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農薬:防除学習帖

みどり戦略に対応した防除戦略(33)【防除学習帖】 第239回2024年3月2日

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令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にKPIをクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上で、みどりの食料システム法のKPIをクリアできる方法がないかを探ろうとしている。
前回までにナシでの検証を終え、以前実施した水稲、トマトを加えると3作物で検討を加えた。
暦の内容が作物によって異なるため、一律的なリスク低減策を示すのが難しいかと考えていたが、農薬の用途(殺菌剤、殺虫剤、除草剤)ごとに低減策が整理できたので以下に紹介する。

1. 検証のための準備
(1) 検証する作物の栽培地域における病害虫雑草の発生状況や防除暦の記載内容に基づき、防除対象とする病害虫雑草を決定する。
(2) 対象病害虫雑草ごとに作物登録のある農薬をリストアップし、それぞれの有効成分毎にADI値・リスク係数を調べ、有効成分含量・散布液量に基づきリスク換算量を計算する。この際、有効成分をRACコード別に整理しておくと、ローテーション防除の検討や同じ作用性の成分の中でのリスク換算値の比較をしやすくなる。
(3)現行の防除暦記載農薬のリスク換算量をチェックし、リスク換算量低減の可能性のある農薬や時期を定める。ただし、病害虫雑草防除にとって重要な時期などは低減対象から除外するようにする。

2.殺菌剤のリスク換算量低減策
(1) 作用性の異なる薬剤の中からリスク換算量の少ないものを選んでローテーションで使用する。
(2) 希釈倍数が複数ある場合は薄い方を選択する。
(3) できるだけ、1剤で複数の病害に効果のある農薬を選択し、散布回数を減らす。
(4) 発生前の予防散布を基本とし、初発確認後は、できるだけ速やかに発生密度が低いうちに防除を行って散布回数を減らす。発生がある程度増えてから防除を行うと、防除効果が劣るばかりか、病勢を抑えるために散布回数が増えるためリスク換算量を押し上げる恐れがある。
(5) 耐性が発生した農薬は効き目が無い上に、リスク換算量の無駄な蓄積になるので、耐性菌の発生に留意し、耐性菌の発生が確認された農薬の使用を避ける。
(6) 生物農薬などリスク換算値ゼロの農薬を登録内容に合わせて積極的に導入する。
(7) 耕種的防除
① 摘果(枝・葉)作業:果実や枝・葉など病害が発病・感染した部位を取り除く。
② 雨避け栽培の実施:黒痘病や炭疽病など雨水で感染拡大する病害の感染リスクを下げる。
③ 袋かけ栽培の導入:果実を紙袋覆い、病原菌が果実の表面に付着しないようにする。

3.殺虫剤のリスク換算量低減策
(1) 作用性の異なる薬剤の中からリスク換算量の少ないものを選んでローテーションで使用する。
(2) 希釈倍数が複数ある場合は薄い方を選択する。
(3) できるだけ、1剤で複数の害虫に効果のある農薬を選択し、散布回数を減らす。
(4) 発生時期前の予防散布を基本とし、初発確認後は、できるだけ速やかに発生密度が低いうちに防除を行って散布回数を減らす。発生がある程度増えてから防除を行うと、防除効果が劣るばかりか、害虫の増殖を抑えるために散布回数が増えてリスク換算量を押し上げる恐れがある。
特に害虫の場合は、一度加害されると商品価値がガタ落ちするため、果実などは特に食害痕を残さないように定期的な予防散布を徹底する。
(5) 抵抗性が発生した農薬は効き目が無い上に、リスク換算量の無駄な蓄積になるので、抵抗性の発生に留意し、抵抗性の発達が確認された農薬の使用を避ける。
(6) リスク換算値ゼロの農薬(生物農薬やフェロモン剤、気門封鎖剤など)を登録内容に合わせて積極的に導入する。
(7) 耕種的防除
① 摘果作業:害虫が加害した果実や葉など加害部位を取り除く。
② 袋かけ栽培の導入:果実を紙袋覆い、害虫が果実に近づけないようにする。

4.除草剤のリスク換算量低減策
除草剤は単純にリスク換算量の少ない有効成分に変更すればいいという分野ではなく、リスク換算量の少ない成分への変更が除草効果を下げる可能性が大きくなるので、単純なリスク換算量低減のための有効成分の変更は避けた方が良い。以下、あくまで敢えてリスク換算量低減をやる場合の考え方として紹介する。
(1) 除草効果が同じでリスク換算量の少ないものに変更する
該当地域実績のある除草剤製剤のリスク換算量を計算して比較した上で、できるだけ除草効果が同じでかつ、リスク換算量の小さい除草剤に変更する。その指標として、当該地域で問題となる雑草に効果のある有効成分のうち2019年以降に登録されたものや、2019年農薬年度出荷量の少ないものを選択する。
(2)除草体系を変更する
①有効成分の組み合わせによりリスク換算量が大きく異なっており、除草効果が十分であると確認済の除草剤でリスク換算量の少ないものを選択する。
② 水稲除草でいえば、初中期一発剤を処理適期内の早めに処理することは、葉齢限界を超えた処理を避け、雑草の取りこぼしを減らすために有益な方法である。効果の持続性が良い剤に変更することができれば、取りこぼしを少なくでき、もし中後期剤の使用を省くことができればさらに減らすことができる。
(3) 雑草密度低下対策の実施
ほ場内の雑草量を減らすことができれば、除草剤の使用を少なくすることができるのでリスク換算量を減らすことができる。その方法は以下のとおり。
① 秋起こし(天地返し)など耕種的除草法を活用して、圃場内の雑草種子量を減らす。
② 水稲の収穫後に発生する多年生雑草に対し、根まで枯らして塊茎を減らす効果のある非選択性茎葉処理除草剤を処理することにより、越年する雑草量を減らす。
具体的には、雑草の量に合わせ、一年生雑草中心であれば200~500㎖/10aの原液を、多年生雑草中心であれば500~1000㎖/10aの原液を水に希釈して散布する。希釈方法は、通常散布なら50~100ℓ、少量散布であれば25~50ℓの水で所定量の原液を希釈して散布する。代表的な非選択性茎葉処理除草成分であるグリホサート(有効成分48%、リスク係数0.1)の場合、10aあたり最大薬量1000㎖のリスク換算量は48gであるが、翌年の雑草量を減らして除草効果が安定すること、体系処理から一発処理へ変更して除草剤散布回数を減らすことができるなどのメリットの方が大きいので問題とならない。特に、クログワイなどの多年生雑草が多い圃場では導入効果が高い。

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