農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(15)【防除学習帖】 第254回2024年6月15日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
前回までにIPM防除に利用される各防除法、すなわち①化学的防除、②生物的防除、③物理的防除、④耕種的防除のうち②~④の防除技術についてその概要と特徴などを紹介した。IPM防除は、これら4つの防除法を効率よく組み合わせて防除を組み立てるものであるが、その組み合わせ方は作物やその作型、病害虫雑草ごとに異なっており、多種多様で、一定の整理をしづらい。
ではどのように整理するか? そもそも、IPM防除とは、作物の生産圃場を病害虫雑草が生きていきづらい環境、いわゆる病害虫雑草自身の生命活動を維持しにくい環境にすることで防除効果を発揮しようというものだ。そのため、病原菌種別や害虫種別、雑草種別に使えるIPM技術を整理すると、作物が異なっても応用しやすいと思うので、以後は病害虫雑草別にIPM防除法の組み立て方を検討してみようと思う。
まずは、病原菌に対するIPM防除を考える際に抑えるべきポイントを整理してみようと思う。
1. 作物の病原菌の種類
作物の病害の主な病原には、糸状菌、細菌、ウイルスの3つがある。最初の糸状菌とは、いわゆる「かび」と呼ばれるもので、糸状の菌糸を伸ばし、主に胞子と呼ばれる粉状のものを作って増殖する。胞子などは顕微鏡で観察しないと姿形を判別することはできないが、胞子の塊や菌糸などの存在そのものは肉眼でも確認できる。作物の病害の約9割位は、この糸状菌が原因と言われているほど多くの病原菌がいる。 一方、細菌は大きさμm程度の小さなもので、肉眼では確認できない。そのため、病徴や発病株の茎を切って水に浸けた時に出る菌泥の発生など、標徴を確認して判断する。作物の病気の原因としては糸状菌の次に多いが、その数は1割未満と少ない。ウイルスは、細菌よりもさらに小さなもので、肉眼でも光学顕微鏡でも確認できない小さなものである。作物に現れた症状で判断するか、直接的には、抗体反応検査や遺伝子解析など特殊な手法を用いないと判別できない。
これらの病原菌(体)は、それぞれの種類別に生態や生活環があり、それらのどこをどのように抑えれば発病を阻止できるかというポイントがある。これを病原菌の種類別に探り、発病阻止に使えるIPM資材がないか検討していこうと考えている。
2.異なる増殖方法
糸状菌は、主に胞子(植物でいうところの種にあたるもの)が発芽して作物に侵入し、菌糸を伸ばして作物の中で生育する。菌糸を伸ばす過程で新たに胞子をつくり、それを飛ばして増えていく。身近な例では、パンなどに生える緑かびが増えていく様に似ている。
細菌は、単細胞の2分裂で増殖する。作物体内に入った細菌分裂を繰り返し、猛烈なスピードで増殖し、細菌にとって増殖に適した環境であれば、24時間で10万倍の数に増加することもある。
そのため、細菌の防除は、増殖する前に予防的に防除することが基本中の基本である。一旦細菌の増殖を許すと、どんな抗生物質を使用しても病勢を抑えることは難しくなる。台風の後など、作物に傷がついたあとは、ただちに細菌病の防除をしなければならないと言われるのはこのためであるが、細菌防除の理想は、作物が台風などで傷つく前に予防剤をきちんと散布し、作物を保護しておくことである。
ウイルスは、自分だけでは増殖できず、作物の細胞の力を借りてはじめて増殖する。
ウイルスが一旦作物に侵入すると、作物の細胞の分裂能力を使って、ウイルス自身を複製させることで増殖する。一旦侵入を許すと増殖を抑えることはかなり難しいので、ウイルスを作物に侵入させない対策が何より必要である。
このように、増殖方法や好適な増殖条件を探ることによっても、活用できるIPM資材や技術を探ってみようと思う。
3.病原菌(体)の侵入方法の違い
糸状菌は、自分の力で作物に侵入する能力を持っている。多くの糸状菌は、胞子を発芽させ菌糸を伸ばして付着器と呼ばれるものつくり、そこから作物体内に侵入し菌糸を伸ばしていく。気孔などの自然開口部や傷口からも糸状菌は侵入していくので、作物全体を保護できるような防除が必要となる。
細菌は、自然開口部や傷口からは侵入できるが、自力では作物に侵入することはできない。そのため、台風や土を跳ね上げるような豪雨、管理作業中の傷の発生などが侵入のきっかけになりますので、そのような時期には予防的な防除を徹底しておく必要がある。
ウイルスは、主に傷口(特に芽かきなどの管理作業によって起こるもの)や媒介昆虫の吸汁行動によって作物体内に侵入する。ウイルスも自分の力で侵入することはできず、必ず昆虫など何等かの外部の力を借りないと侵入できないので、この侵入を阻止する対策が何より必要となる。
このように、侵入方法の違いによって活用できるIPM資材や技術を探ってみようと思う。
4.伝染方法の違い
作物の病害は様々な伝染方法を取る。胞子を飛ばす空気伝染、雨や土壌水分を使って伝染する水媒伝染、雨や灌水などの時の土壌の跳ね上げ、土壌に潜む胞子の発芽や作物残渣中の菌糸を介しての土壌伝染、種子の中に潜んでいる種子伝染、媒介生物による伝染、栽培管理中の人間の手指による伝染など様々なものがある。
この伝染方法の違いによって、使用できるIPM資材・技術が異なるので、探ってみようと思う。
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