農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(44)【防除学習帖】第283回2025年2月1日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
みどり戦略対策に向けたIPM防除でも、必要な場面では化学的防除を使用し、化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせて防除効果の最大化を狙うのだが、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できるようにするためには、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理すると、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道が探れると考えている。そのため、有効成分の作用機構ごとに分類し、RACコードの順番に整理を試みている。
現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
13.SDHI殺菌剤(コハク酸脱水素酵素阻害剤)
(1)作用機構:[C]呼吸
(2)作用点: 複合体Ⅱ コハク酸脱水素酵素
(3)グループ名: コハク酸脱水素酵素[グループコード:7]
(4)殺菌剤の耐性リスク:中~高
(5)耐性菌の発生状況:複数の耐性菌が発生
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
[1]フェニルベンズアミド/フルトラニル(モンカット)
[2]フェニルベンズアミド/メプロニル(バシタック)
[3]フェニルオキソエチルチオフェンアミド/イソフェタミド(ケンジャ)
[4]ピリジニルエチルベンズアミド/フルオピラム(オルフィン)
[5]チアゾールカルボキサミド/チフルザミド(グレータム)
[6]ピラゾール-4-カルボキサミド/フルキサピロキサド(イントレックス)
[7]ピラゾール-4-カルボキサミド/フラメトピル(リンバー)
[8]ピラゾール-4-カルボキサミド/インピルフルキサム(カナメ、ミリオネア、モンガレス)
[9]ピラゾール-4-カルボキサミド/イソピラザム(ネクスター)
[10]ピラゾール-4-カルボキサミド/ペンフルフェン(エバーゴル)
[11]ピラゾール-4-カルボキサミド/ペンチオピラド(アフェット、フルーツセイバー)
[12]N-メトキシフェニルエチルピラゾールカルボキサミド/ピジフルメトフェン(ミラビス)
[13]ピリジンカルボキサミド/ボスカリド(カンタス)
[14]ピラジンカルボキサミド/ピラジフルミド(パレード)
(7)グループの特性:
このグループも病原菌が生命活動エネルギーを産生するために必須の呼吸に関わる反応を阻害する。このグループは、複雑な呼吸反応の中の複合体Ⅱのコハク酸脱水素酵素の働きを阻害し、その結果、胞子発芽や菌糸伸長など正常な生長をできなくして効果を発揮する。糸状菌であるうどんこ病をはじめとした子のう菌類やリゾクトニア菌をはじめとした担子菌類、アルタナリア菌等各種不完全菌類など幅広い病害に優れた防除を発揮する。
このグループの耐性菌発生リスクは中程度~高いと考えられ、すでに複数の病源菌に耐性菌が発生している。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
このグループに属する有効成分は14あり、農薬登録が2019年以降であるインピルフルキサムなど3成分を除くと、フラメトピルの1.000を除き全て0.316であり、出荷量もフラメトピルの31トンを除くと、全て21トン以下で大半が10トンにも満たない。
主に水稲用途で使用されるフラメトピルやフルトラニルを除くと、幅広い病害に効果を示す貴重な園芸殺菌剤であるため、これらは耐性菌対策に留意しながら使用する方が得策と考える。
下表には、このグループに登録のある病害名を記載し、どのような菌に活性があるかを示した。
これらはあくまで参考とし、実際の使用の際には使用する剤の登録内容をよく確認して使用してほしい。
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