農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2022
現場で役立つ農薬の基礎知識2022 今後の土壌消毒のあり方2022年6月23日
先日確定した「みどりの食料システム戦略」においては、2050年までのKPI(重要業績評価指標)として化学合成農薬の現在の使用量のADI換算値で50%減少させることがうたわれている。当然ながら土壌消毒剤も削減の対象になっており、特に土壌くん蒸剤は、農薬全体のADI(許容摂取量)換算値におけるウエートが大きいく、真っ先に対応が求められてくるだろう。
このための対策として、土壌消毒の分野でもIPM(総合的病害虫・雑草管理)防除技術を有効活用していくことが必須となるため、変更が可能なところから徐々に転換を図っていかなければならない。
ただ、土壌病害虫の被害は、収量と品質に直接結びつくものであり、防除効果を考えると早晩に土壌消毒剤の使用を減らすことは難しく、特に連作障害の回避に土壌消毒剤を減らして考えるとなると、経済面でも厳しいものがある。
しかし、産地を維持していくためには、やむを得ず同じほ場で連作しなければならない場面も多い。このため、可能な地域、作物を先行して、土壌消毒剤無しでの連作障害の回避対策の検討を急ぎ進めなければならないだろう。
ここでは、連作障害の原因をひも解きながら、みどり戦略時代の土壌消毒のあり方を整理してみたい。
連作障害とは
連作障害の原因は主に二つある。
一つは、作物の根から出るアレロパシーと呼ばれる生育阻害物質で、特定の作物を作付けし続けることでその物質が土壌に溜り、それが生育の邪魔をしてしまうことが要因だ。
もう一つは、特定の土壌病害虫が優先化するためである。なぜ優先化するかというと、連作で特定の農作物が供給され続けることによって、その作物を好む土壌病害虫が他の土壌微生物や昆虫たちとの競争に打ち勝ち、大量に増殖するからである。このような土壌に作付けされた作物は悲惨で、土壌病害虫の集中砲火を浴び、ほとんど収穫できなくなる。
耕種的防除法をフルに活用する
連作障害を回避するには、土壌中に有害物質が蓄積したり、土壌病害虫を優先化させないようにすることが基本で、土壌改良を行ったり、輪作(同じほ場に科の異なる作物を輪番で作付ける)したりすれば、連作障害は回避できる。しかし、輪作だけで生産量を落とさずにこれを行うためには、いくつかのほ場に輪番で作付けしていくローテーション栽培が必要であり、そのためには栽培適地にあるほ場が複数筆必要なので、大規模な産地でないと必要な生産量を確保することは難しくなる。
輪作の適用が難しい場合、土壌消毒が必要になる。
その際にも、抵抗性品種の活用や湛水化(畑に水を入れて田んぼ状態にする)、太陽熱消毒、土壌還元消毒といった耕種的手法をできるだけ取り入れるようにし、化学合成農薬一辺倒にならないように工夫する必要がある。
なぜなら、耕種的防除法の一つ一つは、効果がマイルドであることが多いので、より安定した効果を出すためには一つだけよりも他の二つ以上の方法で行うと効果も安定するからである。
以下に主な連作障害回避(土壌病害虫防除)策を紹介する。
太陽熱消毒
十分な水分を入れ、ビニールなどで被覆した土壌に太陽の熱をしっかりと当て、被覆内の温度を上昇させて蒸し焼き状態にすることで、中にいる土壌病害虫を死滅させる方法である。
連作障害を起こすたいがいの病害虫は、およそ60度の温度で死滅してしまうため、原因病害虫の潜む土壌深度までこの温度に到達させることができるかどうかで成否が分かれる。太陽光でこの温度まで上昇させるためには、施設を密閉して十分な太陽光を当てる必要があり、夏場にカンカン照りになる西南暖地などの施設栽培向きの消毒法といえる。夏場でも日射量が少ない地域では、地中温度を60度に到達させることができない場合もあるので、そのような地域には、次の土壌還元消毒法の方が向いていることが多い。
土壌還元消毒法
この方法は、フスマや米ぬかなど、分解されやすい有機物を土壌に混入した上で、土壌を水で満たし(じゃぶじゃぶのプール状)、太陽熱による加熱を行うものである。これにより、土壌に混入された有機物を餌にして土壌中にいる微生物が活発に増殖することで土壌の酸素を消費して還元状態にし、病原菌を窒息させて死滅させることができる。
この他、有機物から出る有機酸も病原菌に影響しているようだ。このため、有機物を入れない太陽熱消毒よりも低温で効果を示すので、北日本など日照の少ない地域でも利用が可能な方法である。還元作用により悪臭(どぶ臭)が発生するので、この臭いがするまで十分な期間がおく必要がある。また、近隣に住居があるようなほ場では臭いの発生に注意が必要である。
蒸気・熱水消毒
文字通り、土壌に蒸気や熱水を注入し、土壌中の温度を上昇させて消毒する方法である。病害虫を死滅させる原理は太陽熱と同じで、いかに土壌内部温度を60度にまで上昇させるかが鍵である。この方法を実施するには、お湯や蒸気を発生させるためのボイラーや土壌に均一に注入するための設備や装置が必須である。このため、導入のための設備投資と大量に消費する燃料のコストを考慮する必要があるので、個人での導入というより、地域一体となった共同利用といった大掛かりな取り組み向けの技術といえるだろう。
生物農薬の使用
一部の土壌病原菌には、生物農薬が有効である。生物農薬とは、有効成分が微生物などの生物で、病原菌の生活圏を奪う(養分、生息場所の競合)や病原菌に取り付いて生育の邪魔をするなどのメカニズムによって効果を発揮する。
土壌病害防除で使用される生物農薬(微生物)は、細菌と糸状菌がある。それらが病害の原因となる病原菌に対し、養分の競合、生育場所の競合、捕食・捕殺といった作用によって防除効果を発揮する。
[細菌が成分のもの]
有効成分となる細菌は、ラクトバチルス、非病原性エルビニア、バリオボラックス、アグロバクテリウムといった菌が使われている。
これらは、主として病原菌との競合によって防除効果を発揮する。いずれも、病原菌よりも先に作物に定着し、増殖する必要があるため、病害が発生する前の予防散布か発生はじめの病原菌がごく少ない時期までに使用する必要がある。製品のラベルをよく確認し、使用に適した条件(温度など)をよく守って使用するようにする。
[糸状菌が成分のもの]
有効成分となる糸状菌には、菌核病対象のコニオチリウムがある。いずれも、作物には病原性がなく無害で、病原菌にのみ作用し、それぞれで防除できる病害が異なる。細菌と同様に病原菌よりも先に作物体に定着することで防除効果が高くなるので、農薬ラベルに記載の注意事項をよく守り正しく使用すること。
土壌消毒剤による消毒
効果の安定性やコスト面から考えても、現在の技術で最も一般的なのが土壌消毒剤による土壌消毒である。
土壌消毒剤には、揮発性で臭気や刺激性のガスを発生させるものが多いので、使用する場合には、作業者の安全、近隣の安全を十分に考慮し、被覆を行うなど、使用ルールを確実に守ることが重要だ。
その特性や効果の範囲を別表に整理したので、それらを良く把握した上で、効率よく安全にご使用願いたい。以下に主な成分の特性を示す。
【クロルピクリン(商品名:クロールピクリン、ドジョウピクリンなど)】
揮発性の液体で、土壌に注入することで効果を発揮する。激しい刺激臭がするので、使用時は、防毒マスク、保護メガネ、ゴム手袋など保護具の着用が必須である。その半面、ガス抜けが早いので、ガス抜き作業が基本的に不要なのが特徴である。最近では、灌注機や同時マルチ機などが普及し、より安全により楽に処理できるようになっているので可能であれば利用したい。クロルピクリン剤をPVAフィルムに封入し、土壌に埋設するだけの簡単処理ができるようにしたクロピクテープやクロピク錠剤があるので適宜使用するとよい。主に、フザリウム病など土壌病害に効果を発揮する。
【D-D(商品名:D-D、DC油剤、テロン)】
主に、土壌センチュウに効果を発揮する。クロルピクリンに比べ、ガス抜けが悪いので、丁寧に耕起して、ガス抜き期間3~4日を確実において作付けに移る。ガス抜きが不十分だと薬害が起こるので注意が必要。
【クロルピクリン・D-D剤(商品名:ソイリーン、ダブルストッパー)】
クロルピクリンとD-Dを効率的に配合し、両成分の長所を生かした製剤とすることで幅広い病害虫雑草に効果を示す。刺激臭も、有効成分単剤のものより少なくなっており、比較的扱いやすい土壌消毒剤である。D-D同様、ラベル記載とおりのガス抜き期間をきちんと取る必要がある。
【ダゾメット(商品名:ガスタード微粒剤、バスアミド微粒剤)】
微粒剤を土壌に均一散布し、土壌の水分に反応して、有効成分であるMITC(メチルイソシアネート)を出して効果を発揮する。そのため、処理時には適度な水分が必要であり、ガス抜きも10~14日と比較的長い期間が必要である。主に土壌病害に効果を示す。
土壌処理粒剤、粉剤、液剤による防除
一般の土壌消毒剤のようにくん蒸するものではなく、土壌中に薬剤を均一に散布、混和することによって土壌中の病害虫を防除するものである。効果の成否は、土壌中にいる病害虫に薬剤をいかに接触させるかにかかっており、土壌中での均一な混和が必要である。
土壌中の病害虫の密度があまりにも多い場合には効果が不安定になる場合があるので、そのような場合には、一旦土壌消毒剤によるくん蒸処理によって病害虫密度を下げたあとに使用すると効果が安定する。
【粒状線虫剤(商品名:ネマトリン、バイデート、ネマキック、ラグビーなど)】
【アブラナ科根こぶ病防除剤(商品名:ネビジン、フロンサイド、オラクルなど)】
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