農薬:防除学習帖
IPM防除12【防除学習帖】第113回2021年8月20日
「みどりの食料システム戦略」が令和3年5月12日に確定し、その中でIPM防除が重要な革新的技術として取り上げられており、この項では、現在普及しているIPM技術を一つ一つ掘り下げており、前回までに、生物的防除、物理的防除、耕種的防除について、その技術の内容を紹介してきた。今回から最後の防除法、化学的防除について紹介する。
1.IPMとは(おさらい)
IPM(Integrated Pest Management)とは、総合的病害虫・雑草管理と訳される技術で、生態系や環境に配慮しながら、利用し得る様々な防除技術を駆使し、組み合わせて行われる防除である。このIPMは、大きく分けて4つの防除戦略(生物的防除、物理的防除、化学的防除、耕種的防除)で構成されており、これらをフル活用して防除を組み立てることになる。その4つの防除戦略の具体的な内容は次のとおりである。
IPMが栽培を行う上での、病害虫雑草(Pest)の管理手法であるのに対し、その一つ上の概念には、作物(Crop)を管理するICM(Integrated Crop Management・総合的作物管理)があり、さらにその上の概念には、生物多様性/生態系(Biodiversity/Ecosystem)を管理するIBM/IEM(Integrated Biodiversity/Ecosystem Management・総合的生物多様性/生態系管理)がある。つまり、IBM/IEMの中にICMがあり、ICMの中にIPMがあることになる。このことから、IPMは、生物多様性や生態系への影響を配慮しつつ、作物栽培を管理するためにある病害虫雑草管理手法といえる。
2.化学的防除
化学的防除とは、化学物質を用いて行う防除のこと、一般的には農薬を使用して行う防除のことをいう。農薬は用途(防除対象)ごとに、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、植物生育調整剤に大きく分けられている。また、害虫と病害の同時防除を狙った、殺虫殺菌混合剤など、用途に合わせ2つ以上の有効成分を含む混合剤もある。
農薬の一般的な使用方法については、各病害虫雑草防除編で詳細を紹介しているので、ここでは、殺菌剤、殺虫剤、除草剤について、IPMで化学農薬を使用する時の留意点を中心に紹介する。
(1)殺菌剤
殺菌剤は、文字通り病原菌に作用して作物を病害から守るものである。その有効成分は大きく分けて、天然物由来の銅や硫黄などの無機物質と、石油由来有機物質などを原材料として化学合成によってつくる化学合成物質の2種類がある。
このうち、天然物由来の銅や硫黄は、有機農産物にも使用できる農薬として認められているもので、使用回数もカウントされない。IPM防除では生物農薬と組み合わせてよく使われる。
ただし、銅や硫黄は予防効果主体の成分なので、(1)必ず病害の発病前に使用すること、幅広い菌に効果があるため微生物農薬の働きに影響を与える場合があるので、(2)微生物農薬との併用の際には微生物農薬の注意書きを厳守すること、薬害が生じやすいので(3)注意事項を守って用法・用量を守ることの3点を厳守してほしい。また、これらは、天敵にも影響がある場合もあるので、天敵を使用する場合は、天敵の注意事項にも留意してほしい。
(2)殺虫剤
殺虫剤は、文字通り害虫に作用して作物を害虫から守るものである。殺虫剤も殺菌剤と同様に天然由来の成分のものと、化学合成物質の2種がある。
天然由来のものには、水アメなど害虫の気門を封鎖して窒息死させるものがある。いわゆる気門封鎖剤と呼ばれるもので、これを使用する際には、害虫の体に直接散布して気門を塞ぐ必要があるので、害虫の居るところに丁寧に満遍なく散布するのが効果をあげるコツである。ただ、気門封鎖剤にも散布回数にカウントされないものと、カウントされるものがあるので後者を使う場合は、総使用回数に留意すること。
化学合成農薬を使用する場合は、用法・用量、注意事項を守って正しく使用することは必須であるが、天敵との併用を行う場合やミツバチなど訪花昆虫を利用する場合には、それらに毒性を示すものもあるので、事前に使用の可否や可の場合でも散布後の影響持続期間などを必ず確認するようにしてほしい。
(3)除草剤
ほとんどが化学合成農薬であり、有機農業に使える除草剤は無いと考えておいた方がよい。有機農業の場合はもっぱら機械除草や除草シート設置、手取り除草、水田であれば深水管理などによる除草といった方法が主体となる。
除草剤の場合、特に水系などへの環境影響評価をしっかりと行っていることが多いので、適用内容(用法・用量、使用時期、注意事項)などを確実に守れば環境への影響はほとんど無いと考えられる。ただし、その場合でも、正しく使用し環境影響には十分に配慮しててほしい。
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