農薬:防除学習帖
IPM防除8【防除学習帖】第109回2021年7月9日
防除学習帖では、「みどりの食料システム戦略」で重要な革新的技術として取り上げられたIPM技術について、その具体的な技術の内容を紹介しており、前々回病害、前回害虫の物理的防除を紹介したが、今回は、雑草の物理的防除法を紹介する。
雑草の物理的防除法は、表にあるとおり手取り除草はじめ、病害虫よりもイメージしやすいものが多い。以下、詳細を紹介する。
1.雑草の物理的防除
(1)手取り除草・草刈鎌
病害虫と同様に、もっとも単純な物理的防除は手取り除草である。文字どおり、雑草を手で抜き去る方法であるが、地上部だけを取り除いても根が残っていると再び再生してくる雑草種も多いので、できるだけ根も残さず、それこそ根こそぎ抜き去るようにしたい。根こそぎ抜こうとすると力もいるし、時間もかかるので効率が悪いが、手取りだけで除草しようとすれば根は残さない方が良い。
ただ、水田の強害草であるクログワイなど地下茎で増える多年生雑草などは、地下茎が形成されたあとでは、根こそぎ抜くのが困難になるので、そういった雑草は、まだ小さい実生の時に根こそぎ取るように心掛ける。
一方、草刈鎌は、雑草の地上部をそぎ落とすように除草するか、根が浅い雑草であれば根こそぎこそぐように抜くことができる道具である。手取り作業よりは圧倒的に効率の良い除草ができるので、小面積や畝間などの除草に向いている。
(2)刈払い機・ロボット草刈機
エンジン式、電動式と多種が販売されており、農業現場による雑草防除には最も多く使用されている物理的防除法である。使い方は説明不要と思われるが、円盤状の刃かナイロンチップを機械に装着して回転力により草を刈る機械である。円盤状の刃を使用する場合は、高速に回転する刃により、小石やゴミをはじき飛ばしたり、誤って他の作業者を傷つけたりといった事故も多く発生しているので、十分な安全対策が必要である。特に、畦畔や法面での傾斜のある場所での作業では、体が安定せず、転倒などの事故も発生しやすいので、こういった場所での作業には細心の注意が必要である。
近年は、こういった危険な現場での草刈り作業を補うために、ロボット草刈機を多くのメーカーが開発し、供給されている。多くはリモコンによる操作で、一部では自動走行により、多少の傾斜をものともせず、草刈りを実行できる。対応する傾斜角度や生えている雑草の量などにより対応できない場面もあるが、改良をすすめ多くの農業場面でも使用できることから機械の開発・普及が進んでいる。
(3)熱を利用する物理的防除の技術的概要
雑草も生物なので、一定の温度以上で発芽能力が低下したり、失ったり、細胞が死んで枯れたりする。なので、雑草を熱で防除する方法は、基本的に病害虫の熱処理技術と変わりはなく、どちらかというと、病害虫防除のために熱処理することで、雑草も減らせると考えておいた方が良い。
というのも、雑草の発芽能率を均一に奪うにはおよそ70℃以上の温度が必要で、病害虫防除の60℃よりも10℃も高く、病害虫の時よりもさらに多くの時間とコストがかかってしまい、雑草撲滅のために熱処理を使用しようとすると、経済的に合う処理ができないからである。
雑草の種や地下茎は、地表近くの浅いところから40cm以上の深いところに存在することもあり、現行の熱処理技術ではこのような地下深くまで温度上昇させることはかなり難しい。このため、病害虫防除で行われる60℃程度の熱では、地表面近くにある1年生雑草種子などは防除可能だが、深いところにある種子や地下茎は、その居場所が深くなればなるほど、防除が難しくなる。
(4)黒色マルチ
植物は太陽光を浴びて光合成をしながら生育するので、太陽光を遮断されると発芽や生育が抑制される。このことを利用し、圃場を黒色マルチで覆って、雑草に光が届かないようにし、雑草の発芽や生育を抑制する方法である。優れた除草法ではあるが、設置労力と経費が多くかかることから使用できる作物が限られる場合もあるが、利用できる際は積極活用したい。
また、最近は、廃プラスティック問題から廃マルチを減らす目的で生分解性マルチの活用も増えている。この生分解性マルチは、設置費自体は増加するが、廃棄の際の廃棄コストや労働時間、労働費を減らすことができるので、トータル生産コストの低減が可能な資材であること、加えて、SDGsにも貢献できるメリットがあることから、近年使用量が増えている。
(5)除草シート
黒色マルチと同様に太陽光を遮ることで除草効果を発揮するものである。水田で使用する紙シートや畦畔を丸ごと覆う畦畔シートなどがある。設置効果をあげるためには、作業を丁寧に行い、地表面と隙間が無くなるように被覆するのがコツである。
2.今後の活用
雑草の物理的防除も「みどりの食料システム戦略」でいうところの、化学農薬削減、有機農業の拡大、技術革新に資する防除法である。IPMは、あらゆる手段を使える限りのものを取り入れ、それらを効率よく組み合わせることが基本である。物理的防除は特に環境影響も少なく行える技術であるので、物理的にも経済的にも導入が可能であれば積極的に活用いただきたい技術である。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(123) -改正食料・農業・農村基本法(9)-2024年12月21日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
-
農薬の正しい使い方(13)【今さら聞けない営農情報】第279回2024年12月21日
-
【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
-
【2025年本紙新年号】石破総理インタビュー 元日に掲載 「どうする? この国の進路」2024年12月20日
-
24年産米 11月相対取引価格 60kg2万3961円 前年同月比+57%2024年12月20日
-
鳥インフルエンザ 鹿児島県で今シーズン国内15例目2024年12月20日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
-
(415)年齢差の認識【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月20日
-
11月の消費者物価指数 生鮮食品の高騰続く2024年12月20日
-
鳥インフル 英サフォーク州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月20日
-
カレーパン販売個数でギネス世界記録に挑戦 協同組合ネット北海道2024年12月20日
-
【農協時論】農協の責務―組合員の声拾う事業運営をぜひ 元JA富里市常務理事 仲野隆三氏2024年12月20日
-
農林中金がバローホールディングスとポジティブ・インパクト・ファイナンスの契約締結2024年12月20日
-
「全農みんなの子ども料理教室」目黒区で開催 JA全農2024年12月20日
-
国際協同組合年目前 生協コラボInstagramキャンペーン開始 パルシステム神奈川2024年12月20日
-
「防災・災害に関する全国都道府県別意識調査2024」こくみん共済 coop〈全労済〉2024年12月20日
-
もったいないから生まれた「本鶏だし」発売から7か月で販売数2万8000パック突破 エスビー食品2024年12月20日
-
800m離れた場所の温度がわかる 中継機能搭載「ワイヤレス温度計」発売 シンワ測定2024年12月20日
-
「キユーピーパスタソース総選挙」1位は「あえるパスタソース たらこ」2024年12月20日