農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(14)【防除学習帖】 第253回2024年6月8日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
IPM防除は、化学農薬による化学的防除にそれ以外の防除法である①生物的防除や②物理的防除、③耕種的防除の4つの防除法を効率よく組み合わせて総合的に防除を組み立てるものである。
今回は、耕種的防除法のうち、害虫と雑草の耕種的防除法を紹介する。
1. 害虫防除で使用される耕種的防除
(1)害虫忌避性植物の混植
この方法は、文字通り害虫の忌避効果を持つ植物を作物と混植することで害虫の被害を抑えるものである。この害虫が忌避する効果を持つ植物をコンパニオンプランツとも呼び、例えば、野菜と独特な臭いを発するハーブ類との組み合わせが園芸店などのホームページ等で数多く紹介されている。
ただし、この忌避効果等は、植え付ける地域の気象条件や栽培時期によって異なることが多く、それに伴ってコンパニオンプランツの効果の発現程度左右されることがある。つまり、「ある時期ではよく効いたが、異なる時期では効き目がなかった」といったことも起こり得るということを理解しておく必要がある。
農業分野で確実に効果があると実証データも含めて揃っているのが、マリゴールドの混植による土壌センチュウ類の密度抑制である。おもにネコブセンチュウ防除に効果を発揮した事例が多く紹介されている。
ただし、植物一般にいえることであるが、植物の根等からはアレロパシーと呼ばれる他の植物の生育に抑制的に働く物質を出すことが知られており、作物と害虫忌避性植物の組み合わせによっては、作物の生育に悪影響を及ぼす場合もあるので、事前に指導機関や種苗会社等に確認しておく必要がある。
また、混植する植物の種子代が嵩む場合は、経営的にマイナスとなる場合も多いので、導入前に混植によって収穫量や品質が向上するといったメリットがあるかなど、経営上の収支をよく検討しておく必要がある。
(2)輪作
害虫も病害と同様に嗜好性があるので、同じ作物を植え続けると同じ種類の害虫が増加するので、できるだけ加害する害虫が重ならないような作物による輪作体系を組む必要がある。ただし、害虫には、加害する作物範囲が広いものも多いので、輪作が可能な作物の範囲が狭くなるのが難点だ。なので、害虫に対しては病害ほどの輪作の効果は期待できないことを理解しておいた方が良い。
(3)栽培時期の移動
害虫は種類ごとに発生生態が異なっており、発生量に波がある。つまり、一部の施設などで発生する害虫を除き、ある時期に発生が始まり、増殖がピークを迎え、ある時期にはすーっと発生が減少し、ほ場からいなくなるといった期間が必ずある。
この害虫がいなくなる時期に作物を栽培するのが栽培時期の移動という方法である。ただし、害虫の発生がなくなる時期というのは、冬期間であることが多いので、冬に生育適性がある作物に限られるので、この方法が採用できる作物や作型は限定的である。もちろん、加温などにより栽培に適した条件を作れる施設栽培であれば、多くの作物で栽培時期の移動も可能となるが、加温用の燃料代などの経費の増嵩を加味した収支の検討が必要である。また、加温施設内で年中発生し続ける害虫もいるので注意が必要だ。
2.雑草の耕種的防除
数は少ないが、雑草の防除にもいくつかの耕種的防除法があるので以下に紹介する。
(1)カバープランツの植栽
雑草も、さすがに他の植物がはびこっている場所には、生えるのは難しい。雑草が生えにくくなる要因は、養分や光の競合、根圏の寡占化などが主なものである。主に、水田畦畔や法面の雑草抑制を目的に使用され、背が低く、繁茂しやすい植物が選ばれる。具体的には、芝やクラピアなどが多く使われるが、最近はココピートなども多くなっている。用途や栽培環境、圃場形態に合わせて、カバープランツを選ぶようにする。
(2)対抗植物の植栽
害虫の忌避植物の項で記述したが、植物にはアレロパシーとよばれる物質を出しており、それを利用して植栽する方法である。ただし、作物の生育に影響があっては元も子もないので、作物と対抗植物の組み合わせが重要となる。例えば、コンパニオンプランツとして利用が多いヘアリーベッチやハッショウマメは、広葉雑草をよく抑制するが、イネ科植物の生育には影響を与えない性質がある。
このことを利用し、両者はムギやトウモロコシなどのイネ科作物や果樹の下草管理に最適なコンパニオンプランツといえる。 このようなコンパニオンプランツを検討する場合は、種苗会社などが紹介している活用事例などを参考にして、自身の栽培環境にあったものを選ぶようにしてほしい。
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