農薬:防除学習帖
トマト病害虫雑草防除のネタ帳 細菌類の防除②【防除学習帖】第183回2023年1月14日
現在、防除学習帖では病原菌の種類別にその生態や防除法を紹介しており、前回からトマト青枯病とトマトかいよう病を紹介したので、今回は、茎えそ細菌病と軟腐病を紹介する。
1.トマトに発生する細菌病とその特徴(おさらい)
(1)細菌は、細胞壁を持たない単細胞の原生動物で、宿主(作物)の内部や表面で宿主の細胞や体表分泌物を利用して2分裂によって増殖する。
(2)生育適温の時の増殖スピードは速く、1000個程度の細菌が24時間で1億個程度にまで増殖するものもいる。
(3)細菌は、糸状菌のように自身で宿主の中に侵入する能力は持っていないので、宿主内への侵入は、宿主にできた傷や、気孔、水口などの自然開口部から侵入する。例えば、台風などの災害によって起こる傷口や線虫類の侵入痕を介しての根への侵入、土中に潜む細菌が雨によって土とともに跳ね上げられて宿主の茎葉などに到達して自然開口部から侵入するといった様相を示す。
このため台風など風水害時には細菌病防除を徹底する必要があり、できれば風水害が予想される時は、事前に細菌病防除剤を予防散布しておく方が望ましい。
(4)細菌は増殖が速く、発生を認めたときは既に手遅れということが多いので、防除の基本は予防散布で増殖させないことであり、治療効果のある薬剤は存在しないと考えておいた方が良い。抗生物質剤には若干の治療効果はあるが、これも予防的に散布して、散布時に既に増殖を始めていた細菌があったときに大量増殖前に止めるという補完的な機能と考えておいた方がよい。
2.トマト茎えそ細菌病
(1)病原菌の生態
Pseudomonas corrugata (シュードモナス コルガータ)という細菌で、土壌伝染性の病害であり、種子伝染もすると考えられている。
初期に上位葉の軽度の黄化と萎凋が発生し、その後、茎や葉柄、花梗には表面に黒色のえそ条斑が現れるが、根や葉身、果実には、このえそ条斑は発生しない。茎内部は、かなり上部まで維管束が褐変していることが多く、髄部がひどく褐変・腐敗し、やがて空洞化する。
収穫期前後の生育後期に発生することが多く、ひどい場合は枯死することもあるが、病害に罹ってはいるが全体が衰弱する程度で済み、発病に気づかないまま株として残ることも多い。
(2)発生しやすい条件
①比較的低温多湿
②土壌水分の過剰
③根の植え痛み、線虫害
(3)基本的な防除対策
①種子伝染するので無病種子・無病苗の使用を徹底する。
②前作で発生したら、太陽熱消毒や土壌くん蒸剤等による土壌消毒を必ず実施する。
③排水をよくし、水分過剰とならないよう注意する。
④土壌伝染するので、根が傷つかないよう土壌の過乾燥に注意し、センチュウ等根を傷つける害虫をきっちり防除する。
⑤発病株が回復することはないので、見つけ次第ほ場外に持ち出して適切に処分する。持ち出す際には、被害残渣や根に付いた土壌が他の場所や圃場に混入しないよう細心の注意を払う。
⑥発病はしているが、えそ条斑などが発生せず、単に衰弱した株のまま残る場合があるので、本病の発生が認められた場合には、衰弱株も発病株として隔離・持ち出し処分する。
⑦芽かきなどの管理作業はできるだけ晴天時に行い、使用するハサミや手は一定の間隔でケミクロンG(次亜塩素酸カルシウム溶液)や消毒用アルコールで消毒する。
3.トマト軟腐病
(1)病原菌の生態
Erwinia carotovora (エルビニア カロトボーラ)という細菌で、主に摘芽したあとの葉柄の基部や誘引ひもにふれて傷ついている部分などに、泥の跳ね上げなどによって細菌が混入した泥水が付着することで、侵入・発病する。初期には、葉柄などに黒色、水浸状の病斑を形成し、その後、黒変した部分から病原細菌が茎の内部に侵入し、茎の髄部に侵入して上下に細菌が広がって、やがて茎の内部が軟化腐敗し、ひどい場合は空洞化する。発病が進むと株全体がしおれ、やがて枯死する。発病部が悪臭を放つことが特徴である。
(2)発生しやすい条件
①高温多雨
②排水不良
③窒素過多(発病が助長)
(3)防除対策
①主に土壌中の細菌が泥はねなどによって伝染するので、マルチや敷ワラなどを行う。
②土壌消毒の実施(土耕栽培では太陽熱消毒や熱水消毒の効果が高い)
③施設内湿度を下げる(マルチ内灌水、通路への籾殻敷き、換気・送風)
④高畝にして排水をよくする。
⑤湿潤な状態の傷口があると侵入しやすくなるので、芽かきなどの管理作業はできるだけ晴天時に行い、使用するハサミや手は一定の間隔でケミクロンG(次亜塩素酸カルシウム溶液)や消毒用アルコールで消毒する。
⑥発病株は早期に除去し、適切に処分する。持ち出す際には、被害残渣や根に付いた土壌が他の場所や圃場に混入しないよう細心の注意を払う。
⑦適正施肥に努め、過剰施肥(特に窒素)が無いよう十分に注意する。
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