農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2023
【現場で役立つ農薬の基礎知識2023】秋冬野菜の病害虫防除 予防散布に優る防除無し 発病前と幼虫期を逃さず2023年8月23日
地球温暖化による近年の異常気象はまさに「気候危機」といえる。農業生産への影響も懸念される。現場で役立つ農薬の基礎知識2023として「秋冬野菜の病害虫防除」を取り上げた。
今年の梅雨は、あっさり明けてしまった感があるが、その後は集中豪雨があったり、酷暑が続いたりと尋常ではない天候が続いている。これからは台風の季節到来かと思っていたところ、不思議な動きをする台風6号が猛威を振るい、沖縄県を中心に甚大な被害を被った。このように、近年は予測のつかない天候が続いており、それに呼応するかのように病害虫の発生も例年どおりではないことが多く、発生状況に合わせて防除対策を組み立てるのが本当に難しくなっている。
このような天候に対抗し、確実に防除効果を得て病害虫の被害を最小にするためには、台風や豪雨などの前の予防散布が欠かせない。なぜなら、雨媒伝染する病害は、台風などでできた傷口や土壌病原菌を含むドロ跳ねを浴びた後に、素早く病原菌の侵入・進展が行われてしまうためであり、台風などが去ったあとに可能な限り早く処置できたとしても、防除が間に合わないことも多いからだ。
なので、台風など災害の襲来が予想されるときは、予防散布を確実に行って、事前に作物をガードしておくことが、被害を最小限に抑えるコツである。
また、秋冬野菜の成長にとって重要な時期である9月以降は、オオタバコガやハスモンヨトウなどの大型チョウ目害虫の活動が活発になるので、これらにも早めの対策をしておく必要がある。
代表的な秋冬野菜と発生しやすい病害虫を表に整理してみた。これらの中から被害が大きくて、複数の作物に共通する病害虫を選び、それらに対する防除のポイントを以下に整理したので参考にしてほしい。
なお、文中や適用農薬一覧で適用薬剤を紹介しているが、スペースの関係上、一部の病害虫に限られているので、紹介しきれなかった病害虫防除や農薬の正しい使用方法などは、農薬の製品ラベルやネット検索によって正しい情報を入手し、正しく使用してほしい。
早期発見で早期対処
病害虫防除の常識でもあるが、病害虫の発生が少なく、発病前や産卵前、あるいは害虫が小さな幼虫の時期に確実に防除しておく方が、圧倒的かつ効率的に被害を抑えることができる。このような時期を逃さず防除するのが"適期防除"だ。
適期防除の例をあげると、小さい害虫にしか効かない農薬の場合は害虫が小さい時が"適期"であり、病害が発生する前に散布しなければ効かない農薬の場合は病害の発生前が"適期"である。どんなに優れた農薬であっても、適期を過ぎると十分な防除効果は期待できない。つまり、人間の病気同様に、病害虫も早期発見、早期防除が基本だ。
ほ場をよく観察し、病害虫の発生状況を確認するのは基本であるが、毎年発生する病害虫であれば、防除暦などが示す防除時期に確実に散布するようにしてほしい。また、発生が例年と異なる場合には、病害虫防除所の発生予察情報を参考にしたりして、早めの対処を心がけ、予防散布を確実に行うようにしてほしい。
秋冬野菜防除対策
◆オオタバコガ
オオタバコガは、盛夏から初秋にかけて被害が大きくなり、ナス科やウリ科、アブラナ科、レタスその他多くの野菜を食い荒らすやっかいな大型チョウ目害虫である。オオタバコガは、とにかく発生の初期を見逃さずに確実に防除することが重要だ。そして、発生期間を通じて次から次へと発生してくるので、発生が始まったら発生期間を通じて定期的な薬剤散布が必要だ。特に果菜類では、幼虫が果実に食い入る前に確実に防除できるよう、発生初期からの定期防除が不可欠だ。
効果のある薬剤としては、グレーシア乳剤やフェニックス顆粒水和剤、アファーム乳剤、スピノエース顆粒水和剤、トルネードフロアブル、プレオフロアブル、プレバソン顆粒水和剤、ヨーバルフロアブルの評判がよい。
オオタバコガの発生が気候変動などの理由により読めない場合は、セル苗かん注処理法が効果的だ。この方法は、育苗期に薬液をかん注処理するだけで、本ぽに移植してからも苗がまだ小さい時期の防除作業が省略でき、初期の被害や苗による持ち込みを防ぐことができる。キャベツやレタスなどの苗を植え付けてから1カ月近くも効果を発揮するので、生育初期の被害を回避することができる。先に紹介した薬剤のうち、ジアミド系薬剤はセル苗移植ができるので一度試してみると良い。(薬剤系列は一覧表を参照)
◆ハスモンヨトウ
年に5、6回も発生し、施設内なら越冬もできるので、冬でも発生することもある。多食性で、ありとあらゆる作物を食い荒らす大変厄介な害虫である。時期的には、8~10月の被害が特に大きいので、これからの季節は最重点で防除に取り組んでほしい。
この害虫の厄介なところは、6回ほど脱皮して蛹・成虫となる際に、齢期が進むにつれて薬剤が効きにくくなることである。特に最終の6齢幼虫だと、防除が難しくなる上に食害量も多くなるので幼虫が大きくなる前にしっかりとした防除が必要である。
このため、薬剤がよく効く「幼虫が小さい時期」からの徹底防除が重要で、発生初期からの発生期間を通じた定期的な防除が必要となってくる。
指導機関などの資料で防除薬剤としての評価が高いのは、フェニックス顆粒水和剤、プレオフロアブル、プレバソン顆粒水和剤、グレーシア乳剤、ヨーバルフロアブルなどであり、古くからの薬剤では、アファーム乳剤、オルトラン水和剤、コテツフロアブル、ジェイエース水溶剤、ランネート45DF、ロムダンフロアブルなども高評価である。
◆べと病
葉に、黄色~淡褐色(ハクサイ)や淡黄緑色(キャベツ)、淡黄褐色(ブロッコリー)の葉脈に囲まれた不整形病斑をつくり、秋~冬の多湿時に発生が多くなる。
病原菌はべん毛菌類と呼ばれる湿度を好むカビで、感染から発病までの期間が短く、気付いた時には既にかなりの範囲で病気が広がっていることが多い。そのため、ジメジメした時期など発生が多くなる時期には、丁寧に観察し、病斑が見つかったら速やかに防除するようにしたい。
また、どの病害もそうだが、病斑を見つけてから防除するよりも、病気が発生する前の予防的散布が最も効果が安定するので、毎年発生するようなほ場では、発生前から定期的な予防散布を行う方が効率的である。
散布の際には、葉の裏にもしっかりと薬剤が届くよう丁寧に散布し、特に降雨など湿度が増す恐れがある場合などは、早め早めに薬剤散布を行うことを心がける。
薬剤防除は、予防効果に優れ残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果が期待できる薬剤(プロポーズ顆粒水和剤やレーバスフロアブル、アミスターオプティフロアブルやリドミルゴールドMZなど)を使用して、病勢を止めるようにするとよい。
ただし、治療効果が期待できる薬剤は、耐性菌発生のリスクがあるので、防除時期の前に地域の指導機関に確認するようにしてほしい。
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