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農薬:防除学習帖

トマト病害虫雑草防除のネタ帳 不完全菌類の防除⑦【防除学習帖】第179回2022年12月10日

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現在、防除学習帖では病原菌の種類別にその生態や防除法を紹介しており、現在、不完全菌類の病害を紹介している。前回までに空気伝染性の病害を取り上げたが、今回から土壌伝染性の不完全菌類病の防除ネタを紹介していく。

Ⅰ.トマトに発生する土壌伝染性糸状菌病害

トマトに発生する主な土壌伝染性糸状菌(不完全菌類)による病害は以下の表のとおりである。
特に本圃で発生する土壌伝染性病害は、連作障害を発生させるなど産地維持に重大な影響を及ぼし、一旦発生すると防除が難しいものが多いので、十分な対策が必要である。

トマトに発生する不完全菌類病

Ⅱ.各種病害の生態と防除

1. トマト萎凋病の病原菌

(1)病原菌
不完全菌類に属する Fusarium oxysporum という糸状菌(かび)である。

(2)生態と被害
土壌中で作物の根の先端部や傷口から侵入し、種子伝染もする。根、茎、葉を侵し、侵入後、下葉から萎凋黄化し、だんだん上部の葉に黄化が進み、半枯状態となり、最後に株全体が枯死するので被害が大きい。発病株の根が褐変しており、維管束を侵して養分や水分の転流を妨げて萎れたり、葉が黄化したりするので、維管束を輪切りにしてみると、褐変していることが多い。
高湿度や極端な乾燥状態になると発生が多くなるが、発病に不適な環境になると、厚膜胞子と呼ばれる耐久体をつくり土壌中でも4~5年と長く生き残ることができる。このため、一度発生すると伝染源が長年残るので厄介な病害である。

(3)防除法
①抵抗性品種・台木の利用
本病には抵抗性品種が開発されているが、発生している菌種(レース)によって抵抗性の発現程度が異なることが多いので、抵抗性品種であっても病害が発生することもある。このため、抵抗性品種は病害が起こりにくくなる補助的なものと割り切り、他の耕種的防除法や化学防除を組み合わせて防除を組み立てるようにするとよい。

②輪作
ほとんど侵されることの無いイネ科作物との輪作が効果高い。可能であれば、時々水田化すると抑制効果が高くなる。

③有機物の施用
有機物の施用は、土壌の物理性を改善し、土壌微生物の多様性を増すことで病原菌の密度を下げる効果がある。本病の場合も、堆肥(完熟)、バーク堆肥、鶏糞、稲わらで病害発生の軽減効果が認められている。しかし、未熟堆肥など未分解有機物を施用した場合、厚膜胞子の発芽を促すことが知られており、菌密度が増加してかえって発病が多くなる。このため、絶対に未熟堆肥など未分解の有機物は使用してはならない。

④石灰の施用
酸性土壌で発生が多くなるので、消石灰など石灰質資材の施用して酸性土壌をアルカリ側に矯正することにより発病を抑えることができる。

⑤湿度を下げる
湿度が高いと発生が多くなるので、ほ場の排水をよくし、風通しをよくして湿度を下げる。

⑥窒素肥料を多用すると、葉色が濃く、作物体が柔らかくなるので発生が多くなるので、土壌診断にもとづく適正施肥を心がける。

⑦根が傷むと菌が侵入しやすくなるので、根いたみの原因(湿害、干害、塩類集積、土壌害虫の被害、土壌センチュウの被害)を避けるよう管理する。

⑧発病した被害作物をほ場に残したり、すき込んだりすると菌の密度が増して発病が多くなるので、それらは可能な限り速やかにほ場の外に出して適切に処分すること。

⑨種子消毒
種子伝染するので、健全種子か種子消毒済の種子を使う。

⑩土壌消毒の実施

【太陽熱消毒】
十分な水分を入れ、ビニールなどで被覆した土壌に太陽の熱をしっかりとあて、被覆内の温度を上昇させて蒸し焼き状態にすることで、中にいる土壌病害虫を死滅させる方法である。
病原菌は、およそ60℃の温度で死滅してしまうため、原因病害虫の潜む土壌深度までこの温度に到達させることができるかどうかで成否が分かれる。太陽光でこの温度まで上昇させるためには、施設を密閉して十分な太陽光を当てる必要があり、夏場にカンカン照りになる西南暖地などの施設栽培向きの消毒法といえる。夏場でも日射量が少ない地域では、地中温度を60℃に到達させることができない場合もあるので、そのような地域には、次の土壌還元消毒法の方が向いていることが多い。

【土壌還元消毒法】
この方法は、フスマや米ぬかなど、分解されやすい有機物を土壌に混入した上で、土壌を水で満たし(じゃぶじゃぶのプール状)、太陽熱による加熱を行うものである。これにより、土壌に混入された有機物をエサにして土壌中にいる微生物が活発に増殖することで土壌の酸素を消費して還元状態にし、病原菌を窒息させて死滅させることができる。この他、有機物から出る有機酸も病原菌に影響しているようだ。このため、有機物を入れない太陽熱消毒よりも低温で効果を示すので、北日本など日照の少ない地域でも利用が可能な方法である。還元作用により悪臭(どぶ臭)が発生するので、この臭いがするまで十分な期間がおく必要がある。また、近隣に住居があるような圃場では臭いの発生に注意が必要である。

【蒸気・熱水消毒】
文字通り、土壌に蒸気や熱水を注入し、土壌中の温度を上昇させて消毒する方法である。病害虫を死滅させる原理は太陽熱と同じで、いかに土壌内部温度を60℃にまで上昇させるかが鍵である。この方法を実施するには、お湯や蒸気を発生させるためのボイラーや土壌に均一に注入するための設備や装置が必須である。このため、導入のための設備投資と大量に消費する燃料のコストを考慮する必要があるので、個人での導入というより、地域一体となった共同利用といった大掛かりな取り組み向けの技術といえるだろう。

【土壌消毒剤】
土壌消毒剤(クロルピクリン剤、ディトラペックス剤、ダゾメット剤)を使用し、病原菌密度を下げるようにする。その際、土壌消毒剤の使用方法を確実に守って使用すること。特に、ダゾメット剤は使用する際の土壌水分や確実なガス抜きの実施など使用方法を誤ると効果が出ないばかりか薬害が起こる可能性もあるので十分な注意が必要である。

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