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農薬:防除学習帖

防除暦4【防除学習帖】第117回2021年9月24日

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前回よりホウレンソウの防除暦作成に取り組んでおり、防除暦作成の手順や防除手段選択の考え方を示しながら、防除の組み立て方法について紹介している。
前回は、題材としてホウレンソウを選び、春まき、夏まき、秋まきに共通する圃場の準備編として除草作業と土壌消毒を使用しない土壌病害防除を紹介した。今回は、圃場の準備、特に連作している場合に必要な土壌消毒について紹介する。

1.土壌消毒の意味
ホウレンソウの場合も連作障害の原因の一つである土壌病害が発生する。この連作障害は、ホレンソウの品質や収量に大きく影響するので、前年に土壌病害が発生した場合は、必ず土壌消毒を行いたい。

2.耕種的防除との併用
土壌消毒を行うにしても、土壌病害の場合は特に耕種的防除との併用により効果が高くなす。連作障害を回避するには、土壌中に有害物質が蓄積したり、土壌病害虫を優先化させないようにすることが基本で、土壌改良を行ったり、輪作(同じ圃場に同じ作物を連続で作付けしない(最低2~3年))すれば、連作障害は回避できる。しかし、輪作だけで生産量を落とさずにこれを行うためには、いくつかの圃場に輪番で作付けしていくローテーション栽培が必要であり、そのためには栽培適地にあるほ場が複数筆必要なので、大規模な経営面積でないと必要な生産量を確保することは難しくなる。
輪作の適用が難しい場合、土壌病害虫に対しては、その他の耕種的防除法を実行する必要がある。具体的には、抵抗性品種の活用や湛水化(畑に水を入れて田んぼ状態にする)、太陽熱消毒、還元消毒などがあげられるが、これらの技術を併用が可能な場合は複数同時に実行するとより効果的である。なぜなら、耕種的防除法の1つ1つは、効果がマイルドであることが多いので、より安定した効果を出すためには1つだけよりも2つ以上の方法で行う方が良いからである。

3.土壌消毒の実施
とはいえ、耕種的防除だけでは時間がかかるので、何とか短期に解消しなければならない場合もある、その際に効果的なのが土壌消毒である。特に、土壌病害虫が原因の場合に、最も効果が期待できる方法である。
その方法には、太陽熱消毒など熱を使うものや、土壌消毒剤など農薬を使うものなどが様々な方法があるが、土壌病害虫の種類によって使用できる方法が異なるのであらかじめ確認が必要だ。
ただし、以下に紹介する土壌消毒法のいずれも、地域によって使えない場合もある。例えば、日照が足りずに太陽熱消毒が難しい場合など、土壌消毒法の利用条件を満たさないことも多い。このような場合には、抵抗性品種をはじめとした耕種的防除と土壌消毒を組み合わせて防除を組み立てる

(1)太陽熱消毒
十分な水分を入れ、ビニールなどで被覆した土壌に太陽の熱をしっかりとあて、被覆内の温度を上昇させて蒸し焼き状態にすることで、中にいる土壌病害虫を死滅させる方法である。
連作障害を起こすたいがいの病害虫は、およそ60℃の温度で死滅してしまうため、原因病害虫の潜む土壌深度までこの温度に到達させることができるかどうかで成否が分かれる。太陽光でこの温度まで上昇させるためには、施設を密閉して十分な太陽光を当てる必要があり、夏場にカンカン照りになる西南暖地などの施設栽培向きの消毒法といえる。夏場でも日射量が少ない地域では、地中温度を60℃に到達させることができない場合もあるので、そのような地域には、次の土壌還元消毒法の方が向いていることが多い。

(2)土壌還元消毒法
この方法は、フスマや米ぬか、あるいはアルコールなど、分解されやすい有機物を土壌に混入した上で、土壌を水で満たし(じゃぶじゃぶのプール状)、太陽熱による加熱を行うものである。これにより、土壌に混入された有機物をエサにして土壌中にいる微生物が活発に増殖することで土壌の酸素を消費して還元状態にし、病原菌を窒息させて死滅させることができる。この他、有機物から出る有機酸も病原菌に影響しているようだ。このため、有機物を入れない太陽熱消毒よりも低温で効果を示すので、北日本など日照の少ない地域でも利用が可能な方法である。還元作用により悪臭(どぶ臭)が発生するので、この臭いがするまで十分な期間がおく必要がある。また、近隣に住居があるような圃場では臭いの発生に注意が必要である。

(3)蒸気・熱水消毒
文字通り、土壌に蒸気や熱水を注入し、土壌中の温度を上昇させて消毒する方法である。病害虫を死滅させる原理は太陽熱と同じで、いかに土壌内部温度を60℃にまで上昇させるかが鍵である。この方法を実施するには、お湯や蒸気を発生させるためのボイラーや土壌に均一に注入するための設備や装置が必須である。このため、導入のための設備投資と大量に消費する燃料のコストを考慮する必要があるので、個人での導入というより、地域一体となった共同利用といった大掛かりな取り組み向けの技術といえるだろう。

(4)土壌消毒剤による消毒
効果の安定性やコスト面から考えても、現在の技術で最も一般的なのが土壌消毒剤による土壌消毒である。
土壌消毒剤には、揮発性で臭気や刺激性のガスを発生させるものが多いので、使用する場合には、作業者の安全、近隣の安全を十分に考慮し、被覆を行うなど、使用ルールを確実に守ることが重要だ。ホウレンソウで使用できる土壌消毒剤の特性や効果の範囲を別表に整理したので参考にしてほしい。それらのうち、主なものを以下に紹介する。

1.クロルピクリン(商品名:クロールピクリン、ドジョウピクリンなど)
揮発性の液体で、土壌に注入することで効果を発揮する。激しい刺激臭がするので、使用時は、防毒マスク、保護メガネ、ゴム手袋など保護具の着用が必須である。その反面、ガス抜けが早いので、ガス抜き作業が基本的に不要なのが特徴である。最近では、灌注機や同時マルチ機などが普及し、より安全により楽に処理できるようになっているので可能であれば利用したい。クロルピクリン剤をPVAフィルムに封入し、土壌に埋設するだけの簡単処理ができるようにしたクロピクテープやクロピク錠剤があるので適宜使用するとよい。主に土壌病害に効果を発揮する。

2.D-D(商品名:D-D、DC油剤、テロン)
主に、土壌害虫に効果を発揮する。クロルピクリンに比べ、ガス抜けが悪いので、丁寧に耕起して、ガス抜き期間3~4日を確実において作付けに移る。ガス抜きが不十分だと薬害が起こるので注意が必要。

3.クロルピクリン・D-D剤(商品名:ソイリーン、ダブルストッパー)
クロルピクリンとD-Dを効率的に配合し、両成分の長所を活かした製剤とすることで幅広い病害虫雑草に効果を示す。刺激臭も、有効成分単剤のものより少なくなっており、比較的扱いやすい土壌消毒剤である。D-D同様、ラベル記載とおりのガス抜き期間をきちんと取る必要がある。

4.ダゾメット(商品名:ガスタード微粒剤、バスアミド微粒剤)
微粒剤を土壌に均一散布し、土壌の水分に反応して、有効成分であるMITC(メチルイソシアネート)を出して効果を発揮する。そのため、処理時には適度な水分が必要であり、ガス抜きも10~14日と比較的長い期間が必要である。主に土壌病害に効果を示す。

5.カーバムナトリウム塩液剤(商品名:キルパー)
基本的には、水で希釈し土壌表明の均一に散布または灌水とともに散布する。あらかじめ被覆して灌水チューブから灌水と同時に注入することができる。本剤もガス抜き期間を10日ほど設ける必要がある。

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