農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(18)【防除学習帖】 第257回2024年7月6日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。IPM防除は、①化学的防除、②生物的防除、③物理的防除、④耕種的防除の4つの防除法を効率よく組み合わせて、作物の生産圃場を病害虫雑草が生きて行きづらい環境、いわゆる病害虫雑草自身の生命活動を維持しにくい環境にすることで防除効果を発揮しようというものだ。このため、病原菌種別や害虫種別、雑草種別に使えるIPM技術を整理すると、作物が異なっても応用しやすくなるので、病害虫雑草別にIPM防除法の組み立て方を検討している。
今回から病原菌種とその増殖、侵入、伝染方法を明らかにしながら使用するIPM技術を整理してみようと思う。まずは、植物病害の大部分を占める糸状菌から整理を開始しようと思う。
前回、糸状菌の分類であるべん毛菌類(卵菌類)、接合菌類、子のう菌類、担子菌類の4つのうち、ベン毛菌類、担子菌類の生態と防除ポイントについて紹介した。順番でいけば子のう菌類であるが、この菌類は病原数が多いので次回以降に回し、今回は先に担子菌類の生態と防除のポイントを紹介する。
1.担子菌類の生態と防除のポイント
担子菌類は、菌糸が変形した担子器という細胞の外側にでっぱった突起の先に担子胞子(有性)をつくることから担子菌類と呼ばれる。担子の担には「かつぐ」という意味があり、かつぐように担子器の外側に担子胞子をつくるのが特徴である。この担子胞子の他に、病斑上に半球形をしたネズミの糞状の菌核と呼ばれるものをつくる。この菌核から菌糸を伸ばして伝染源ともなる。生育温度は10℃~40℃と幅広いが、30℃前後が適温で高湿度の際に生育が旺盛になるものが多い。この菌が病原となる病害は、イネ紋枯病や各種さび病、白絹病、赤星病、紫紋羽病といったものがあり、稲、麦、野菜、果樹と広範囲の作物に病害を起こす菌である。
(1)担子菌類の増殖方法と防除のポイント
①担子菌類の増殖方法
担子菌類は、胞子または菌核が第一次伝染源となって空気や水を介して作物に付着し、作物体内に侵入して菌糸を伸ばして増殖する。胞子の飛散や侵入に湿度・雨天が必要な場合が多い。一方、さび病菌は夏と冬で宿主を変える性質を持っている。リンゴ・ナシの赤星病はその典型的な病害で、リンゴ・ナシとビャクシン類との間を行き来して発病を繰り返す性質を持っている。
②担子菌類の増殖を防ぐための防除ポイント
担子菌類の第一次伝染源は、胞子や菌核であるので、胞子の飛散を避け、菌核を圃場内に残さないようにする。また、さび病の場合、中間宿主(リンゴ・ナシの場合はビャクシ類)を圃場の近くにおかないようにするだけでも効果を示す。
[防除ポイント1] 被害残渣の上に菌核を作っているので、できるかぎり丁寧に菌核が土壌に落ちないように集めて、圃場の外に出して処分する(物理的防除)。
[防除ポイント2] さび病菌の場合、中間宿主を圃場の側から無くす(耕種的防除)。
(2)担子菌類の侵入・伝染方法と防除のポイント
担子菌類は、菌核や担子胞子、さび胞子などが発芽して植物体に侵入する。侵入の際、湿度や水滴が必要な場合が多いので、湿度を上げないように管理する。これらの防除手段を、伝染源が作物に付着する前に実施する。
[防除ポイント3]圃場内の風通しを良くするなど湿度が上がり過ぎないように管理する(耕種的防除)。
[防除ポイント4]予防的防除(担子菌類に効果のある散布剤など)を実施する(化学的防除)
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