農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(23)【防除学習帖】 第262回2024年8月17日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。IPM防除は、①化学的防除、②生物的防除、③物理的防除、④耕種的防除の4つの防除法を効率よく組み合わせて、作物の生産圃場を病害虫雑草が生きていきづらい環境、いわゆる病害虫雑草自身の生命活動を維持しにくい環境にすることで効率的に防除効果を発揮しようというものだ。
このため、病原菌種別や害虫種別、雑草種別に使えるIPM技術を整理すると、作物が異なっても応用しやすくなるので、現在、病害虫雑草別に主として化学的防除を除いたIPM防除法の組み立て方を検討している(化学的防除法については病害虫別に後日整理する)。
前回から害虫別に検討しており、今回からは、害虫別にその生態と防除について紹介する。
1.ダニ目の種類と生態・被害
ダニ目は節足動物門、クモ網に属し、作物を加害するダニ目にはホコリダニ科(チャノホコリダニなど)、ハダニ科(ミカンハダニ、リンゴハダニ、カンザワハダニ、ナミハダニ)、フシダニ科(ミカンサビダニなど)、コナダニ科(ロビンネダニなど)に分類され、これらの中では、ハダニ科のハダニ類が最も農作物への被害が大きい。
寄生する主なハダニ類は作物によって決まっており、りんごではナミハダニとリンゴハダニ、かんきつではミカンハダニ、お茶ではカンザワハダニ、野菜ではナミハダニとカンザワハダニが重要なハダニである。
ハダニの発育経過は、卵→幼虫→第1若虫→第2若虫と3回の脱皮を経て成虫になる。雌が第2若虫の時期になると雄が寄って、脱皮を始めると直ちに交尾する。雌成虫は交尾しなくても産卵するが、その場合は無精卵となってすべて雄となる。交尾した雌の体内で、受精できた卵は雌となり、受精できなかった卵は雄となる。成虫となるまでの期間は温度によって左右され、25℃なら17日間~30℃なら12日間で卵から成虫に生育し、年間の発生回数は10回-13回と多い。
休眠しないナミハダニやミカンハダニの場合、気温が高ければ1年中増殖することができる。
ダニ類は体の大きさが約0.5mm程度と小さいため、ダニの発生に気付くのは、作物に被害の症状が現れてからのことが多い。圃場や施設内を良く見回り、ハダニであればカスリ状や白っぽくなった症状の葉を見つけたら、葉の表裏をよく観察し、ダニが寄生しているかどうかを確かめ、寄生しているダニの種類を確かめて防除対策を考えるようにしてほしい。
2.ダニ目の防除対策
(1)殺ダニ剤の使用 [化学的防除]
見えにくい部位に存在するダニ目の防除は、殺ダニ剤を使用するのが最も効果的な方法である。しかし、化学農薬の場合、連用などによって容易に抵抗性が発達する事例が多いので、殺ダニ剤は薬剤系統の異なる成分のローテーション散布を徹底する。また、殺ダニ剤の選択にあたっては天敵に対する影響なども考えて選択し、ダニ剤の特性を生かした防除を心がける。適宜、気門封鎖剤との併用など他の方法との
(2) カブリダニ製剤の利用 [生物的防除]
ハダニ類を捕食するカブリダニを有効成分とする生物農薬による防除が拡大しており、チリカブリダニ製剤とミヤコカブリダニ製剤が普及している。カブリダニ類の定着を促進するため、より安定した効果が期待できる放飼体系が研究され、天敵保護装置「バンカーシート」を活用した使用方法も普及している。
(3) 土着天敵の利用 [生物的防除]
圃場周辺の環境にはカブリダニ類やハダニタマバエ、ハダニアザミウマ等の土着天敵が生息しており,これらを圃場に誘引することでハダニ類防除に活用されている。利用に向けては,土着天敵に影響の少ない農薬情報や土着天敵の発生生態,圃場周辺での発生量の年次変動を確認しつつ、園内の下草管理によって土着天敵の発生と定着を図る。
(4)高濃度二酸化炭素くん蒸処理 [物理的防除]
施設内を密閉し、高濃度の二酸化炭素でくん蒸処理し、ダニ類を窒息死させる技術である。効果はあるが、設備費用などがかかるため、イチゴなど高収益作物での利用に止まっている。
(5)気門封鎖剤の利用 [物理的防除]
還元澱粉糖化物など粘着力のある液体製剤(登録済農薬)をダニの身体に散布して気門を封鎖して窒息死させる。散布回数制限の無い薬剤であるので、ダニの増殖に合わせて複数回散布すると良い。
(6)水の散布 [物理的防除]
ダニ類のいる葉裏などを中心に水でダニ類を洗い流すように散布して防除する。ただし、短期間に繰り返して実施しないと効果を維持できないのが難点である。水の代わりに食酢を使用している場合もある。
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