農薬:シリーズ
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(19)【防除学習帖】 第258回2024年7月13日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。IPM防除は、①化学的防除、②生物的防除、③物理的防除、④耕種的防除の4つの防除法を効率よく組み合わせて、作物の生産圃場を病害虫雑草が生きていきづらい環境、いわゆる病害虫雑草自身の生命活動を維持しにくい環境にすることで防除効果を発揮しようというものだ。このため、病原菌種別や害虫種別、雑草種別に使えるIPM技術を整理すると、作物が異なっても応用しやすくなるので、病害虫雑草別にIPM防除法の組み立て方を検討しており、現在は糸状菌の病原菌種とその増殖、侵入、伝染方法を明らかにしながら使用するIPM技術を整理している。
前回までに糸状菌の分類であるべん毛菌類(卵菌類)、接合菌類、子のう菌類、担子菌類の4つのうち、ベン毛菌類、接合菌類、担子菌類の生態と防除ポイントについて紹介した。今回は最後の子のう菌類の生態と防除のポイントを紹介する。
1.子のう菌類の生態
子のう菌類は、作物の病害の中でも最も菌種が多い糸状菌である。子のう菌類は、有性世代に子のうと呼ばれる嚢(ふくろ)状の器官をつくり、その中に子のう胞子をつくる。この他、菌糸上に無性世代の分生胞子を大量につくり、これを気中に飛散させて感染・増殖を繰り返す。
子のう菌類が引き起こす病害は多く、イネいもち病やばか苗病、リンゴやナシの黒星病や炭疽病、モモやサクランボの灰星病、果菜類うどんこ病や菌核病など被害の大きな重要病害が多い。また、アルタナリア菌やフザリウム菌といった不完全菌類に属する糸状菌のほとんどがいずれは子のう菌類に属すると考えられていることを考慮すると、作物病害の大半が子のう菌類によるものともいえる。このため、子のう菌類を確実に抑制するための方策が病害防除においても最も重要だと考えられている。
生育適温は菌種によってまちまちであるが、20℃~25℃程度と比較的低温を好むものが多い。
子のう菌類の第一次伝染源は様々である。前年の被害残渣や被害を受けた枝・芽の基部、または種子の中に胞子や菌糸の形で潜んでいて、菌の生育に良好な環境が整った際に活動を開始し、まずは分生胞子を作って拡散させ、病勢を拡大していく。
その他、土壌に落ちていた菌核(菌糸が集合して塊となったもの)をつくり、その菌核が発芽してきのこ状の子のう盤をつくり、その上にこん棒状の子のうをつくり、その中に子のう胞子をつくって飛散させて第一次伝染源となるものもある。
子のう菌類は、付着器や吸器とよばれる作物体への直接侵入するための器官をつくって侵入することができるものが多い。この時、一定の水分が必要なため、降雨など作物体が濡れている時間が多い湿度が高い時に発生が多くなるものが多い。
2.子のう菌類の防除のポイント
(1)第一次伝染源をできるだけ除去する
子のう菌類に限ったことではないが、病害防除の基本は、第一次伝染源となり得るものを除去することである。できるだけ圃場に病原菌の種を残さないようにすることが重要だ。どんなに発病環境が整っても、病原菌がなければ発病することはない。
[防除ポイント1]
前年の被害残渣をできるだけ圃場外に出して処分する。また、被害を受けた枝や芽の基部を丁寧に取り除く(物理的防除)。
[防除ポイント2]
種子伝染する病害の場合は、種子更新をして無病の種子を使用したり、温湯消毒や生物農薬や化学農薬による種子消毒を徹底する(耕種的防除)(生物的防除)(化学的防除)。
[防除ポイント3]
施設栽培で十分な日照があり高温が期待できる地域の場合は、微小害虫の防除と合わせて蒸し込み処理を実施する。その際、蒸し込み処理後に被害残渣をできるだけ丁寧に取り除くとさらに良い(物理的防除)。
(2)作物への侵入を防ぐ
子のう菌類の作物への侵入は、高湿度で、作物体が濡れている時間が一定程度ある時に起こりやすいので、湿度が上がらない環境を整えたり、濡れ時間を可能な限り減らすように管理する。
[防除ポイント4]
施設では、株間を広くし、葉が必要以上に繁茂しないよう管理を徹底して風通しを良くする。また、マルチングによって土壌表面からの湿度をさけるなど湿度が上がり過ぎないような管理を徹底する。また、灌水チューブなど作物体を直接濡らさない灌水方法を採用する(耕種的防除)。
[防除ポイント5]
水田や露地栽培では、株間を広くし、葉が必要以上に繁茂しないよう管理を徹底して風通しを良くする(耕種的防除)。また、梅雨時期など作物の濡れ時間が続くことが予想される場合には、病害の発生前に保護殺菌剤などによる予防散布を徹底する(化学的防除)。水稲の場合は、育苗箱処理剤を処理して田植段階から徹底した予防ができる薬剤もあるので有効活用する(化学的防除)。
[防除ポイント6]
子のう菌類の発生期間中は、絶え間なく胞子が飛散し、病害発生の危険が続くので、病害の発生期間中は定期的な予防散布を実施して発病を防ぐ。特に毎年発生する病害の場合は、発生が認められなくとも定期予防散布を実施する。なぜなら、病害発生後の治療剤による散布を多用すると薬剤耐性菌の発生リスクが高くなるからである。また、その際には、薬剤系統の異なる殺菌剤でローテーション散布を徹底する(化学的防除)。
(3)菌密度が低い時期の徹底防除
残念ながら第一次伝染源からの発生を防ぎきれなかった場合には、発生初期のまだ菌密度が低い時期を逃さず徹底防除を行う。
[防除ポイント7]
菌密度が少ないうちは防除効果が出やすいので、発病初期の防除を徹底する。その際、出来る限り予防効果・治療効果を併せ持つ混合殺菌剤の使用が望ましく、治療効果のある成分で発生初期の病斑の動き(侵入菌糸の伸長や分生胞子形成)を阻止し、予防効果主体の成分でまだ感染していない作物体を保護するようにする(化学的防除)
(4)作物の強化
作物が病気にかかりにくい丈夫な作物体にするよう肥培・栽培管理を徹底することが基本であるが、作物と病害の組み合わせによっては、作物の強化に利用できる技術もあるので適宜利用する。
ただし、これらの技術は防除が不要なほど効果があるものではないので、あくまで補完的なものと考えて、効果が不十分な場合は、迷わず他の防除法と組み合わせて防除を行うようにすると良い。
[防除ポイント8]
子のう菌類は重要な病害が多いため、抵抗性品種が育成されていることが多いので、抵抗性品種が育成されている作物の場合は積極的に活用する。
[防除ポイント9]
ケイ酸質資材を使用することで作物体を強固にでき、発病を減らすことができる場合がある。特に水稲ではケイ酸質資材の施用による病害抑制効果が高い。
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