農薬:防除学習帖
有機防除暦4【防除学習帖】第129回2021年12月10日
前回より、ホウレンソウの有機農業防除暦の作成にあたり、播(は)種から収穫に至るまでに必要な防除をどのような資材を選んでいくか検討しており、前回は防除対象の害虫と有機JASで活用できる物理的防除法を紹介した。今回は、その続きで生物的防除を紹介する。
1.有機栽培における害虫の生物的防除
生物的防除は、天敵や微生物など天然に存在する生物等を利用して害虫を抑える防除法で(1)人畜への安全性が高いこと(2)抵抗性害虫が発生しにくいこと(3)開発費用が安くすむことなどのメリットがある一方で、課題もある。
それは、(1)防除できる害虫が限られること(2)すぐに効かないこと(3)大量製造が難しく、それに伴い製品価格が高い(生物農薬の場合)こと、そして(4)効果を発揮させるための技術(コツ)が必要なことなどが挙げられる。
このように、生物的防除は、使用する資材の対象害虫とその使い方を誤ると全く効果が出ないこともあるので、特性を良くつかんだ上で正しく使うよう十分に留意する必要がある。
有機栽培で使用できる生物的防除資材には、天敵、微生物農薬、フェロモン防除がある。このうち、天敵を大きく分けると、特定の天敵を人工的に増殖させて処理しやすいように加工した天敵農薬と、自然に発生する在来天敵の2とおりがある。
(1)天敵農薬
天敵農薬とは、害虫の天敵(昆虫・ダニ・センチュウ)を利用して防除する資材である。この天敵農薬は、天敵を人工的に増殖させ、効果を発揮できる数を確保したものであり、ほ場に放飼して使用する資材である。天敵も好みの害虫が異なるので天敵の種類によって、防除できる害虫の数や種類が異なる。
天敵農薬は、防除できる害虫に限りがある。現在、農薬登録がある天敵農薬は表のとおりであるが、防除可能な害虫がほぼ1種類であることがわかる。ただし、スワルスキーカブリダニだけは、単独でアザミウマ類、コナジラミ類、チャノホコリダニ、チャノホコリダニといった複数の害虫を捕食する。このため、アザミウマ類とコナジラミ類など複数の害虫が同時発生するので、天敵の中でもこのスワルスキーカブリダニは大変ありがたい存在である。
天敵農薬は、作物ごとに登録があるものもあるが、多くが「野菜類」で登録を取得しており、発生している害虫を捕食する天敵であれば、どの野菜でも使用できる。以下の表に野菜類登録のある天敵農薬とその対象害虫を整理したので参考にしてほしい。この表に入っている天敵農薬であれば、ホウレンソウに使用できるが、使用前にホウレンソウに発生している害虫が何かを確認の上、選ぶようにしてほしい。
(2)天敵農薬の害虫防除メカニズム
天敵農薬は、天敵が害虫を捕食あるいは寄生することによって効果を発揮する。
捕食とは文字通り、害虫そのものを天敵が餌として食べて害虫を駆除することであるので、餌となる害虫がほ場にいることが不可欠である。天敵農薬が害虫防除効果を発揮し続けるためには、ほ場内に一定数の天敵が定着していることが不可欠で、そのためには、餌となる害虫が、天敵が生存し続けるのに十分な程度に発生していなければならない。これが天敵農薬で成果あげることの難しさの要因となっている。
このため、天敵が活動しやすい環境を整えるには、害虫と天敵の双方の生態をよく把握し、実際の栽培体系や栽培管理の方法を考える必要がある。
(3)天敵農薬の上手な使い方
天敵農薬を上手に使うには、次の課題をよく理解しておく必要がある。
1)害虫がいつ発生してくるかが解らないことが多く、いつ天敵を放飼したらよいかわからない。
2)実際のほ場では、天敵の隠れ家や産卵場所が少なくことが多く、それに加え、温度や湿度、散水や農薬散布といった天敵に影響のある要因が多く存在する。
3)もし、1回の放飼で天敵が定着しなかった場合、再び天敵を放飼しなければならなくなり、天敵農薬代が余分にかかってしまう(コスト高)。
このことを通常の栽培管理で行おうとしても一般には難しいが、これらの課題を解決するためにバンカーシートという便利な資材があるので利用すると良い。
バンカーシート(石原バイオサイエンス)
バンカーシートは、天敵の隠れ家や産卵場所、天敵の種類によっては増殖場所を提供できる資材であり、次のような特長を持っている。
1)天敵をシートの中で発生、増殖させることができるため、害虫の発生前に設置できて害虫の発生を待ち伏せることができる。
2)天敵の隠れ家と産卵場所を提供し、温度、湿度、散水、農薬散布の影響を少なくできる。
3)長期間天敵が働いてくれるようになるため、1回の設置で十分な効果が得られるようなり、追加放飼などの追加コストが不要になる。
現在、ミヤコカブリダニ用の「ミヤコバンカー」とスワルスキーカブリダニ用の「スワルバンカー」が石原バイオサイエンス(株)よりJA全農を通じて販売されているので、ぜひ一度試してみると良い。詳しい利用マニュアルが農研機構から提供されているので、合わせて参考にしてほしい。
(4)在来天敵
人工的に増殖させた天敵を使う天敵農薬の他に、自然に存在する在来天敵を活用する防除法もある。在来天敵が害虫防除に効果を発揮するようにするためには、栽培方法や天敵に影響の大きい農薬を厳しく制限するなど、在来天敵が活動しやすいようにほ場の環境を整える必要があるが、うまくほ場環境をコントロールすることができれば、資材費の少ない防除が可能となる。代表的なものとして、アブラムシを捕食するナナホシテントウがよく知られている。一方、在来天敵は、食酢や重曹とともに、農薬ではないが防除効果を示す資材「特定防除資材」に指定されている。
(つづく)
(参考)
バンカーシート(R)利用マニュアル2018年版(第二版)<農研機構>
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/119571.html
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