農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(4)【防除学習帖】 第243回2024年3月30日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にKPIをクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探る必要がある。そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、どのようにIPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか検討してみたいと考えている。
IPM防除は、化学農薬による化学的防除に加え、化学的防除以外の防除法である①生物的防除や②物理的防除、③耕種的防除を効率よく組み合わせて防除するものである。化学的防除に関しては、既に検証・紹介し、みどり戦略対策の考え方を一定程度整理したので、その次の段階として化学的防除以外の防除法にどのような技術があるのか、その詳細を紹介しながら、導入にあたっての留意点を紹介している。
現在、生物農薬による病害虫防除を紹介しており、今回は病害防除に利用される昆虫を紹介する。
1.病害防除に利用できる昆虫とは?
作物病害の原因は大半が糸状菌(かび)である。この糸状菌が作物体の内外を侵し、作物体内から栄養を搾取して繁殖し、作物を病気にする。病害防除にあたっては、この原因糸状菌を作物体に寄せ付けないか、あるいは糸状菌の活動を止めたり殺滅したりすることができれば作物が病害に侵されることはない。糸状菌も細胞をもった生物なので、何らかの方法で菌体や細胞を破壊されれば糸状菌は生きていけなくなる。その破壊する方法の一つとして、昆虫による摂食がある。昆虫には、作物の葉を食べるのと同様に、糸状菌(かび)の菌糸体を食べるものがおり、そういった昆虫には、キイロテントウ,クモガタテントウ,シロホシテントウ,シロジュウロクホシテントウ,アキシロテントウといったテントウムシ類が知られている。ただ、病害を防除できるレベルになるためには、昆虫側に蔓延っている糸状菌の菌糸体を作物体から一掃してくれるほど大量に食べる能力が必要である。また、多くの糸状菌は作物体内で菌糸体を蔓延らせるのだが、その作物体内にいる糸状菌の菌糸体を作物を傷つけることなく食べる昆虫は存在しない。
このため、病害を昆虫で防除するためには、病原菌が作物体の表面にいることと、その菌を好んで食べる昆虫が存在することが必須条件になる。
この条件を満たすものは唯一、野菜や果樹に発生するうどんこ病菌とそれを好んで摂食するキイロテントウの組み合わせであろう。
2.キイロテントウの生態
キイロテントウは、テントウムシ科の甲虫で大きさは3.5~5.1mm程度で、当然ながらエサとなる「うどんこ病」の発生が多くなる4~10月に発生が多くなる。生息地は、本州、四国、九州、南西諸島であり、果樹や樹木、野菜類など、うどんこ病が発生する植物に訪れ、成虫と幼虫のどちらもうどんこ病菌を摂食する。うどんこ病菌にはたくさんの菌種があるが、そのうちにはキイロテントウが食べない菌種も若干あるようであるが、樹木や果樹に発生するうどんこ病菌はほとんど摂食するようである。
また、キイロテントウは、糸状菌を摂食する昆虫の中では多食性と言われているが、自然発生のキイロテントウが作物に発生しているうどんこ病菌が作物体から綺麗に無くなるほど摂食するほどではない。実験的には、キイロテントウを多数放飼することで、うどんこ病菌糸体が無くなるほど綺麗になった例はあるが、自然発生のキイロテントウがそこまでのパフォーマンスを発揮することはないようだ。
3.キイロテントウによるうどんこ病防除は可能か?
キイロテントウをうどんこ病防除に利用する方法としては、うどんこ病の発生初期にキイロテントウを圃場内に発見した際に、うどんこ病防除薬剤の使用を控え、うどんこ病薬剤の使用量を削減することだろう。自然発生のキイロテントウだけでは、うどんこ病をきれいに防除できるほどのパフォーマンスをもっていないので、キイロテントウが圃場に居たとしてもうどんこ病の発生が多くなる前にうどんこ剤による徹底防除が必要になる。うどんこ病を防除してしまえば、エサとなるうどんこ病が無くなるため、キイロテントウもその圃場では生活できなくなる。
また、うどんこ病菌は薬剤耐性菌が発生しやすい菌でもあるので、薬剤防除を行う場合は発生前からの予防的散布が基本で、発生後の防除の場合でも発生初期の菌密度が極少ない時期に防除が実施されることが多い。このようにうどんこ病防除が徹底されてしまうと、キイロテントウが摂食する「うどんこ病の菌体」が作物上から無くなることになり、キイロテントウはエサを求めて他の土地に移動するしかなくなるだろう。
以上の理由から、話題性は抜群なのだが、キイロテントウを活用したうどんこ病防除は残念ながら難しいだろう。
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日