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農薬:防除学習帖

みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(8)【防除学習帖】 第247回2024年4月27日

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令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
IPM防除は、化学農薬による化学的防除に加え、化学的防除以外の防除法である①生物的防除や②物理的防除、③耕種的防除を効率よく組み合わせて防除するものである。化学的防除に関しては、以前本項において検証・紹介したので、現在、次の段階として化学的防除以外の防除法について、その技術的な概要と導入にあたっての留意点を紹介している。
今回から物理的防除について整理することとし、まずは、熱を利用した防除法の技術概要を紹介する。

1. 熱を利用した防除法の技術的概要
物理的防除法の中でも熱を利用した防除法は、過去から多く利用されてきた歴史のあるものである。この方法は、何らかの熱源によって土壌や施設内を病害虫雑草が死滅する温度にまで上昇させて、病害虫雑草を防除する方法で、現在も利用されている防除法には、蒸気消毒法、熱水消毒法、温湯消毒法、太陽熱消毒法、土壌還元消毒法といったものがある。

これらの防除法の成否のカギは、土壌還元消毒法を除くと、防除対象とする病害虫雑草の死滅温度、つまり病害虫であれば60℃10分以上、雑草種子であれば湿度が高い状態で70℃30分以上を目安として、この温度に達するまで土壌や施設内の温度を高め、一定時間その温度を保持することである。

この時問題となるのは、病害虫雑草が存在する土壌内の深度である。一般的な作土層は15cm程度といわれるが、病害虫雑草によってはその深度を越えて、例えば土壌表面から30cmの深さにも存在することがあるので、特に根が深い作物を作付けする場合は、深耕ロータリーで消毒を行う前によく耕耘しておく必要がある。

要は、作土層内全体(土壌表面~作土層最深部)が病害虫雑草の死滅温度に達しやすくなるようにしておく必要がある。温度を上昇させる方法は消毒法によって異なるが、温度が上昇しきれていない部分は、病害虫雑草を取りこぼすことになり、そういった場合には、わずかに生き残った病害虫雑草が回りの土壌にライバルがいない中、寡占的に増殖する場合があるので、取りこぼしが無いよう、作土層全体が熱を持てるように仕向ける必要がある。

また、線虫などは消毒できた層より下層にいたものが、地下水の動きとともに上昇する場合があることを理解しておく必要がある。

2. 熱を利用した主な物理的防除法と活用上の留意点
(1)蒸気消毒
文字通り、土壌に蒸気を注入し、土壌中の温度を上昇させて消毒する方法である。病害虫を死滅させる原理は、いかに土壌内部温度を60℃にまで上昇させるかが鍵である。一般的には、パイプなどを施設・被覆し、パイプから蒸気を放出することで土壌内を60℃以上になるように処理する。この方法で成果をあげるためには、高熱の蒸気を病原菌の潜む深度まで蒸気を届かせるようにしなければならないが、土壌表面だけにパイプを施設しても蒸気の届く深度は限られており、土壌の深いところにいる病原菌を死滅させるためには、縦方向にパイプを差し込むなどの方法があるが、広い面積であれば設備費用が高額になるなどの欠点がある。蒸気をつくるための燃料代などコスト面に課題があり、反収の高い施設栽培作物や隔離床栽培での利用など導入できる場面が限られる技術である。

(2)熱水消毒
蒸気消毒同様に熱で病原菌を死滅させる方法であるが、蒸気ではなく、熱水を土壌に直接注入して消毒する方法である。病害虫を死滅させる原理は太陽熱と同じで、いかに土壌内部温度を60℃にまで上昇させるかが鍵である。このため、深いところまで熱水を届かせるためには大量の熱水が必要で、通常は大量の熱水をつくるボイラーと徐々に熱水を処理する処理装置とがセットになっている。熱水を土壌表面から滴下しながら処理するため、土壌の深いところにまで温度を上げるのが難しく、処理の時間もかかることが欠点だ。

また、導入のための設備投資と大量に消費する燃料のコストを考慮する必要があるので、個人での導入というより、地域一体となった共同利用といった大掛かりな取り組み向けの技術といえるだろう。

(3)温湯消毒
水稲の種子消毒に使用される方法である。専用の温浴装置を用意し、そこに網袋に入れた種籾を浸漬し、60℃の温湯に10分間浸す方法である。

消毒効果を得るためには、温度管理が重要であり、温度が低かったりすると消毒効果が十分でなくなったり、温度が高すぎると種籾の発芽率が下がってしまう。種もみの発芽率を下げず、十分に消毒効果をあげられる温度が60℃ということだ。このため、いかに均一に全ての種籾に60℃のお湯に当てることができるかがポイントとなるので、種もみ袋の中心部にも十分に熱が伝わるように注意する必要がある。この対策のためには、専用の処理器を使用したり、湯量を多くしたり、種もみ袋をよくゆするなどの工夫が必要だ。このような工夫のポイントは使用する温湯消毒器の説明書に書いてあるので、熟読して消毒器ごとの正しい使用方法をよく把握してから使うように心がけてほしい。

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