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農薬:防除学習帖

有機防除暦3【防除学習帖】第128回2021年12月3日

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前回より、ホウレンソウの有機農業防除暦の作成にあたり、播種から収穫に至るまでに必要な防除をどのような資材を選んでいくか検討しており、防除対象病害と雑草を紹介した。今回は、防除対象害虫について紹介する。

1.防除が必要な害虫

ホウレンソウに農薬登録のある害虫をホウレンソウの栽培において防除が必要な害虫とみてリストアップした。

ホウレンソウに発生する害虫は、アブラムシ類とハスモンヨトウやシロオビノメイガといったチョウ目害虫の発生が多くみられる。害虫の加害部位も、土中で根を加害するものと茎葉を加害するものとがあり、それらを防除するために有機栽培で利用できるものは、土中を加害する害虫に対しては土壌還元消毒、茎葉を加害する害虫に対しては、天敵やフェロモンなど使用できるものが限られる。害虫の場合、加害方法がホウレンソウへの被害に直結するので、以下にホウレンソウを加害する害虫とその加害方法を整理してみた。

被害痕には、ホウレンソウ作物体上にどのような痕跡を残すかを示しており、実際の被害は、これらが起因となって、傷跡に発生するハロー(黄色変色)による表面容姿の悪化、傷跡からの菌類の侵入による腐敗・変形、実生の枯死などによって発生する。

ホウレンソウの主な害虫と加害部位

2.有機栽培における害虫の防除法

有機JAS規格では、化学合成農薬の使用は一切禁止されているので、それ以外の方法によらなければならない。その方法とは、物理的防除、生物的防除(天敵、フェロモン、微生物)、耕種的防除、その他別表2に示された使用可能な資材の活用となる。

まずは、物理的防除法を紹介する。

3.物理的防除法

害虫を手で捕まえて殺したり、防虫ネット(不織布等)で作物を覆ったり、ハウスの側窓をメッシュの細かい網で覆ったりして害虫を作物に物理的に近づけないといった方法で害虫を防除する方法である。

(1)捕殺
文字通り、害虫を捕まえて殺すことである。捕まえる方法はいくつかあるが、チョウ目害虫の幼虫を手で捕まえてつぶすことは昔からある防除法である。安全・確実な方法ではあるが、害虫の数が増えたり、害虫が小さかったりするとこの方法では、広いほ場の害虫を防除するには効率が悪すぎる。家庭菜園程度の面積であればまだしも、面積が大きくなるととても捕殺では害虫を防ぎきれないのは容易に想像できる。

(2)防虫ネット
露地物の葉物野菜の栽培などでよく使われる方法だ。べたがけ資材(不織布)で作物をすっぽり覆って、害虫を作物に寄せ付けない方法であり、ホウレンソウではチョウ目害虫防除で確実な方法である。ただし、日照が不足するため、十分な日照を必要とする作物では使えないこともある。

(3)防虫網
ハウスの側窓や天窓をメッシュの細かい網で覆い、コナジラミやアザミウマなどの微小害虫がハウス内に侵入しないようにする方法である。害虫の種類によって網目の細かさが調整されるが、あまり細かいと害虫の侵入は防ぐことはできるが、温室内への通気性が悪くなり、温室内の温度が上昇してしまう難点もある。かといってメッシュを粗くすると、害虫の侵入を許してしまうことにもなるので、作付する作物にとっての温度管理と害虫侵入阻止との兼ね合いを十分にとる必要がある。害虫の侵入恐れるあまり、メッシュを細かくしすぎた結果、ハウス内温度が高くない過ぎて農作物の収量低下、品質低下を招いてしまう恐れがあるからである。

(4)光・色の利用
害虫は特定の光(波長)や色に対して反応することが多い。例えば、ニカメイチュウなど青色を好む性質があるものには青色誘蛾灯で、多くのガ類にはブラックライトでおびきよせて殺す方法がある。この特定の光を好む性格の反対で、嫌がる性格(忌避)を利用した防除がある。吸蛾類が嫌がる黄色蛍光灯やアブラムシが嫌がるシルバーマルチといったもので、これらを設置することにより、作物に害虫を近づかせないようにして防除するものである。
一方、特定な色に集まる性格を利用した防除法もある。黄色には、アブラムシやコナジラミが好んで集まり、ミナミキイロアザミウマは青白色に好んで集まるので、これらの好みの色に着色した粘着板や粘着シート(ハエ取り紙みたいなもの)で害虫をおびき寄せ、捕殺する資材である。ただ、いくら集まってくるとはいっても粘着板・シートだけでは防除しきれないので、他の方法と組み合わせて行う必要がある。

(5)熱の利用
害虫は変温動物で、生存限界温度がそれぞれにある。この生存限界温度よりも温度を高くしたり、低くしたりして防除する方法である。例えば、加温による防除法では、温湯消毒法がある。これは、種籾や種芋、種子、球根などを、作物の発芽に影響を与えずに害虫を死滅させることができる温度(60℃くらい)に保ったお湯に浸漬して防除するものである。この方法の成否は、いかに万遍なく死滅温度にすることができるかどうかにかかっており、大量の種籾などを湯につける時、温度が低いところができてしまったりすると消毒効果が不十分になることがあるので、温度管理には十分に神経を注ぐ必要がある。
また、微小害虫防除で、ハウス内に被害残さを残したままハウスをかん水・密閉し、高温により死滅害虫を死滅させる方法である。この方法であれば、病原菌も死滅させることができるので、作期が変わる時の全面消毒にも有効な方法だ。ただし、ハウス内の温度を一定期間高温にする必要があるので、しっかりとした密閉が可能なことと日照が十分にあることなどの必要条件があるので注意する。

(6)ほ場周辺の雑草管理
害虫には、ほ場やハウス周辺の雑草を一時的な住処にしているものも多く、ほ場の周辺を雑草だらけにしておくと、そこを発生源にして、ほ場やハウス内に侵入してしまうことがしばしばある。このため、ほ場やハウス回りの雑草は常にきれいに刈り取るか枯らしておき、害虫の一時的な住処を無くすようにすることで防除効率が上がる。ほ場周辺の雑草管理は病害防除の面でも有効なので、ほ場周辺の雑草管理を徹底することによって病害虫防除の効率があがる。(つづく)

本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
【防除学習帖】

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