農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(38)【防除学習帖】第277回2024年12月7日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
みどり戦略対策に向けたIPM防除でも、必要な場面では化学的防除を使用し、化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせて防除効果の最大化を狙うのだが、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できるようにするためには、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理すると、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道が探れると考えている。そのため、有効成分の作用機構ごとに分類し、RACコードの順番に整理を試みている。
現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
7.チアゾールカルボキサミド
(1)作用機構:[B]細胞骨格とモータータンパク質
(2)作用点: チューブリン重合
(3)グループ名: チアゾールカルボキサミド[グループコード:22]
(4)殺菌剤の耐性リスク:低~中
(5)耐性菌の発生状況:耐性菌未確認
(6)化学グループ名・有効成分名(農薬名):
[1]エタボキサム(エトフィンフロアブル)
(7)グループの特性:
このグループは、発芽は阻止できないが、病原菌細胞が分裂する際に必要な微小管の重合を阻害し、正常な有糸核分裂ができなくして、菌糸の分枝と菌糸先端に膨潤奇形が発生して菌糸の生長を停止させ、結果として増殖ができなくなって死滅する。
疫病やべと病など卵菌類(べん毛菌)に対して、予防効果が高く、胞子形成を強く阻害することにより蔓延防止効果を発揮する。葉内での移行性と全身の浸透移行性を有することから、弱いながらも治療効果はあるが、予防散布を基本にして使用する方が効果が安定する。耐性菌の発達リスクは低いと考えられており、フェニルアミド系薬剤やストロビルリン系薬剤との交差耐性は無く、両剤の耐性菌にも使用できる。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
エタボキサムのリスク換算係数は0.316であり、中間グループに分類されており、比較的新しい殺菌剤であることからリスク換算値軽減は考える必要はないだろう。
それよりも、フェニルアミド系薬剤耐性菌やストロビルリン系薬剤耐性菌に効果を示し、しかも耐性菌の発達リスクの低い貴重な浸透性殺菌剤であるので、耐性菌対策を十分に講じながら、用法用量を守って正しく使用するように心がける方がより良いと考える。
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