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農薬:防除学習帖

みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(13)【防除学習帖】 第252回2024年6月1日

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 令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。

 IPM防除は、化学農薬による化学的防除に加え、化学的防除以外の防除法である①生物的防除や②物理的防除、③耕種的防除を効率よく組み合わせて防除するものである。前回までに生物的防除と物理的防除の概要を紹介したので、現在は耕種的防除法を紹介している。

1.紹介する耕種的防除法
 現在、IPM防除で活用できる耕種的防除法を順次紹介している。紹介する防除法は以下の表に示したものを順次紹介していこうと考えている。

みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(13)

2. 病害防除で使用される耕種的防除(その2)
(1)土壌pH調整
  農作物に被害を与える土壌病害は多数あり、その病原菌には、それぞれが生育しやすい環境条件というものを持っている。その1つが土壌pHであり、土壌病原菌には酸性を好むもの、あるいはアルカリ性を好むものがある。このため、作物の生育に適したpHの範囲内で、病原菌の嫌うpH域にしてやることで病害の発生を少なくすることができる。
 例えば、アブラナ科野菜根こぶ病は、強酸性を好み、中性から弱アルカリ性では極端に発生が少なくなる。このため、土壌が酸性に偏っていたら、石灰質肥料を投入して酸度を矯正し、pH中性に近くすることで同病の発生を大きく減らすことができる。

(2)輪作
 主に連作障害を回避するための方法で、科が異なる作物を輪番に植え付けることにより、特定の病原菌が増殖するのを防ぐ方法である。連作障害は、同じ作物を何作も続けて栽培することで、その作物を好む病原菌が優先して増殖し、寡占状態になることである。いったん連作障害が出始めると徹底した土壌消毒や抵抗性品種の植え付けなど労力とコストのかかる作業が必要となるので、そうなる前に特定の菌を増やさないようにする輪作が有効である。
 同じ科の作物とは、例えばアブラナ科であれば、キャベツ、ダイコン、ハクサイ、ブロッコリー、カブといった作物があるので、キャベツのあとにハクサイを植えるのは同じ科の連続になり、作物が違っても連作したのと同じことになる。
 また、特に土壌病原菌は、土壌の中での寿命は3年から5年程度と長いので、輪作の効果を出すためには、同じ科を植えない期間を最低3年間は設けるようにする必要がある。

(3)混植
 混植とは、科の異なる複数の作物を同じ場所で育てることをいう。作物の畝間に違う作物を植えるの間作ともいう場合があるが、一般的に同じ圃場で違う作物を植えている場合に混植と呼ばれることが多い。
 作物の組み合わせによっては、病害虫を寄せ付けない効果があったりするのでバンカープランツと呼んだりしている。植え付ける作物を組み合わせるときは、根の張り方、光要求量、養分吸収量など特性の異なる作物をうまく組み合わせる。
 有名なものでは、ユウガオつる割病の防除対策にネギやニラを混植する方法がある。これは、ユウガオつる割病の病原菌であるフザリウム菌の生育を阻む微生物がネギやニラの根圏に高頻度で存在しており、両者を混植することでユウガオつる割病の発生を抑えるものである。

(4)中間宿主の除去
 病原菌には、自分が生活する作物(植物)を時期によって変えるものがある。この時、ある作物に病原菌がやってくる前に寄生する植物のことを中間宿主という。
 例えば、ナシの大敵赤星病があげられる。赤星病は、秋から冬の間にはビャクシン類に寄生しており、春が来てナシの開花が終わり新葉が出る時期になると、ビャクシンからナシに移り住んでナシに病斑をつくり被害を起こす。
 このため、ナシ園の近くにビャクシン類がなければ冬の間の居場所がなくなり、結果としてナシに被害を起こすことが無くなる。このように、病原菌の生態の裏をついて防除を行う典型的な方法である。

(5)肥培管理
 ①ケイ酸質資材の利用
 ケイ酸質資材は、ケイ酸を含む資材の総称で、稲には必須の栄養素でもある。このケイ酸質資材を作物が吸収すると、表皮が固く丈夫になり、病害が侵入しにくくなる体をつくることができることを利用しており、特にイネいもち病の発生が起こりにくくなるなどの効果が認められている。
 ②窒素施用量
 窒素が多いと葉色が濃く、やわらかくなる傾向がある。植物病原菌は、この葉色が濃い状態を好み、病害の発生は窒素施用量が多い方が多くなる傾向にある。土壌診断などにより適正な窒素量を把握した上で、作物の生育に必要な分だけ肥料を施用する適正施肥を徹底する。
 ③土づくり
 有機質を含み、腐植が多い土壌であれば、土壌中の微生物の種類も多くなり、病原菌の密度も減らすことができる。また、土づくりによって健全な作物をつくることによって、作物自体のもつ抵抗力も高められ、病害に強い作物の育成に役立つ。何よりも健全な作物をつくり豊かな収穫を得るには土づくりが重要である。

(6)栽培時期の移動
 病害の発生時期は、病原菌の生活環によって異なる。このため、病原菌が活動しない時期に作物を育てることができれば、農薬等の防除資材を使用することなく病害防除が可能になる。極端に言えば、多くの病害が発生しない秋から冬にかけて栽培ができれば、病害の被害にあうことなく作物を育てることができる。しかし、現実的には、病害が発生しない時期には作物も育ちにくいので、栽培が難しく採用されることは少ない。施設の利用などで、うまく時期がずらせる栽培体系が組める作物であれば十分に活用できる方法である。

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