農薬:防除学習帖
みどり戦略に対応した防除戦略(22) 果樹の防除暦【防除学習帖】 第228回2023年12月9日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にKPIをクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上で、みどりの食料システム法のKPIをクリアできる方法がないかを探ろうとしている。
前回より、ナシを題材に散布回数の多い果樹を検討している。果樹も水稲と同様に防除暦が整っている作物ではあるが、暦の内容が地域によって異なるため、一律的なリスク低減方策を示しにくい作物であることから、栽培ステージごとに一般的なリスク換算量低減法の検討を試みようとしている。
今回は、萌芽前の休眠期防除について検証してみる。
1.休眠期防除の意義
休眠期とは、果樹が活動を停止し寝ている時期のことを指し、防除暦上は、発芽前とか萌芽前などと表記されていることも多い。いわゆる芽吹きの前の時期である。
この時期は、一見防除には関係なさそうであるが、越冬する病害虫の数を減らすのに最適な時期でもある。対象とする病害虫は、病害では、黒星病や胴枯病、黒痘病など芽基部や枯れ枝、前年の巻きひげなどで越冬しそれが第一次伝染源になるもの、害虫ではカイガラムシ類やハダニ類など樹皮裏などで越冬するものである。
これらの病害虫は、生育期に発生が多くなると防ぎきれないものが多く、果樹の生育期前にできるだけ密度を下げておくのが望ましい。そのような効果を発揮するのが、休眠期防除である。
2.休眠期防除の実際
(1)伝染源除去
果樹が芽吹く前までにやっておきたいことが伝染源の除去である。
カイガラムシ類やハダニ類が越冬している樹皮(荒皮)を剥いで取り除いて園地外で処分し、個体数を減らすことで生育期の害虫個体数を大幅に減らすことができる。
また、大敵である黒星病は、芽の基部や病枝で越冬しているので、病原菌が動き出していない休眠期にそれらを除去して園地外に出し、感染の機会を減らしておくことが重要である。剪定枝等の除去残渣は必ず園地の外に出して、園地内に伝染源を残さないようにすることが重要である。
(2)休眠期防除
この時期は、果樹が休眠しているので、あまり薬害の発生を気にすることなく生育期よりも濃い濃度で農薬を使用することができる。
モデルとした防除暦では、ハダニ類やコナカイガラムシ対象にHBO剤を散布しているが、病害も対象とする場合は、幅広い病害虫に効果を発揮する石灰硫黄合剤が使用されることが多い。
同剤は、生育期に使用すると激しい薬害が発生するため、必ず芽が動いていない時期に散布を終えるように注意する。
3.リスク換算量削減方策
(1)この防除暦では、リスク係数の無い剤が使用されているので、実際には白紋羽病対策剤のリスク換算量のみであるので、特に変更する必要はない。ハダニやコナカイガラムシ、白紋羽病以外の病害が発生する場合は、防除効果を優先して適宜薬剤を追加する。
一般的には、防除効果を優先してリスク換算量の少ない農薬に切り替えることを検討するが、この時期に使用する薬剤はリスク換算量に大きな差が無かったので、防除効果を優先して発生する病害虫を的確に防除できる農薬を選ぶようにすると良い。
(2)散布水量の調整
ナシの散布水量は地域によって異なるが、200ℓ~700ℓ/10aが一般的である。作物への付着が十分で防除効果が満足できるのであれば、散布水量を減らせばそれだけリスク換算量を減らすことができる。ただし、十分にナシに薬液が付着することが前提条件例えば、散布水量500ℓの時のリスク換算量は、散布水量を350ℓにするだけで3割もリスク換算量を減らすことができる。
果樹の場合付着量が効果に直結する薬剤も多いので、散布水量を減らす時にはそのことを十分に頭に入れておく必要があるが、休眠期であれば、低圧で丁寧に散布することで十分に付着させることができ、散布水量を減らせる可能性が高い。
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