農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2024
【現場で役立つ農薬の基礎知識2024】秋冬野菜の病害虫防除 気象異変 予防的措置に徹し2024年8月30日
熱中症アラートが頻発する尋常ではない暑さが続いており、こう暑いと害虫もへばりそうなものだが、どんなに暑くても元気な害虫はいるもので、今年は早々からカメムシの被害が多くなり、警報や注意報の発令が各地で頻発した。毎年、病害虫の発生様相が異なってくるので、それに対する対応に毎年頭を悩ますことが続いている。そうなると、一度は発生の可能性のある病害虫をリストアップし、それらに対する予防的な備えを行うことがますます重要になっている。
その予防的な備えとは、発生する可能性のある病害虫とそれらの発生に適した気候条件を把握し、発生の条件が揃うと予想される場合に速やかに総合的防除措置を施しておくことだ。例えば、台風や豪雨などは事前に察知できるので、雨媒伝染する病害防除などを防ぐ予防散布など総合防除的措置を事前に行っておくと被害を最小限に抑えることができる。
また、これからの季節は、秋冬野菜の成長にとって重要な時期であるが、オオタバコガやハスモンヨトウなどの大型チョウ目害虫にとっても活動が活発になる時期であるので、活動が活発になる前の早めの対策が重要である。
このように病害虫防除は早めの措置が大きな成果をあげることが多いので、表に示した代表的な秋冬野菜と発生しやすい病害虫を参考に発生しそうな病害虫に対する早めの対策を検討してほしい。 なお、文中などで適用薬剤を紹介しているが、紙面の関係上、一部の病害虫に限られているので、紹介しきれなかった病害虫防除や農薬の正しい使用方法などは、農薬の製品ラベルやネット検索によって正しい情報を入手し、正しく使用してほしい。
#早期発見による早期対処
予防散布に優る防除は無し
効率的で確実な病害虫防除とは、病害虫の発生量が少なく、発病前や産卵前、あるいは害虫が小さな幼虫の時期に確実に防除しておくことであり、このような時期を逃さず防除するのが"適期防除"である。
適期防除とは、例えば小さい害虫にしか効かない農薬があったとすると、害虫が小さい時がその農薬の"防除適期"であり、病害が発生する前に散布しておかなければ効かない農薬の場合は、病害の発生前がその農薬の"防除適期"である。どんなに優れた農薬であっても、適期を過ぎると十分な防除効果は期待できないことを肝に銘じてほしい。
適期防除を行うには、ほ場をよく観察し、病害虫の発生状況を確認するのは基本であるが、毎年発生する病害虫であれば、防除暦などが示す防除時期が正に防除適期なので、そこを逃さず確実に防除するようにしてほしい。また、発生が例年と異なる場合には、病害虫防除所の発生予察情報を参考にして早めの対処を心がけ、予防散布を確実に行うようにしてほしい。
#秋冬野菜の主要病害虫と防除対策
◆オオタバコガ
オオタバコガは、ナス科やウリ科、アブラナ科、レタスその他多くの野菜を食い荒らすやっかいな大型チョウ目害虫であり、盛夏から初秋にかけて被害が大きくなる。オオタバコガは、発生期間を通じて次から次へと発生してくるので、とにかく発生の初期を見逃さずに確実に防除することが重要で、発生が始まったら発生期間を通じた定期的薬剤散布が必要だ。
特に果菜類では、幼虫が果実に食い入る前に確実に防除できるよう、発生初期からの定期防除が不可欠だ。
効果のある薬剤としては、グレーシア乳剤やフェニックス顆粒水和剤、アファーム乳剤、スピノエース顆粒水和剤、トルネードフロアブル、プレオフロアブル、プレバソン顆粒水和剤、ヨーバルフロアブルの評判がよい。
オオタバコガの発生初期から確実に防除したい場合は、セル苗かん注処理法が効果的だ。この方法は、育苗期に薬液をかん注処理するだけで、本ぽに移植後の初期被害や苗による持ち込みを防ぐことができる。効果の持続期間は1カ月程度と長く、キャベツやレタスなどでの初期の被害を回避することができる。先に紹介した薬剤のうち、ジアミド系薬剤はセル苗移植ができるので一度試してみると良い。(薬剤系列は一覧表を参照)
◆ハスモンヨトウ
発生は年に5~6回繰り返し、施設内なら越冬もできるので冬でも発生することもある。ありとあらゆる作物を食い荒らす多食性の大変厄介な害虫である。時期的には、8~10月の被害が特に大きいので、これからの季節は最重点で防除に取り組んでほしい。
この害虫の厄介なところは、幼虫が脱皮ごどに薬剤が効きにくくなることである。最終の6齢幼虫だと、特に農薬の効きがあまくなり、さらに図体がデカい分食害量も多くなって被害も大きくなる。このため、小さな幼虫段階でしっかりとした防除し、できれば産卵される前に予防的散布がなされていることが理想である。
また、発生回数が多いので、常に「幼虫が小さい時期」の防除を徹底するためには、発生期間を通じた定期的な防除が必要となってくる。その際には、殺虫剤ごとの残効期間を考慮して、残効が切れる前に、薬剤系統が異なる殺虫剤をローテーションで散布するように心がけてほしい。
指導機関などの資料で防除薬剤としての評価が高いのは、フェニックス顆粒水和剤、プレオフロアブル、プレバソン顆粒水和剤、グレーシア乳剤、ヨーバルフロアブルなどであり、古くからの薬剤では、アファーム乳剤、オルトラン水和剤、コテツフロアブル、ジェイエース水溶剤、ランネート45DF、ロムダンフロアブルなども高評価である。
◆べと病
葉に、黄色~淡褐色(ハクサイ)や淡黄緑色(キャベツ)、淡黄褐色(ブロッコリー)の葉脈に囲まれた不整形病斑をつくり、秋~冬の多湿時に発生が多くなる。
病原菌はべん毛菌類と呼ばれる湿度を好むカビで、感染から発病までの期間が短く、気付いた時には既にかなりの範囲で病気が広がっていることが多い。そのため、ジメジメした気候など発生が多くなる時期には、丁寧に観察し、病斑が見つかったら速やかに防除するようにしたい。
また、どの病害もそうだが、病斑を見つけてから防除するよりも、病害が発生する前の予防的散布が最も効果が安定するので、毎年発生するようなほ場では、発生前から定期的な予防散布を行う方が効率的である。
散布の際には、葉の裏にもしっかりと薬剤が届くよう丁寧に散布し、特に降雨など湿度が増す恐れがある場合などは、早め早めに薬剤散布を行うことを心がける。また、耐性菌の発生リスクが高い病原菌であるので、薬剤系統の異なる殺菌剤のローテーション散布を確実に実行してほしい。
薬剤防除は、予防効果に優れ残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果が期待できる薬剤(プロポーズ顆粒水和剤やレーバスフロアブル、アミスターオプティフロアブルやリドミルゴールドMZなど)を使用して、病勢を止めるようにするとよい。
ただし、治療効果が期待できる薬剤は、特に耐性菌発生のリスクが高いので、防除時期の耐性菌の発生状況を確認し、耐性菌が発生しているようであればその薬剤は使用を控えた方がよい。
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