農薬:防除学習帖
有機防除暦5【防除学習帖】第130回2021年12月17日
前回より、ホウレンソウの有機農業防除暦の作成にあたり、は種から収穫に至るまでに必要な防除をどのような資材を選んでいくか検討しており、前回までに防除対象の害虫と有機JASで活用できる物理的防除法、生物的防除を紹介した。今回は、耕種的防除を紹介する。
1.有機栽培における害虫の耕種的防除
植物である作物には、芽を出し、根や葉・茎を伸ばし、花を咲かせ、果実を実らせ、次世代の種をつくるといった生育の過程がある。この作物の生育過程において、温度などの環境条件が害虫の活動可能範囲と合っていれば、害虫は活発に活動し、作物を加害する。
耕種的防除は、この害虫が活動しやすい条件を、なんらかの栽培技術によって、害虫が活動できない環境条件をつくることで、害虫の被害を最小限にすることを目的としている。
このため、一般に効果は緩やかで100%の効果が得られることは少ないが、有機栽培においては、大きな役割を果たす防除法である。
以下、具体的な例を紹介する。
(1)栽培時期の移動
作物の栽培時期を害虫の生態と合わないようにする手法である。
例えば、イネミズゾウムシは、成虫で越冬し、春温かくなって活動を開始すると、まずは越冬地周辺のイネ科雑草を摂食し、その後、田植えが始まると水田に侵入する。侵入のピーク時期は、5月中旬から下旬であることから、早期移植の品種で被害が大きくなり、中生や晩生など、移植時期が遅くなるほど被害が少なくなる。
このことを利用して、イネミズゾウムシの侵入時期を避けるように移植時期を移動することで、イネミズゾウムシの被害を軽減できる。ホウレンソウで言えば、害虫の飛来がほとんど無い秋冬に生産する作型がこれにあたる。
(2)輪作
病害と同様に、同じ作物(科)を栽培し続けるとその作物を好みとする害虫の密度が増大し、収量や品質が大幅に低下して同じ作物を作付けできなくなる現象、いわゆる連作障害が起こる。その対策として用いられるのが輪作である。前作で被害を及ぼした害虫の好みではない(加害することのない)前作とは異なる科の作物を植え付け、餓死等によって害虫が死滅し、被害が起こらない程度まで密度を下げることを目的に行う方法である。
産地によっては、ブロックローテーションといって、複数のほ場で科の異なる複数の作物を輪番で作付けする方法もとられている。なお、害虫によって、輪作効果のある作物や輪作期間が異なるので、事前によく確認する必要がある。例えば、サツマイモの大敵ネコブセンチュウの場合、落花生との輪作を行うとセンチュウ密度が低下することが知られている。
(3)間作・混作
輪作がほ場を他の作物に置き換えて栽培するのに比べ、間作は同じほ場で生産作物の生産期間の合間の期間に別の作物(植物)を植えること、混作は同じほ場の畝間などに別の作物(植物)を植えることをいう。輪作と違うところは、同じ作物を同じほ場に作付けしつづけることである。
このため、間作や混作で使える作物(植物)は、ほ場中の害虫密度を下げることができる何らかの作用を持っている必要がある。
よく知られているマリーゴールドを例に取って説明する。サツマイモネコブセンチュウは、サツマイモを作付けし続けることによって土壌中の密度が増大し、年々被害が増大する。そのようなほ場でマリーゴールドを間作や混作することでセンチュウの密度を下げることができる。なぜなら、マリーゴールドは、自身の根に殺線虫作用を持つ物質を持っており、侵入してきたセンチュウを殺すことができるからである。このマリーゴールドを間作することで、土壌中の線虫密度を減らすことができ、混作することで線虫密度の増加を抑えることができる。ただし、土壌中の線虫密度が多すぎると、効果が思うように出ない場合もある。
(4)移植
移植は、種を加害する害虫を防除するのに有効な方法である。例として、タネバエという害虫を紹介する。タネバエは、大豆をはじめとした豆類、ネギ類、ウリ類などの種子を食害する害虫で、日本全土に分布し、基本的に蛹の姿で越冬するが、暖かい地方では幼虫や成虫でも越冬する。3月下旬~4月上旬頃に羽化が始まり、成虫が未熟堆肥や鶏ふん、油かすなどの有機物の臭いのする畑を中心に集まり、土塊などに産卵する。この卵から生まれた幼虫が、は種後に水を吸った大豆等の種子に食入し、種子の中の胚乳を食い荒らしたり、発芽間もない幼茎や幼根に食い入ったりして、発芽不良や生育不良を引き起こす。タネバの被害は、このは種後間もない時期に被害が集中するので、種子を土壌には種しなければ回避することができる。つまり、本葉が出たしっかりした苗を移植すればタネバエの被害を回避できることになる。
このように、移植は種子を中心に被害を及ぼす害虫に効果が大きい方法であるが、育苗や移植の手間がかかるので、経済的、労力的にメリットのある作物を中心に利用されている。近年では、セル苗栽培、移植機の発達により畑作・野菜栽培でも移植が多く行われるようになっている。
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