農薬:防除学習帖
トマト病害虫雑草防除のネタ帳 べん毛菌類の防除②【防除学習帖】第171回2022年10月15日
現在、防除学習帖では病原菌の種類別にその生態や防除法を紹介している。今回は、べん毛菌類の続き、トマト灰色疫病、トマト褐色腐敗病を紹介する。
1.トマトに発生するべん毛菌類病の訂正
前回、トマトに発生するべん毛菌類は、疫病、灰色疫病、灰色腐敗病、苗立枯病(ピシウム菌)であると紹介したが、灰色腐敗病は、褐色腐敗病の誤りであった。お詫びするとともに、以下、修正した一覧表を再掲載する。
2.灰色疫病の発生生態と被害
病原菌は、Phytophthora capsici というべん毛菌類に属する糸状菌(かび)であり、高温(28~30℃)を好む菌である。このため、低温(18~20℃)を好む疫病とは発生時期が異なる。多湿な環境が重なると多発生する。主に土壌に残っている残渣等から遊走子のうをつくり、直接発芽や関節発芽(遊走子のうから遊走子を放出する)によって作物に感染する。作物に侵入した後は、病斑上に遊走子のうをつくり、降雨や灌水などの水の動きを介して伝染拡大していく。
葉,茎,果実,根に発生し、土耕栽培では地際部付近に発生しやすく、養液栽培では根での発生が多い。病斑は、最初、茎には紡錘形暗緑色で水浸状、果実には円形暗緑色で水浸状の病斑を作り、病斑上には灰色のビロード状の菌糸をつくる。茎では病斑の拡大とともに周囲を侵されやがて立ち枯れを起こす。果実に発生すると品質・収量の低下が著しい。根に発生すると黒くなって枯れるので、ほとんど収量が望めなくなる。
3.褐色腐敗病の発生生態と被害
病原菌は、Phytophthora nicotianae var. parasiticaというべん毛菌類に属する糸状菌(かび)であり、高温(28~30℃)を好む菌である。発生条件等は、前出の灰色疫病とほぼ同じである。
発生部位はことなっており、褐色腐敗病は主に果実に発生する。果実上に水浸状の淡褐色円形病斑を生じ、病斑の表面には綿状のかびを生じる。果実への被害であるため、品質、収量の低下が著しい。
4.灰色疫病および褐色腐敗病の防除法
両病害の防除については、基本的に疫病の防除法に準じて行うとよい。
ア.耕種的防除
多湿が要因となって発病が多くなるので、できるだけ湿度を下げた栽培を心がける。
また、土壌の跳ね上げや降雨など水の動きにのって感染が拡大するので、水の動きを少なくする。
①密植を避け、葉や茎が密集しないように間隔を空けて風通しを良くする。
②敷きワラ、マルチを行って、土壌からの跳ね上がりを防ぐ。露地栽培の場合は、可能であれば、雨よけ設備を設ける。
③送風や換気を行い、湿度が上がらないように工夫する。
④低湿地での栽培を避け、できるだけ高畝で栽培する。
⑤第一次伝染源を減らすよう、病斑のついた作物残渣は圃場外に出して処分する。(焼却が可能な地域であれば焼却するとよい。また、灰色腐敗病については、苗による持ち込みも多いため、無病苗の使用を心がける。
イ.化学的防除
①発生前に予防効果主体の農薬で定期的な防除
灰色疫病は、一旦発生し始めると病勢が早く、一気に蔓延するので、気づいた時には既にかなりの面積で発生もしくは潜伏感染していることが多いので、発生前の予防散布を中心に組み立てる。
そして、一か所でも発生が認められたら、発生が少ないうちに治療効果のある農薬で圃場全体を徹底防除する。
代表的な予防効果の高い農薬は、ジマンダイセンやペンコゼブなどのマンゼブ剤やダコニール、フロンサイド、アリエッティであり、これらを1作期の総使用回数制限に注意しながらで防除を組み立てる。その際、散布回数制限の無い銅剤も定期的に加えると効率的な防除体系が可能となる。
②初発確認後は早期防除を徹底する
初発を確認したら、できるだけ発生が少ない時に、治療効果のある有効成分を含む混合剤を、ほ場全体にまんべんなく散布する。疫病は、初発があった際には、病斑が認められなくともすでに広範囲に病原菌が拡がっている可能性が高く、感染から発病までの時間が数日と早いので、可能な限り早く徹底防除を行う方が良い。
③治療剤は系統の異なる農薬をローテーションで使用する
治療剤には耐性菌がつきやすい傾向にあるので、同一治療剤の連続散布を避け、系統の異なる農薬を輪番で使うようにするとよい。その場合、治療剤単独での使用は避け、治療剤と作用性の異なる薬剤との混合剤の使用を徹底する。
疫病菌と同様に耐性菌が発生しやすいので、使用の前に地域の指導機関等に有効な薬剤を確認するようにしてほしい。
(4)土壌消毒の実施
第一次伝染源は、作物残渣などに残っている病原菌(菌糸)である。
ほ場から作物残渣を手作業で完全に取り除くことは実際にはかなり骨の折れる仕事であるが、この点、土壌消毒であれば手作業よりも効率よく防除できる。
有効な土壌消毒法は、蒸気消毒、熱水消毒、太陽熱消毒、土壌還元消毒、土壌消毒剤(クロルピクリン、ソイリーン、ガスタード微粒剤など)の使用などである。
土壌消毒は、他の病害虫との同時防除も狙えるので適宜実施すると効果的である。
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