農薬:防除学習帖
みどり戦略に対応した防除戦略(15)トマトの育苗後半~植付時の農薬【防除学習帖】 第221回2023年10月21日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にKPIをクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上で、みどりの食料システム法のKPIをクリアできる方法がないかを探ろうとしている。
現在、農薬の使用量も多く、出荷量も多いトマトを題材にして、どんなリスク換算量の低減方策があるのか探っており、まずは、トマトの防除タイミング(場面)ごとにリスク換算量を減らす方策にどんなものがあるか検証している。検証する防除タイミングは、①苗の本圃への植付前、②育苗期後半~植付時、③生育期の3つであり、今回は、②の育苗後半~植付時の農薬について検証する。
1.育苗期後半~植付時の農薬使用場面と10aあたりリスク換算量
トマトの育苗期後半に使用する農薬は、主に株元灌注か株元散布を行うものであり、害虫が発生していない苗の段階で苗の株元に薬液を処理する。どの薬剤も株あたりの処理量が定められているので、10aあたりの処理製剤量は、栽植密度を標準的な2,400本/10aとして計算した。
その結果は次表のとおりであるが、この処理時期の薬剤のリスク換算量はどれも大きくなく、リスク換算量をあまり意識することなく、防除効果を優先して選択すれば良さそうだ。
というのも、この時期の防除は害虫の発生前から予防的に確実な防除ができるので、生育初期の発生密度を低位に保つことができ、そのことによって中期以降の効率的な防除がやりやすくなるなど、メリットが大きい処理時期だからだ。
2.みどりの食料システム法対応の検討
前述のとおり、この処理時期の薬剤については、リスク換算量はあまり意識せずに、防除効果を優先して選択すれば良く、みどり戦略対策を講じる必要は無さそうだ。その上で、作期全体を通してのリスク換算量の低減に与える影響は少ないかもしれないが、あえて実施しようとするならば、以下のとおりの対策が考えられる。
(1) 薬剤の処理量を減らす
これは一番わかりやすい方法である。登録の処理量が1~2g/株などと幅がある場合は、少ない方の処理量を選択すれば、リスク換算量を減らせる。例えば、登録内容が1~2g/株となっているN粒剤の場合、株あたり2g処理のリスク換算量は4.8gであるが、これを株あたり1g処理に変更すると、そのリスク換算量は2.4gとなり50%削減となる。削減率の上では大きいが、トマト作期全体のリスク換算量に与える影響は少ないので、残効性と効果の安定性を考え、この場合は2g処理のままの方が良い選択と言えるだろう。
(2)リスク換算量の少ない薬剤に変更する
リスク換算量を比較して単純にリスク換算量が少ない薬剤を選択すればよい。前述のように、この使用時期はトマト作期全体のリスク換算量に与える影響は小さいので、わずかなリスク換算量の削減を目的に、あえて薬剤を変更する必要はないだろう。
でも、株元散布の薬剤であえて比較してみると、リスク換算量24gのR粒剤2g/株処理を、リスク換算量3.8gのA粒剤1g/株処理に切り替えると、リスク換算量は約20g(削減率84%)の削減が可能となる。この20gという削減量は、土壌消毒剤Kのリスク換算数量29,850gに比べれば0.07%に過ぎず、A粒剤の作期全体に対するリスク換算量軽減効果は低いので、育苗期後半~植付時については、従来どおり防除効果中心で薬剤選択した方が良いだろう。
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