農薬:防除学習帖
果樹の防除11【防除学習帖】第100回2021年5月7日
前回までに生育期~収穫期、土壌病害の防除について紹介した。
果樹防除の最後に前回までに紹介した以外に注意が必要な病害を紹介する。
1.ウイルス病
ウイルス病は、細菌よりもさらに小さな病原体が起こる病害で、一旦感染すると治療する薬剤はなく、完全に抜き去り焼却処分するしか撲滅の方法がない。
このため、果樹のウイルス病は、発生させない、持ち込まないのが原則となる。
(1) 果樹のウイルス病の特徴
果樹のウイルス病は全身感染し、全身にウイルスが存在する。このため、感染した樹に接ぎ木したり、穂木などに使用すると確実に伝染する。また、ウイルスを持っているが症状が出ない潜伏感染の割合が野菜などに比べて多く、見た目無病の苗木でも実はウイルスを持っていたなどということも起こり得る。
このため、万が一ウイルス病が発生したら、苗木の生産地も追跡しておく必要がある。
症状は全身に発生する。葉や枝では、退緑(緑色が薄くなる)や黄化、萎黄、奇形、組織の枯死(えそ斑点、木質部の凹み、接ぎ木部の亀裂など)が起こる。
花や果実では小玉化したり、斑入り、奇形、さび果が起こり、樹木全体では、萎縮や矮化(背丈が小さくなる)などが起こる。
(2) 果樹のウイルス病の伝染方法
果樹のウイルス病は、全て接ぎ木伝染する。穂木か台木がウイルスに侵されていれば、必ず健全な接がれた方が100%感染する。
虫媒伝染はほとんど起こらず、ブドウ萎縮病がヨコバイによって媒介されることが知られている程度である。
土壌伝染は、土壌線虫によって起こるがこれの例も少なく、ブドウのファンリーフ病が知られている。
その他、核果類(モモやアンズ、オウトウなど)では、花粉の中にウイルスが高濃度で存在し、花粉で伝染するものがある(リングスポットウイルスなど)。
(3) ウイルス病の防除法
「ウイルス病に罹った樹を治す手段は、薬剤を含めて無い」ということをよく理解しておく必要がある。このため、栽植する場合は、無病の穂木を探して使用するようにする。心配ならば、ウイルス検定を行って無病を確認すると良い。ウイルス検討については、近くの農業試験場などに問い合わせると良い。また、試験場によっては、生長点を培養したウイルスフリー苗を供給している場合があるので、事前によく確認すること。
2.貯蔵病害
(1)貯蔵病害の特徴
収穫後の保管庫の中で発生する病害の総称である。落葉果樹では数が少ないが、カンキツでは複数の貯蔵病害がある。一般に、収穫して貯蔵後に果実の活性が弱ると病原菌が動きだし病害を起こす。
(2)主な貯蔵病害
表に示したとおり。代表的な病害は、モモのホモプシス腐敗病、カンキツ類の青かび病、緑かび病、軸腐病、黒腐病などである。(表参照)
(3) 貯蔵病害の防除法
果実の傷などから侵入することが多いので、収穫や運搬中は果皮に傷をつけないように注意する。傷が多いと腐敗も多くなる。
カンキツ軸腐病の病原菌は、黒点病や小黒点病と同じ病原菌であるので、それらの病害を生育期から収穫期前までにしっかりと防除し、果実に残る病原菌が無いようにする。
薬剤防除は、収穫後に使用できる薬剤は無いので、収穫前までに防除暦に従い確実に防除する。
貯蔵中は、4~5℃、湿度85~90%を保つようにし、過湿な部分ができないように貯蔵庫での詰め込みすぎに注意する。腐敗果は発見したら速やかに取り除くように点検を定期的に行う。
3.果樹防除まとめ
繰り返しになるが、果樹では、ほとんどの樹種に防除暦が整備されており、それに従って防除を行えば一定の防除効果が得られる。防除暦に記載の注意事項や防除適期を確実に守ることで、当初期待していた効果が期待できる。これが原則である。
ところが、近年は気象変動などにより、病害虫の発生が例年と異なる場合もあるので、適宜、病害虫予察情報などに気を配り、臨機防除などに備えるようにしてほしい。
発生が早まった場合や新規の侵入病害虫が発生した場合などには、特殊報と呼ばれるものが出されるので、これらを含めて指導機関の情報には常に注意するようにしてほしい。

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