農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2024
【現場で役立つ農薬の基礎知識 2024】防除は適期に!5月から梅雨期までが最重要 ミカン主要病害虫防除のポイント2024年5月14日
ミカン(かんきつ)の病害虫防除を実施するうえで、5月から梅雨末にかけては最も重要な時期にあたる。その理由は、(1)開花期から幼果期にかけては病害虫の種類が多く、被害を最も受けやすい時期であること、(2)発病・発生の初期段階で抑えておかないと、その後の対応が困難になるからだ。そこで、この時期を中心にしながら、ミカン(かんきつ)の病害予防や害虫駆除など、防除のポイントについて、プラントヘルスケア研究所(佐賀大学農学部招聘教授、元佐賀県果樹試験場)の田代暢哉氏に解説してもらった。
主要病害と予防のポイント
【そうか病】
そうか病
昨年の発生が激しかった園やすでに春葉に発病が少しでも認められる園では、果実被害を抑えるために落弁期から幼果期にかけての散布が必須です。黒点病との同時予防を兼ねて、デランやストロビー、ナリア、ファンタジスタなどを散布します。
【灰色かび病】
着花量が多いと花弁の発病が多くなって落花が多くなり、傷果が発生しやすくなります。そうか病との同時予防を兼ねて、落弁期から幼果期にかけて、ストロビーやナリア、ファンタジスタ、フルーツセイバー、ナティーボ、フロンサイドなどを用います。これらの剤は黒点病予防効果もあります。しかし、残効期間は短いので、落弁期からの黒点病対策が必要な極早生品種や早生品種では、マンゼブ(ジマンダイセン、ペンコゼブ)を混用します。
【黒点病】
黒点病
耐雨性に優れているマンゼブ(ペンコゼブ、ジマンダイセン)を散布します。梅雨期の集中豪雨は一日で数百ミリに達することもあり、600倍での効果は不安定です。500倍でも600倍と同程度です。安定した効果を期待するためには、400倍(ミカンのみの登録)で使用します。400倍ではチャノキイロアザミウマの被害も抑制されます。効果が切れる前の早め、早めの散布を心がけることで、安定した効果が得られます。効果の持続期間は散布後の累積降雨量で判断できます。600倍散布で200ミリ、400倍散布で300ミリが目安です。散布後24時間以内に雨に合うと効果が低下します。気象情報をこまめにチェックして,効果的な散布を心がけます。
なお、97%マシン油乳剤やパラフィン系固着剤のアビオンの加用で耐雨性が高まり、次回散布までの累積降雨量で100ミリ程度の延長が図られます。一方で、7月に入ってからのマシン油乳剤使用は果実糖度の低下を引き起こすので、6月末までの使用に限ります。
また、ここ数年、9月以降の後期被害が目立っています。マンゼブは4回までの使用に限られるので、もう使えない場合には、ストロビーやナティーボで対応します。
【かいよう病】
レモンかいよう病
本病の防除は2月下旬~5月下旬までに重点的に行っておかなければなりません。5月下旬までの散布によって春葉に病斑を作らせないことが、果実発病を抑えるために必須です。果実に発病してからの対応では手遅れです。5月下旬の散布は果実の初期発病対策に欠かせません。中晩かんなどの罹病性品種ではその後、3~4週間おきに無機銅剤を散布します。
万が一、果実に発生してしまった園では被害の拡大を直ちに抑えなければなりません。効果が最も高いのはICボルドーです。果実でスターメラノーズが問題になる梅雨期以降は希釈倍数を200倍とし、さらに炭酸カルシウム剤(クレフノン等)を200倍で加用します。なお、無機銅剤の散布回数が多くなってスターメラノーズが問題になるような場合には、無機銅剤体系の中にバリダシンやマスタピースを組み込むことで対応します。
本病は台風の通過後に被害が拡大するので、必ず襲来前に無機銅剤を散布しておきます。台風が近づいてくると、他の対策に手をとられるので、早めに散布しておくことが重要です。襲来一週間前の散布でも十分な効果が得られます。
抗生物質剤のマイコシールドと無機銅剤との混用散布を行う場合は襲来3日前頃が適期です。台風が通過した後の散布では効果はありません。
【褐色腐敗病】
多雨時には急激にまん延するので、発生してからの散布では手遅れです。過去に被害を受けた園では土壌中に病原菌が潜んでいます。このため、予防策として8月下旬~9月上旬に後期黒点病との同時防除を兼ねてマンゼブを散布します。発生を認めたら直ちにリドミルゴールド、レーバス、ジャストフィット、ランマン、アリエッティで対応します。なお、アリエッティは9月下旬までの高温時に散布すると果実に激しい薬害を生じるので、散布時の天候に注意します。
【果実腐敗】
白かび病、緑かび病、青かび病、軸腐病などの腐敗果実の発生は収量減のみならず、取引価格の低下と産地のイメージダウンにつながります。事前の徹底した対策が必要です。
果実肥大期(6月~8月)の炭酸カルシウム剤散布は果実体質の強化に有効で、腐敗果の発生が少なくなります。収穫前にはベンレートあるいはトップジンMにベフランを混用して散布します。ベフランの代わりにベルクートでも同様の効果が得られます。混合剤のベフトップジンも同様の効果があります。パラフィン系固着剤の加用で防腐効果が高まります。収穫後は果実用鮮度保持剤の利用が有効です。
主要害虫と駆除のポイント
【果樹カメムシ類】
山林からの飛来時期・量は地域や場所によって大きく違うので、日頃から防除所や普及センター、農協が出す情報に気を配っておきます。大量の連続飛来が始まってからの対応では手遅れです。今年は開花期頃から大量飛来が認められる園が多いようで、幼果期の飛来と加害による落果も多くなることが心配されるので、特に注意が必要です。
使用する薬剤はテルスターやマブリックなどの合成ピレスロイド剤またはアルバリンやスタークル、ダントツ、アクタラなどのネオニコチノイド剤です。有機リン剤の残効は極めて短いので、大量飛来が予想されている場合は使用しません。
なお、合成ピレスロイド剤やネオニコチノイド剤を散布するとミカンハダニやカイガラムシ類が急激に増殖するので、果実にまでミカンハダニの被害が及ぶようであれば殺ダニ剤の散布が必要です。
【チャノキイロアザミウマ】
チャノキイロアザミウマ
5月から9月にかけて飛来し、長期にわたって被害を及ぼします。このうち、幼果期は最重要駆除時期です。合成ピレスロイド剤やネオニコチノイド剤、マクロライド剤、IGR剤、ジアミド剤など多くの剤がありますが、地域によっては抵抗性発達のために効果が不安定な場合もあります。このため、地元の指導機関などに問い合わせて、効果的な剤を散布することが大切です。
また、果実の品質向上目的で使用される光反射マルチの設置は被害軽減に有効です。
【ミカンサビダニ】
常発園や前年多発園では梅雨明け後の散布では手遅れです。6月上旬からの早目の対応が必要です。サビダニ専用剤としてサンマイトやダニカットなどがあります。スリップス類の被害が多い園では同時駆除剤としてコテツやマッチ、ハチハチ、アニキ、アグリメック、ファインセーブを用います。多発が心配される園では、8月下旬に散布する殺ダニ剤についてミカンサビダニにも効果の高い種類を選びます。なお、かいよう病対策として銅剤を散布している園ではミカンサビダニの発生が多くなりますので、注意してください。
【マルカイガラムシ類】
仕上げ摘果時や収穫前になって被害に気づく場合が多く、手遅れになりやすい害虫です。冬季にマシン油乳剤を散布することが少なくなったこと、散布ムラが多いこと(特にスプリンクラー散布やSS散布の場合)が最近の多発生の原因です。
4月にマシン油乳剤にアプロードを混用することで、5月下旬まで優れた効果が持続します。
5月下旬以降は、モベント、コルト、トランスフォームなどで対応します。8月下旬の仕上げ摘果の際に寄生果実を見つけたら、直ちに有機リン剤を散布します。
【ミカンハダニ】
果実への寄生は商品価値を大きく低下させるので、8月下旬から9月上旬にかけて殺ダニ剤を散布します。この時点で発生していなければその必要はありません。その後の発生に応じて対応します。殺ダニ剤の効果低下の問題は以前に比べて少なくなっており、多くの剤で安定した効果が期待できます。
ただし、抵抗性の発達を遅らせるために、同一薬剤を毎年連続して使ってはいけません。ここ数年で使用していない殺ダニ剤を散布します。
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