかけて被害が大きくなり、ナス科やウリ科、アブラナ科、レタスその他多くの野菜や花卉を食い荒らす非常にやっかいな害虫である。オオタバコガは、とにかく発生の初期を見逃さずに確実に防除することが重要だ。そして、発生期間を通じて次から次へと発生してくるので、発生が始まったら発生期間を通じて定期的な薬剤散布が必要だ。特に果菜類では、幼虫が果実に喰い入る前に確実に防除できるよう、発生初期からの定期防除が不可欠だ。
効果のある薬剤としては、フェニックス顆粒水和剤やアファーム乳剤、スピノエース顆粒水和剤、トルネードエースDF、プレオフロアブル、プレバソンフロアブル5の評判がよい。新規薬剤では、速効性に優れ、効果が高いグレーシア乳剤が登場し、注目されている。
気候変動等の理由により発生が読めない場合は、セル苗灌注処理法が効果的だ。この方法は、育苗期に薬液を灌注処理するだけで、本圃に移植してからも苗がまだ小さい時期の防除作業が省略でき、初期の被害や苗による持ち込みを防ぐことができる。キャベツやレタスなどの苗を植え付けてから1カ月近くも効果を発揮するので、生育初期の被害を回避することができる。先に紹介した薬剤には、この処理法ができる薬剤も多いのでセル苗移植の場合は、一度試してみると良い。
◆ハスモンヨトウ
年に5~6回も発生し、施設内なら越冬もできるので、冬でも発生することもある。多食性で、ありとあらゆる作物を食い荒らす大変厄介な害虫である。時期的には、8月~10月の被害が特に大きいので、これからの季節は最重点で防除に取り組んでほしい。
この害虫の厄介なところは、6回ほど脱皮して蛹・成虫となる際に、齢期が進むにつれて薬剤が効きにくくなることである。特に最終の6齢幼虫だと防除が難しくなる上、食害量も多くなるので大きくなる前にしっかりとした防除が必要である。
このため、薬剤がよく効く幼虫がまだ小さい時期からの徹底防除が重要で、発生初期からの発生期間を通じた定期的な防除が必要となってくる。
指導機関等の資料で防除薬剤としての評価が高いのは、フェニックス顆粒水和剤、プレオフロアブル、プレバソンフロアブル5の3剤であり、古くからの薬剤では、アファーム乳剤、オルトラン水和剤、コテツフロアブル、ジェイエース水溶剤、ランネート45DF、ロムダンフロアブルなども高評価である。新規のグレーシア乳剤がオオタバコガ防除と同様に注目されている。
◆ナモグリバエ
名前のとおり葉にもぐりこんで葉の内部を食害して絵かき症状を示す害虫である。多くの葉菜類に寄生し、特にレタスでは、心葉を加害し、最悪の場合、枯死するなど大きな被害を起こす要注意な害虫である。常発地域では、育苗期や発生初期の徹底した防除が必要である。
防除薬剤では、ダントツ粒剤やモスピラン粒剤などの植穴処理やリーフガード顆粒水和剤やアファーム乳剤などの散布が効果高い。特に植え付け初期の被害を防ぎたい場合は、ジュリボフロアブルなどを育苗期後半にセルトレイに処理すると効率の良い防除ができる。
チョウ目に効果のある殺虫成分一覧(クリックでPDFをダウンロード)
◆ネコブセンチュウ
サツマイモネコブセンチュウによる被害が多く、作物別ではトマトやサツマイモでの被害が大きい。被害は、土壌中にいるネコブセンチュウが野菜の根に寄生して根にコブを形成させ、根の機能を低下させることによって起こり、生育不良や葉の黄変などといった被害を起こす。
ネマトリンのような土壌処理粒剤は、センチュウの密度がまだ少ない時には効果が高く、散布労力も少なくて済む。しかし、発生密度が多くなってくると土壌処理粒剤だけでは防ぎきれなくなるので、そういった場合には、ソイリーンなど土壌消毒剤による徹底防除が必要になってくる。
しかし、センチュウは土壌の深いところに生存している場合もあり、根絶させるのは難しい。このため、対抗植物「マリーゴールド」の作付けや太陽熱消毒など耕種的防除と組み合わせて総合的な防除が行うように心がけたい。
◆アブラムシ
多くの野菜に寄生し、吸汁被害やウイルス媒介などの被害を起こす。レタスではモモアカアブラムシとジャガイモヒゲナガアブラムシが寄生するが、両主ともに寄生する作物が多く、様々な野菜に寄生する。
比較的防除しやすい害虫で、モスピランやダントツ、スタークルなどネオニコチノイド系剤の効果が高く、粒剤の土壌処理や薬液散布など用途に合わせて使用できる。その他、トレボンなどピレスロイド剤の効果も高い。また、フーモンなど気門封鎖剤は、収穫前日まで使用でき、使用回数制限の無いことからローテーションの1剤として有効活用したい。
◆根こぶ病
アブラナ科作物の根に、大・小不揃いのコブをつくり、根の機能を低下させ、生育不良やひどい場合には枯死させる病害である。病原菌は、かびの仲間ではあるが、耐久体をつくって土中に5~6年という長期間生存する厄介な病害だ。そのため、アブラナ科作物を連作すると病原菌が土壌中に増え続け、なかなか減らすことができない。土壌水分が多く、酸性圃場の場合に発生が多くなるので、排水をよくして土壌の水分を下げ、石灰窒素や石灰の施用による土壌のアルカリ化を図ることが防除の基本だ。
防除薬剤には、作条土壌処理もしくは全面土壌処理を行うものにネビリュウやネビジン粉剤、フロンサイド粉剤やオラクル粉剤などがある。
また、セル苗灌注によって定植初期の根こぶ病感染を防ぎ、被害を少なくできる方法がある。これは、散布の手間が省け、使用する薬量も少なくて済むので省力的な方法だ。
◆べと病
葉に、黄色~淡褐色(ハクサイ)や淡黄緑色(キャベツ)、淡黄褐色(ブロッコリー)の葉脈に囲まれた不整形病斑をつくり、秋~冬の多湿時に発生が多くなる。
病原菌はべん毛菌類と呼ばれる湿度を好むカビで、感染から発病までの期間が短く、気付いた時には既にかなりの範囲で病気が広がっていることが多い。そのため、ジメジメした時期など発生が多くなる時期には、丁寧に観察し、病斑が見つかったら速やかに防除するようにしたい。
また、どの病害もそうだが、病斑を見つけてから防除するよりも、病気が発生する前の予防的散布が最も効果が安定するので、毎年発生するような圃場では、発生前から定期的な予防散布を行う方が効率的である。
散布の際には、葉の裏にもしっかりと薬剤が届くよう丁寧に散布し、特に降雨など湿度が増す恐れがある場合などは、早め早めに薬剤散布を行うことを心がける。
薬剤防除は、予防効果に優れ残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果が期待できる薬剤(プロポーズ顆粒水和剤やレーバスフロアブル、アミスターオプティフロアブルやリドミルゴールドMZなど)を使用して、病勢を止めるようにするとよい。ただし、治療効果が期待できる薬剤は、耐性菌発生のリスクがあるので、防除時期の前に地域の指導機関に確認するようにしてほしい。
◆疫病
べと病と同様に、べん毛菌類に属する糸状菌(かび)が起こし、低温(18~20℃)を好むものと高温(28~30℃)を好むものがある。その適温と多湿な環境が重なると多発生する。、葉には、はじめ水浸状の不明瞭な灰緑色の斑点を生じ、次第に拡大して暗褐色の大型病斑となる。病斑部には、湿度が高い時には白いかびを生じる。果実には茶褐色~暗褐色の病斑が生じ、やがて腐敗する。
葉、茎、果実とどの部位にも発生し、生育不良、枯れあがり、品質不良の原因となり、収量、品質に大きく影響する。
多湿が要因となって発病が多くなるので、できるだけ湿度を下げた栽培を心がける。また、土壌の跳ね上げや降雨など水の動きにのって感染が拡大するので、水の動きを少なくする。敷きワラ、マルチ、雨よけ施設などを施すと土壌からの跳ね上がりを防ぎ、発生が少なくなる。第一次伝染源を減らすよう、病斑のついた作物残渣は圃場外に出して処分するか、土壌消毒が効果を示す。
疫病は、一旦発生し始めると病勢が早く、一気に蔓延するので、気づいた時には既にかなりの面積で発生もしくは潜伏感染していることが多いので、発生前の予防散布を中心に組み立てる。そして、一か所でも発生が認められたら、発生が少ないうちに治療効果のある農薬で圃場全体を徹底防除すると良い。
代表的な予防効果の高い農薬は、ジマンダイセンやペンコゼブなどのマンゼブ剤やダコニール、フロンサイド、アリエッティであり、これらを1作期の総使用回数制限に注意しながらで防除を組み立てる。その際、散布回数制限の無い銅剤も定期的に加えると効率的な防除体系が可能となる。
治療剤には耐性菌がつきやすい傾向にあるので、同一治療剤の連続散布を避け、系統の異なる農薬を輪番で使うようにするとよい。その場合、治療剤単独での使用は避け、治療剤と作用性の異なる薬剤との混合剤の使用を徹底する。
野菜のべと病・疫病 主な防除剤特性一覧(クリックでPDFをダウンロード)
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