農薬:防除学習帖
みどり戦略に対応した防除戦略(7)移植期に使用する水稲除草剤【防除学習帖】第213回2023年8月26日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上で、みどりの食料システム法のKPIをクリアできる方法がないかを探ろうとしている。
現在、水稲栽培を種子消毒、播種・育苗期、移植、生育期、収穫期の5つに分け、その時期の農薬の使用場面ごとにみどり戦略対策の方向を探っている。前回から移植期の除草剤についてその処理体系ごとに検証しており、今回は初中期一発剤+中後期剤を検証してみる。
1.移植期に使用する水稲除草剤
水稲除草剤は、移植を前後して様々な使用方法、処理体系があり、本稿では、①初期剤+初中期一発剤、②初期剤+初中期一発剤+中後期剤、③初中期一発剤+中後期剤の3つ体系を例に考えている。今回は、③の初中期一発剤+中後期剤を検証するが、この体系では、最初に使う初中期一発剤の選び方がキーポイントになる。
2.初中期一発剤+中後期剤体系の主な有効成分とリスク換算量
除草剤は、何よりも除草効果を優先すべき資材なので、除草効果が同じであれば、リスク換算量の少ない成分への変更も可能だろうが、単純にリスク換算量が少ないからという理由だけでは、効果不足を起こしかねず、影響が大きいので避けていただきたい。
この体系は、田植え同時~14日後ころまでに使用する初中期一発剤で一回目の除草を行うので、残効期間が長く、大きめのヒエにも対応できるものを選ぶ必要がある。なぜなら、温暖化の影響で雑草の葉齢進展が早く、登録上の適用日数内であっても、葉齢限界を超えている雑草個体が存在する可能性が高くなるため、取りこぼしのリスクも高く、このリスクを避けるためには、適用日数内の早めの処理が必要になるからである。加えて、早めに処理するので残効が短いと後発の雑草を抑えきれないリスクを生じるので、できるだけ残効の長いものが必要になる。
この体系で使用される主な除草剤のリスク換算値を比較したところ、有効成分含有量が小さくリスク係数が小さい有効成分を含む除草剤を選択する方がリスク換算量を小さくできることがわかる。さらにいうと、成分数が多くても、含量が少なくリスク係数も小さい有効成分が多ければ、現行の減農薬特別栽培などで使用されている2成分除草剤よりもリスク換算量が少なくなることもあり得る。
このことは、下の表を見て頂ければ一目瞭然である。体系1が合計4成分でリスク換算量189.8であるのに対し、体系2は合計6成分でリスク換算量143.0であり、体系3に至っては合計5成分でリスク換算量33.4と、4成分である体系1と比べると5分の1以下の量にとどまっている。
除草剤の場合、除草効果を第一に考えて選択することが営農全体の除草労力軽減のためにも必要であるが、除草効果が同じであれば、有効成分含量が少なく、リスク係数も小さい有効成分を含むものを選択することでリスク換算量を減らすことが可能となる。
3.対策の考え方
水稲除草剤は単純にリスク換算量の少ない有効成分に変更すればいいという分野ではないが、あえてこの分野だけで減らそうとすれば、どのような考え方があるか以下に整理してみた。本稿は、リスク換算量を除草剤で減らそうとした場合にはどういうやり方があるかを整理しているのであって、決してリスク換算量の少ない成分への変更を推奨するものではないことをお断りしておく。
(1)除草効果が同じか優るものでリスク換算量の少ない除草剤や体系に変更する
該当地域で効果に実績のある除草剤のリスク換算量を計算して比較した上で、できるだけ除草効果が同じでかつ、リスク換算量の小さい除草剤または体系に変更する。その指標として、当該地域で既に問題が検討され、問題となる雑草に効果のある有効成分のうち2019年以降に登録されたものや、2019年農薬年度出荷量の少ないものを選択することで、減らすことは可能である。
(2)除草体系を変更する
①有効成分の組み合わせによりリスク換算量が大きく異なっており、除草効果が十分であると確認済の除草剤でリスク換算量の少ないものを選択する。前表を例にとれば、体系1を体系3に切り替えるだけで、使用する除草剤量が同じであれば82%もリスク換算量を減らすことができる。
②初中期一発剤を処理適期内の早めに処理することは、葉齢限界を超えた処理を避け、雑草の取りこぼしを減らすために有益な方法である。効果の持続性が良い剤に変更することができれば、取りこぼしを少なくでき、もし中後期剤の使用を省くことができればさらに減らすことができる。
(3)雑草密度低下対策の実施
ほ場内の雑草量を減らすことができれば、除草剤の使用を最低限にすることができる。その方法としては、秋起こし(天地返し)を行って雑草種子を寒さにさらして量を減らす耕種的防除法や、収穫後に発生する多年生雑草に対し、根まで枯らし塊茎を減らす効果のある非選択性茎葉処理除草剤を処理することにより、越年する雑草の発生量を減らすことができる方法がある。
このように、秋処理によって雑草の発生密度を減らすことができれば、翌年の水稲作における除草剤の効果が高く安定するようになる。結果として、初中期一発剤の早めの処理だけで1作の雑草防除が可能となる場合も出てくる。
後段の方法は、グリホサート系の非選択性茎葉処理除草剤で実績がある方法である。具体的には一年生雑草に対しては、10aあたり200~500ミリリットルの原液を通常散布なら50~100リットル、少量散布であれば10aあたり500~1000ミリリットルの原液を25~50リットルの水に希釈して散布すると良い。この場合の有効成分グリホサートの最大薬量1000ミリリットルのリスク換算量は、有効成分48%でリスク係数0.1なので48gとさほど大きくなく、翌年の除草効果の安定というメリットを考慮すると十分に導入する価値がある。もし、クログワイ等多年生雑草が多いようであれば、一度試してみても損はないだろう。
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