農薬:防除学習帖
IPM防除(3)【防除学習帖】第104回2021年6月4日
防除学習帖では、「みどりの食料システム戦略」で重要な革新的技術として取り上げられたIPM技術について、その具体的な技術の内容を紹介しており、前回は生物的防除病害について紹介した。今回は、害虫防除に使用される生物的防除法を紹介する。
1.害虫防除に使用される生物農薬
害虫防除に使用される生物農薬の有効成分には、天敵や細菌、糸状菌といったものがある。
いずれも害虫防除効果を示す有効成分は、生き物あるいは生物由来のものであるので、害虫防除効果を最大限に発揮するには、その有効成分が活動しやすい環境を整えてやる必要がある。その"活動しやすい環境"については、それぞれの商品のラベルや説明書に詳しく書かれているので事前によく読んで理解した上で使用してほしい。
主な生物農薬を対象害虫別に別表に整理したので参考にしてほしい。以下、有効成分の分類ごとに使用上の注意点を整理してみた。
(1)天敵を有効成分とするもの
文字通り、害虫の天敵を活用して製品化したものである。これらは生物農薬であり農薬として国の登録を受けている。これに対し、自然発生する在来天敵を利用する場合があるが、それは農薬ではないが農薬的な効果を示すものとして特定防除資材(むかし、特定農薬と呼ばれていたもの)として農薬とは区別されている。
両者の違いは、防除の成否が自然任せになるか、自分でコントロールできるかにある。在来天敵は発生が自然にお任せで、思うように発生してくれず、害虫の方が多くなって被害が大きくなることもある。これに対して、生物農薬の天敵は、放飼時期や量を人間がコントロールすることができるので、害虫防除に適した時期に処理できて一定の防除効果を得ることができる。
もちろん天敵が一番活動しやすい環境(温度、湿度、餌となる害虫の量)を見極めてやる必要があるが、上手に使えば、化学農薬の散布回数や薬剤抵抗性害虫の発生リスクを低減できる。近年は、天敵農薬を使用した防除成功例も増えてきたので、それらを参考にしてほしい。
天敵も餌を食べないと生きていけないので、餌となる害虫がある程度いないと生活できない。この餌の数が少ない時に天敵の生活の場を提供するのが、バンカーシートと呼ばれるもので、利用できる天敵に限りがある(スワルスキーカブリダニなど)が、天敵を安定放飼し、防除効果も安定するので、利用できる場合は一度試してみるとよい。
(2)糸状菌を有効成分にするもの
これらは、害虫に感染して発病させて殺虫効果を示すものである。基本的に糸状菌の胞子を製剤化しており、それを害虫の体に付着させ感染させないと効果が出ないので、散布の場合は、害虫の体に付着するように散布する。この際に注意することは、使用法を正しく守ることである。例えば、パイレーツ粒剤は、アザミウマが土の中で蛹になることを利用して、土中から出て作物に移動する際に感染するようにあらかじめ土壌に粒剤を撒いておくと高い効果を発揮する。
このように、生物農薬の使用法は、害虫の生態に合わせて一番虫体に付着させることができる方法と時期を考慮して作られていることをよく理解してほしい。
(3)細菌を有効成分にするもの
細菌を使用した生物農薬には、BT剤がある。
BTとは、バチルス チューリンゲンシスという細菌の名前の頭文字を取ったもので、もともとはカイコの卒倒病の病原菌である。BT菌は、アルカリ性であるチョウ目害虫の消化管内で毒となる結晶タンパクをつくる。この結晶タンパクを食べたチョウ目害虫は食中毒を起こし、やがて死に至る。
BT剤には、死菌剤と生菌剤があり、死菌はBT菌を培養し死滅させて結晶タンパクを集めたもので、生菌は、菌自体が生きており、散布後も作物体上で生き続けて結晶タンパクを作り続ける。このため、効果の持続性と安定性で生菌に分があるようである。バチルス菌は納豆菌の仲間で、作物の表面で生きていける性質を持っていることを利用したものである。
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