農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2022
【現場で役立つ農薬の基礎知識2022】堆肥利用に高まる関心 土づくりと複合肥料活用のコツは(1)2022年12月23日
生産資材の高騰の一方、農水省の「みどりの食料システム戦略」などで堆肥の利用に関心が高まっている。そこで「堆肥の特性を生かした土づくりの実践と堆肥入り複合肥料の活用」と題し、朝日アグリア株式会社開発部長の小林新氏に利用するコツなど解説してもらった。
1.肥料の価格高騰と堆肥活用の現状
現在、肥料価格の大幅な高騰や、SDGs対応など地域循環型社会の機運の高まりのなかで、各地で堆肥活用の動きが広がっている。国としても食料安保の一環として肥料国産化を推進しており、その中核となるのが堆肥の利用拡大である。
堆肥は古くから土づくり効果や肥料成分の付与のため農地に還元されてきたが、水田を中心に施用量が年々低下しており、過去30年間で4分の1にまで低下している現状にある(図表1)。
2.堆肥のもつ効果
十分に腐熟している堆肥であれば、化学性、物理性、生物性において土壌や作物に対して有益な効果をもたらす。未熟な堆肥を使用すると様々な問題を生じることがあるため、完熟堆肥を使用する必要がある(畜産環境技術研究所※)。この項では、堆肥の持つ機能を生かした肥料的効果や物理性改善効果を中心に解説する。
堆肥中の肥料成分を上手に利用して肥料代の節減を
堆肥中には、窒素(N)、リン酸(P2O5)、加里(K2O)を中心に数%程度の肥料成分が含まれている。一般的に堆肥は施用量が多いために、無視できない肥料成分が農地に投入されることになる。肥料価格が上げ止まるなかで、とくに堆肥中の成分を考慮して化学肥料の投入を減じるように工夫したい。畜種ごとの成分例を図表2に示したが、実際の堆肥成分は肥料袋裏面にある四角枠内に主な成分が明記されているので、参考にされたい。
実際の投入される肥料成分を図表2をもとに10a(1反)当たり現物換算1t施用とすると、牛ふん堆肥の乳用牛由来であれば、窒素、リン酸、加里それぞれ、11g、9kg、14kg、であり、これだけで十分な肥料成分が農地に投入される計算となる。
リン酸は過石やようりんに匹敵する効果
リン酸成分は、畜種ごとに含有率が異なり、牛で少なく、豚、鶏に多く含まれている。リン酸成分の内訳は、水溶性リン酸が数%~20%程度であり、最も多い形態はく溶性リン酸(クエン酸可溶)である。
そのため、リン酸成分については、若干の水溶性成分を含む"ようりん"のような成分が入っていると考えてよい。
リン酸成分は3要素のなかで最も利用率が低い。これは、リン酸成分が土壌中のアルミと結合し、作物に吸収されにくい化合物になりやすいためである。これに対し、堆肥中のリン酸の場合は、有機物のキレート作用によりアルミとの結合が阻害され、利用率が高まることが知られている(小柳ら2005など)。
加里成分は塩化加里や硫酸加里と同じ効果が
加里成分は畜種によらず、ほとんどが水溶性成分である。そのため、含有する成分はほぼ塩化加里や硫酸加里と同じ肥効を表すとみてよい。
窒素成分は畜種や成分ごとに肥効が異なることに留意
作物生産に最も重要な役割を示す窒素については、図表3に示すように堆肥の原料となる畜種によって含有成分や肥効が異なり、一般的には含有成分は牛が最も低く、次いで豚、鶏の順番に高くなる傾向がある。
肥効面については、畜種、肥育方法、堆肥化過程によって異なるが、含有成分と同様に牛が低く、鶏が高く、豚はその中間という考え方が一般的である。牛ふん堆肥で肥効が低い理由は、敷料など炭素源が多く含まれ、無機化の過程で窒素が炭素の分解に使われることによる。その結果、施用窒素の10%程度しか肥効が得られないことが多い。
鶏ふん堆肥では、一般的にはブロイラー系で高く、採卵鶏で低い傾向にあるが、畜舎や発酵方法によっても、その含有率や肥効が大きく異なることに留意する必要がある。最近の化学肥料の高騰により化学肥料の代替として使用されることが多いが、同等の効果を期待しても、期待した肥効が得られないとの声もよく聞く。
このため、まず基本的にどの程度窒素成分が含まれているか確認し、作物にあった適正量を確保する必要がある。これは、肥料袋裏面の「表示票」中の「主成分の含有量等」で容易に確認できる。
また、肥効率が成分量により変化することにも注意する必要がある。鶏ふん堆肥の窒素の速効性成分は、尿由来の尿酸であり、これは化学肥料の尿素に近い化合物で、肥効も類似している。この尿酸が多く含まれる鶏ふん堆肥は、窒素成分が高く、尿素なみの即効的な肥効が期待できるが、窒素成分が低い鶏ふん堆肥では、堆肥化の過程などで微生物によりアンモニアにまで分解、揮散し、窒素含有率が低下することがある。そのため、鶏ふん堆肥の場合は、窒素成分の多少が肥効の速さの目安となる。
このことを踏まえて、初めて鶏ふん堆肥を化学肥料の代わりに使用する場合は、成分表示を確かめるほか、部分的に試用してみることにより、これまで使っていた肥料との肥効差を確認しておきたい。
堆肥のもつ土壌物理性改善効果とは
堆肥中の有機物は、土壌中で分解され腐植化する。この腐植が接着剤の役割を果たし、団粒構造(ミクロ→マクロ)を形成する。団粒構造には、粗孔隙と毛管孔隙がバランス良く含まれ、前者は透水性や通気性の向上に、後者は保水性に貢献することから、作物にとって保水性と通気性を両立した居心地のよい土壌環境を提供することになる(図表4)。
生産者が堆肥に期待するものとして、最も多い理由が農作物の品質向上である(土壌協会2004)。堆肥中の窒素は緩やかに肥効が発現することや、団粒構造の形成により作物に対して適度な水分ストレスを与えることにより、体内の糖含量の増加、栄養成分の増加により、高品質な農産物づくりにつながるといわれている(図表5)。
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