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農薬:防除学習帖

農薬の上手な施用法5【防除学習帖】第85回2021年1月15日

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農薬は、その有効成分が病原菌や害虫、雑草に直接作用してはじめて効果を現す。その効果を発揮するためには、有効成分を何等かの方法で作物に付着または吸収させる必要がある。特に、水に希釈して散布する水和剤や乳剤、液剤、フロアブル剤などは作物への付着具合が防除効果に大きく影響する。今回は、この水で希釈して使用する製剤を効率的に付着させる方法について整理してみる。

1.薬液の作物への付着とは?

そもそも薬液が作物に付着するとは、噴霧ノズルから噴出された平均200~300ミリリットルの農薬の有効成分を含んだ小さな水滴が作物の表面にくっつくことをいう。そうして、有効成分が作物の葉や茎や花などの表面を覆ったり、作物組織の内部に浸透したりして、病害虫や雑草に効果を示すことになる。

ただ、この付着は一筋縄にはいかない。なぜなら、作物の表面は、ワックス層で覆われていたり、産毛が生えていたりと、とにかく水をはじきやすいものが多いからである。

このことは、イネの葉やネギの葉を思い浮かべれば容易に想像できるだろう。なので、普通の薬液は、このような濡れにくい作物の場合は散布しても大部分が流れ落ちるばかりで、作物上に残ってくれるのはごくわずかということになってしまう。

2.作物の付着向上に展着剤を正しく使用

そこで登場するのが展着剤である。展着剤は、界面活性剤という油に溶けやすい部分と水に溶けやすい部分の2つを併せ持つ成分が主成分であり、水滴が付着しにくい作物表面に油に溶けやすい部分がくっつき、そのもう一方の水に溶けやすい部分が薬液の水滴にくっついて、水をはじきやすい作物を濡れやすくしてくれる。この性能を湿展(ぬれ)性という。

展着剤に限ったことではないが、展着剤に用途どおりの最高の性能を発揮させるためには、用法・用量をきちんと守ることである。

なぜなら、展着剤のぬれ性は、展着剤の量が少ないと十分に発揮できないし、逆に量が多すぎると、逆に薬液がしたたり落ちるようになって付着量が少なくなる。展着剤は濃ければいいというものではなく、指定されたほど良い量というものがあることをよく理解しておいてほしい。

3.作物による「ぬれ性」の違いを考慮して使用

さらに、作物の表面が濡れやすいかどうかによって展着剤の使用方法は異なる。ぬれやすい作物の場合は、水とくっつきやすい性質を持っているので、油とくっつく性質をもった展着剤を加えると逆に薬液が作物をはじいて(水と油の関係になる)したたり落ちて付着が悪くなる。そのため、展着剤の場合は、使用濃度を誤ると展着効果どころか、かえって付着を悪くしてしまうことがあるので、ラベル記載の用法・用量を確実に守ることが基本だ。

作物のぬれ性と展着剤の要否の関係を下表に示すので参考にしてほしい。

(1) よくぬれる作物の場合

よくぬれる作物はインゲンやサツマイモ、リンゴやミカンなどの果樹に多いが、これらの作物の場合は、展着剤を使用すると、ぬれが良くなりすぎて薬剤が流れ落ちるため付着が悪くなる。特に乳剤の場合は、製剤の中に界面活性剤が1割程度含まれるので、乳剤を展着剤無しで散布しても、展着剤を加用したのと同じことになり流れ落ちやすくなる。このため、界面活性剤を多く含む乳剤では、本来の有効成分の効果が十分に発揮できない場合が多い。

(2) 中程度ぬれる作物の場合

中程度にぬれるものは、イチゴやトマト、メロンなど果菜類に多い。この場合、乳剤を使用する場合は、乳剤に含まれる界面活性剤で展着効果があるため展着剤の添加は不要であることが多い。対して乳剤以外を使用する場合は、少量の展着剤の添加が必要になることが多い。いずれにしても、展着剤に貼付のラベルをよく確認して、作物や添加量など用法・用量を確実に守って使用する。

(3) ぬれが悪い作物の場合

ぬれが悪い作物は、イネやムギ類、ダイズ、ネギなど、表面がワックス層で覆われツルツルしているものが多い。ぬれが悪い作物の場合は、基本的に展着剤が必要となる。乳剤は、製剤の中に界面活性剤を多く含むが、それだけでは足りないことが多いので、乳剤であっても展着剤を加用すると付着がよくなる。いずれにしても、展着剤に貼付のラベルをよく確認して、作物や添加量など用法・用量を確実に守って使用する。

作物のぬれ性と展着剤の要否

3.展着剤の種類

界面活性剤にはいくつも種類があり、薬液の中に有効成分が均一になる乳化や分散性を向上させるもの、作物表面への固着力を強化するもの、作物体内への浸透力を高めるもの、水和剤など鉱物質キャリアの製剤が水の中で均一になるのを助ける懸濁性を高めるもの、希釈液をつくる際に発生する泡を抑える消泡効果を示すものなどがある。

つまり、展着剤がどのような性能を持っているか、どんな用途で使うものかは、展着剤に含まれる界面活性剤の種類によって決まる。通常、展着剤のラベルには、「濡れ性向上」などと目的が明記されているので、ラベルをよく確認して使用すること。

一部補足すると、固着性の展着剤は、樹脂エステルやパラフィンを主成分として、薬液の固着性をよくして長く作物に付着する働きをする。銅剤やマンゼブ剤など保護殺菌剤などによく使用され、薬剤の残効を長くすることができる。

また、薬液の浸透性を高める効果に優れるものを、機能性展着剤と呼んでおり、商品名ではアプローチBIやニーズ等である。この機能性展着剤は、高濃度で使用して、農薬成分の作物体内への浸透力を高める機能を示し、散布後の雨に強くなったり、残効が長くなったりといった効果がある。ただし、農薬成分と作物との組み合わせによっては、成分が多く浸透することによる薬害が生じることもあるので、使用できる作物はじめ、用法用量に十分に注意する必要がある。

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