農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2021
雑草のないきれいな田んぼで豊かな収穫を~水稲除草剤の上手な使い方【現場で役立つ農薬の基礎知識2021】2021年4月6日
水稲栽培において雑草は、肥料分の収奪、光の競合、水の競合、生育場所の競合などによって水稲の生育に影響を与え、水稲の収量・品質を低下させることによって経済的被害を引き起こす。
この厄介な雑草を取り除く手段が除草剤であり、稲作労力の大きな部分を占める除草作業を大幅に軽労化できる資材である。現代のように、水稲作の大規模化が進むと、除草剤の果たす役割はさらに大きくなり、より効果が高く、施用する労力も軽く済むものが望まれている。そういった要求に応えるように、水稲除草剤は年々進化して高性能な有効成分や製剤が開発され、除草作業は、一昔前よりさらに軽い労力でより短時間に行えるようになって水稲栽培の労力軽減に大きく貢献している。
ただ、水稲除草剤は、有効成分の違い(枯らせる雑草の違い)や、使用時期、剤型の違いによって多数の製品があるので、自身の水田の状況(生えてくる雑草の種類、水持ち具合、土質など)に合わせて選択する必要があり、正しく使わないとその能力を十分に発揮できないことをよく理解しておく必要がある。
以下の水稲除草剤の上手な使い方について整理してみたので、参考にしてほしい。
ほ場の準備
水稲除草剤を上手に使うには、大きく分けて五つのポイントがある。それは、ほ場の準備、適正な植え付け、適期散布、水管理の徹底、多年生難防除雑草の防除である。
これらは、どれ一つ欠けても、十分な除草効果が期待できなくなるので、常にこのポイントを心掛けて、雑草の無いきれいな田んぼを実現し、豊かな収穫に結び付けてほしい。
除草剤の効果を安定させるためには、丁寧な耕起・代かきを行って、田面を均平にすること、適正な水深を保つことが重要だ。除草剤は、水田の水の中で拡散し、徐々に水田土壌表面に処理層と呼ばれる除草剤の成分で覆われた層をつくって除草効果を発揮する。
もし、土壌表面が露出していたり、水深が浅かったりといった状態で除草剤を散布しても十分な処理層ができず、結果、期待した除草効果が発揮されなくなる。
また、丁寧な代かきで戻りの良い田面になっていれば、植え付けた後の稲の生長点が除草剤の処理層から守られ、薬害の回避にもつながるし、すでに発生している雑草を埋没・枯死させることもできる。
このように、丁寧な耕起・代かきによる田面の均一化は、色々なメリットがあるので確実に実施するようにしてほしい。
その他、水持ちを悪くする小動物などの穴やあぜからの漏水は除草剤の効果を低下させる要因になるので、あぜ塗りや畦畔シートの使用により確実に行うとより良い。
適正な植付け
水稲苗の生長点は茎の根っこに近い基部にある。この部分がきちんと土の中に入るように丁寧に植え付けることが基本だ。もし、代かき不良による浮き苗や、極端な浅植えが起こると除草剤の薬害が発生しやすくなるので、植え付け深度には十分な注意が必要だ。
また、ていねいに耕起・代かきを行っても、代かき後に長期間放置すると植え穴の戻りが悪くなるので、代かきから田植えまでの期間にも十分注意してほしい。
適期散布
どんな水稲除草剤にも、使用適期がある。これは文字通り、除草剤が持ちうる能力を最大限に発揮できる時期であり、この時期をはずして使用しても、効果が甘かったり、雑草の取りこぼしが起こったりする。
近年は、温暖化により雑草の発生が例年よりも早くなり、いつもと同じ時期に散布しても使用適期を外し、残草が出てしまうという例が多くなっている。このため、確実に除草効果を得るためには、何よりも雑草の発生状況をよく確認して、使用適期を外さないことが重要だ。
除草剤には、枯らすことができる雑草の大きさ(葉令)に限界があり、限界を超えた雑草に除草剤をまいても、残念ながら十分な効果を発揮できず取りこぼしてしまう。
また、水田内でも雑草の生育速度にばらつきがあるので、水田全体をよく観察して、水深の浅いところなど、生育の進んだ雑草を目安にして適期を逃さずに散布するようにしてほしい。
水管理の徹底
水稲除草剤は水を介して土壌表面に処理層をつくるので、その処理層がしっかりと作られるまでは水深をきちんと保つ必要がある。このため、除草剤散布時には、水口・水尻をしっかり止め、散布後7日間は落水、掛け流しを行わないようにしてほしい。
これは、環境影響の回避の面からも重要なポイントなので、必ず守るようにしてほしい。
もし、自然落水して田面が露出するようなら、せっかくできた土壌表面の除草剤の層を壊さないよう、ゆっくり入水する必要がある。
近年、ジャンボ剤や豆つぶ剤のように自分で拡散する除草剤が増えているが、このような除草剤を使う時には、除草剤散布時の水深には特に注意してほしい。
ジャンボ剤や豆つぶ剤は、水深が浅いと、薬剤の拡散が不十分となったり、除草剤の投入地点に多く除草剤成分が集中し坪状薬害発生の原因となったりするので、5~6㌢の水深を確保してほしい。また、水面に発生する藻類も除草剤の拡散を妨げるので、藻類発生前に確実に散布するようにすること。
多年生難防除雑草の防除
オモダカ、クログワイなどの多年生といわれる雑草は、土壌中の塊茎と呼ばれる地下茎から、しかも土中の深いところからも発生する能力を持っている。このため、水稲の栽培期間を通じて次から次へと発生し、防除が難しい雑草と呼ばれている。
この多年生雑草を効率よく防ぐには、効果が長く持続する除草剤を早めに散布しておくのが鉄則だが、発生が多い水田などでは、通常の一発処理除草剤の一回散布のみでは除草しきれないことがある。
このような時には、迷わず後期剤との体系処理を行うようにしてほしい。
また、多年生雑草が多すぎて困っている場合には、刈り取り後に再び発生してきた多年生雑草に対して、根まで枯らす効果の高いラウンドアップマックスロードなどの茎葉処理除草剤を散布するとよい。
茎葉処理除草剤の有効成分が多年生雑草の茎葉を通じて地下の塊茎まで届き、地下の塊茎を枯らしたり、塊茎の発生量を減らしてくれたりするので、翌年の多年生雑草の発生密度を減らす効果がある。
この技術を数年続けると、多年生雑草の発生量を減らすことができるので、多年生雑草にお困りのようであれば、ぜひ一度お試し頂きたい。
近年普及している田植えにより安定した除草効果が得られる省力的な散布方法である。ただし、田植え時は苗が弱く、水稲にとって薬害の出やすい時期であることや残効の短い除草剤では残効切れによる効果不足や取りこぼしの原因となることなどに十分に注意してほしい。
抵抗性雑草
水稲除草剤は、スルホニルウレア系成分を含む一発剤(以下SU剤)の普及によって大きな進化を遂げ、劇的な除草作業の軽減化が図られるようになった。
ところが、このSU剤が広く使われ続けた結果、アゼナやコナギ、イヌホタルイなどで抵抗性雑草が出現するようになり、現在では全国的に発生している。
その後、これらの抵抗性雑草対策を施した除草剤が登場して一定の成果が得られたが、近年では、難防除雑草のオモダカでもSU剤抵抗性雑草が発生し問題となった。
加えて、クサネムやアメリカセンダングサ、タウコギ、イボクサ、アシカキなど畦畔から侵入する雑草の害も増加し、これらは従来のSU剤の効果が不十分なことが多いので注意が必要だ。
2010(平成22)年以降、SU剤に代わり得る広葉剤としてテフリルトリオンなどの白化剤や新規ALS阻害剤が次々と登録され、抵抗性雑草や特殊雑草にも効果を発揮しているので、用途に合わせて適切な除草剤を選ぶようにしてほしい。
また、テフリルトリオンなどの第2世代の白化剤は、SU抵抗性雑草の他クサネムなどの特殊雑草(生育初期に限る)に対しても高い効果を示す特徴がある他、飼料用米品種に薬害を発生させる場合があるという他と異なる特性もあるので注意する。
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