農薬:防除学習帖
トマト病害虫雑草防除のネタ帳 施用法⑤【防除学習帖】第205回2023年6月24日
これまで、防除学習帖ではトマトの病害虫雑草防除のネタを紹介してきた。それが一段落したため、現在、施用法自体は農薬散布全体に関係するものであることから、農薬の施用法をトマトに限定せずにご紹介している。
農薬には様々な製剤があって使い方も様々であり、これを安全にかつ上手に使いこなすためには、農薬の取り扱いやそれぞれに応じた施用法を知る必要がある。
今回は、水和剤や液剤、乳剤、SC、フロアブル、ME、顆粒水和剤(WDG)といった清水に所定割合で希釈して使用する製剤(以下水希釈剤)の特性と上手な使い方について紹介する。
1.水希釈剤のメリット・デメリット
この方法は、文字通り、農薬の製品袋・ボトルに入っている農薬の原液や原粉末を、数百倍から数千倍など所定の濃度になるように水に希釈して散布する方法である。このため、10aあたりに使用する農薬の原液や粉末の量を少なくすることが可能で、製剤をそのまま散布する方法よりも10aあたりの薬価を下げることができるというメリットがある。
一方、希釈のために大量の清水が必要であることや、噴霧時のドリフトが発生しやすいなどのデメリットもある。デメリットとする理由は、大量の清水にかかる水道代もばかにならないし、いちいち水道のある所にタンクや散布機械を運ばなければならず不便に加え、必要に応じてドリフト対策をしなければならないので、作物によっては散布以外のコストがかかる場合もあるからである。
そのためか、水道代を浮かすため、まれに農業用水を希釈液に使用する例がある。しかし、残念ながら、これはあまりお勧めできない。なぜなら、第1に用水にはゴミなどが混じっていることが多く、ノズルの穴は微細なので、ちょっとした夾雑物でも目詰まりを起こしてしまうからである。第2にケイ酸など様々な鉱物資や有機物等が溶け込んでいるため、農薬の成分によっては化学反応を起こして有効成分が固まって沈殿してしまったりして、有効成分が本来の機能を発揮できずに効果が低下してしまうことがあるからである。また、第3に、用水には病原菌などが混じっていることもあるので、用水を使うことにより広範囲に病原菌をばらまいてしまうことにもなりかねないからである。
2.水希釈剤の散布機器
水希釈剤の散布に使用する機器は、基本的に液状の薬液を霧状に噴霧して散布する。このため、一般には噴霧機と呼ばれている。噴霧器には、動力源によって、人力式と動力式があり、それぞれに様々なものがある。いずれの噴霧機も、薬液に動力源で圧力をかけて、ノズルから勢いよく噴出させて霧状の微細な水滴を放出させるという機構は共通している。ほ場の形状や規模によって噴霧機を使い分けている。
(1)人力噴霧器
蓄圧式のボディーにノズルが付いたスプレー式のものや、手でポンプを押し下げて蓄圧して散布する肩掛噴霧機が一般的である。スプレー式で1~4リットル程度、肩掛噴霧器で最大10リットル程度のものが多く、ごく小規模のハウスや小規模ほ場での噴霧や、茎葉処理除草剤の少水量散布、水稲フロアブル除草剤の鉄砲散布などで使用される。大面積には向かないので、家庭菜園レベルの広さの防除で使用されることが多い。
(2)動力噴霧器
①背負式動噴
モーターや小型ガソリンエンジンを動力源にして、ポンプを回し圧力を発生させて噴霧する。15リットル~25リットル程度のタンク容量を持つ「背負式動噴」が一般的である。エンジン重量と薬液の重量によって、タンクに満載の薬液を積むと、40kg程度となるため、背負って散布するにはかなりの体力が必要である。この点、電動の場合は幾分軽いが噴霧圧力が低く、噴霧液の到達距離が短くなる傾向がある。作物の形状や栽培面積、清水の確保などを考慮して使用する噴霧器を選ぶようにするとよい。
②セット動噴
動力噴霧器には、薬液タンクとエンジン・ポンプ部が分かれたセット動噴と呼ばれるものもある。100リットル~400リットル程度の桶状のタンクに薬液を満たし、エンジン・ポンプにつないだ吸い込みホースを差し込んで薬液を吸い上げ、ポンプの先に装着した50m程度の長尺ホースを介したノズルから薬液を噴霧する。一般に、このタンクとエンジン・ポンプ、ホース、ノズルをセットしてトラックの荷台に積み込んでほ場に行き、散布する。ホースが長いので、ノズルを持つ人以外にもホースを中持ちする人員が必要であり、一人で散布するのは難しい方法である。薬液を遠くまで飛ばす能力を持った鉄砲ノスル(25m程度噴霧液が飛ぶものが多い)を使用すれば、農道やあぜ道からほ場に入らずに散布することができるので散布効率は良くなる。しかし、鉄砲ノズルの手前側と先端側で付着程度に差が出て均一散布が難しいことや、消防車の放水に似た勢いのある噴霧液を空気中に噴霧するため、遠くまで噴霧駅を飛ばせるが、その代わりドリフトも多くなるといった欠点もある。
③スピードスプレーヤー
果樹園でよく使われるもので、タンクと送風機、ノズルが一緒になった乗用機械で、後部から噴霧液を吹き飛ばしながら園内を走行して噴霧する。構造上、噴霧液が1方向に勢いよく飛ぶようになっており、ドリフトする量も多い。このため、遮蔽ネットを張ったり、走行経路を工夫して園外に薬液が飛散しないようにするなどドリフト対策を万全に行う必要がある。また、作業者(操縦者)へ農薬が付着する量(作業者暴露量)も非常に多くなるので、作業者は保護メガネ、マスク、防除衣、防除手袋、長靴などを着用して完全防備で作業するか、あるいは、キャビン付のスピードスプレーヤーを導入するなど暴露防止対策を万全にして作業を行う必要がある。
④ブームスプレーヤー
乗用管理機にセットしたり、トラクターのPTOに接続して使用するタイプの動力噴霧機である。数メートルのすずらん状のノズルがついたアームを左右に広げて、ブームと垂直方向に走行しながら噴霧する装置である。主に、畑地で利用されることが多く、タンク容量も数100リットル位から1000リットル程度の大型のものまで様々なものがある。キャビンが無いと操縦者への薬液付着が甚だしいので、最近の機種はキャビン付乗用タイプのものが多い。
⑤スプリンクラー散布
ミカン園地などでよく使われる方法で、定地式とも呼ばれる。文字通り、据え置き型の薬液プールなどに希釈液をつくり、あらかじめセットしたあるスプリンクラーに薬液送り用のホースをつなぎ、動力ポンプで薬液を送り出し散布するものである。スプリンクラーは円状に回転しながら薬液を飛ばすので、散布ムラがおきないようにスプリンクラーノズルを配置し、多めの水量でたっぷりとある程度の散布する必要がある。
3.ノズル
ノズルは噴霧器の先端に装着され、加圧された薬液を霧状にする重要なパーツである。この時作り出される微細な液滴の大きさによって飛距離や付着性が異なってくる。一般に粒子が細かい方が付着しやすいが、ドリフトもし易い。
ノズルには、大きく分けて中空円錐形(ホローコーン)、中実円錐形(フルコーン)、扇形の3つがある。用途に合わせて使い分ける。
ただ、それぞれのノズルには、ちょうど良い噴霧液を吐出する圧力があるので、特にノズルを交換した場合などは適正圧力をよく確認して適正圧力で散布するように注意する。
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