規模や作業体系考え

2．除草剤の種類と上手な選び方

組合わせた剤が中心

水田に発生する雑草には、ノビエなど稲と同じ種類のイネ科雑草やアゼナなどのイネ科以外の広葉雑草、種で増える一年生雑草や塊茎をつくり塊茎でも増殖するホタルイやクログワイ、オモダカといった多年生雑草など様々な種類の雑草が生えてくる。

1成分でこれらの全ての雑草を枯らせるとありがたいが、水稲用除草剤の有効成分の多くは、枯らせる雑草と枯らせない雑草とがあり、全ての雑草に実用的な効果を示すものはほとんどない。

唯一、けいはん除草や畑地を中心に使用されるグリホサート系（ラウンドアップ）やグルホシネート系（バスタ）など非選択性の茎葉処理剤は、1成分でどんな雑草も枯らしてしまうが、これらは、植物という植物、つまり作物まで無差別に枯らしてしまうので、作物が植わっている状態では使用することはかなり難しい。

そのため、多くの場合、ヒエ以外の雑草を枯らすことができる成分（母剤）と、主としてヒエを枯らす力に優れた成分（ヒエ剤）と2種以上の有効成分を組み合わせた除草剤が使用されている。

普及面積増やす新顔

いわゆる母剤と呼ばれる有効成分には、スルホニルウレア系剤（ベンスルホロンメチル、ピラゾスルフロンエチル、イマゾスルフロン、シクロスルファムロンなど）が長く使用されてきたが、これらに抵抗性を示す雑草の発生に伴い徐々に使用量は減少した。しかし、スルホニルウレア系成分は、幅広い雑草に効果があることから、スルホニルウレア系抵抗性雑草に効果のある成分（抵抗性雑草対策剤・主としてカヤツリ剤）を加えることで、抵抗性雑草が発生している地域でも十分な除草効果が得られることから、現在でもスルホニルウレア系に抵抗性雑草対策剤を加えた混合剤多く使用されている。

この他、スルホニルウレア系とは作用性の異なる白化剤（テフリルトリオンやメソトリオンなど）や従来のスルホニルウレア系除草剤抵抗性雑草にも効果を示す新規ＡＬＳ阻害剤（ピリフタリドやピリミスルファン、プロピリスルフロンなど）が登場し、普及面積を増やしている。

以下に、これら分類別有効成分と主な有効成分の作用特性を整理したので参考にしてほしい。

【表】主な母剤の分類と有効成分名

【表】主なカヤツリ剤の有効成分名

一方ヒエ剤には、オキサジクロメホンやフェントラザミド、メフェナセット、プレチラクロールなどがあり、母剤との組み合わせで多種多様な除草剤が使用されている。

【表】主なヒエ剤の有効成分名

【表】主な有効成分の分類とその作用特性

使用時期や剤型分類

水稲除草剤は、有効成分の違いだけではなく、その使用時期によっても分類される。

田植え直後から田植え5日後頃までに使用する除草剤を初期剤、田植え20日～25日後頃までに使用する除草剤を中期剤、それ以降に使用する除草剤を後期剤と呼んでいる。

加えて、初期の1回処理で初期から中期の長期間に渡って除草効果を発揮する初中期一発剤と呼ばれるものがあり、現在の水稲用除草剤で最も多く使用されている。

この初中期一発剤には、スルホニルウレア系剤や白化剤、新規ＡＬＳ阻害剤を母材とするものが多く使用されている。

また、水稲用除草剤には同じ有効成分を含む同じ名前で複数の剤型がそろえられているものが多く、使用する面積や散布器具等に応じて使い分けられている。

昔からよく使われているのが粒剤（1キロ剤、3キロ剤）である。粒剤は、散布した粒剤の量に偏りがあると、多目にまかれた部分は薬害発生のリスクがあり、まばらにまかれた部分は薬量不足による効果不足が起こるリスクがあるため、均一散布が基本である。

ところが、水田が大きくなればなるほどこの粒剤の均一散布は骨の折れる作業であり、散布の省力化が求められていた。それで登場したのが液状タイプのフロアブル剤であり、これはある程度雑にまいても薬剤自体の拡散力で水田内を拡散するようになり、粒剤よりも散布労力が軽減された。さらに自己拡散機能を持ったジャンボ剤が登場し、10aあたり10個程度のパックを投げ入れるだけで除草効果を発揮できるようになった。

最近では、ＦＧ剤や豆つぶ剤という自己拡散型の粒剤が登場し、10aあたりの散布量も250g～400g程度と軽くて散布が楽で、風速が3㍍以上あっても散布できる剤型が登場している。特にＦＧ剤は、風上一辺散布という水田の風上側の一辺から水田内めがけて散布するだけで水田全体に有効成分が拡散して効果を発揮するため、その省力性が評価されている。ただし、ジャンボ剤やＦＧ剤・豆つぶ剤などの拡散性製剤は十分な水深がないと拡散できないので、散布前に最低5cm以上の水深を維持する必要があることに注意してほしい。

選択のポイント

このように、多くの水稲除草剤があるので、使用する除草剤を選択するのも一苦労である。除草剤を選ぶ際には、生産者の田んぼの状態や好みなどに適したものを、有効成分や使用時期、まき方などを考慮して選ばなければならいので骨の折れることであろう。

選択のポイントは、発生する雑草の種類や発生消長、あるいは経営規模による作業体系に合わせて、除草剤の選択や体系処理の要否などを決定する必要がある。また、スルホニルウレア系除草剤の抵抗性雑草が問題となる地域では、ブロモブチドやベンゾビシクロン、クロメプロップといった抵抗性雑草対策成分を含む除草剤を選ぶようにする。

テフリルトリオン剤等の白化剤は、少ない成分で幅広い雑草に安定して効果を示し、しかも除草効果が長く持続するので、初中期一発処理タイプのものを選択するようにすると間違いないだろう。

処理方法や使用する機械でも選択の幅が出てくる。それは剤型によって適した散布の仕方が異なるからだ。例えば、1キロ粒剤であれば、背負い式散粒器の他、田植え同時散布機、面積が小さければ手動散粒器が使用される場合もあるし、フロアブルであれば手散布（田んぼの周縁散布）やラジコンボートでの散布、拡散性製剤であれば、ＦＧ剤のように風上一辺のみの散布で十分拡散するものもあるし、軽量を生かしてドローンで散布する場合も出てくる。また田んぼの状況（特に減水深）に合わせて剤型を選ぶ必要がある。例えば、減水深が大きく水持ちが悪い水田では拡散性製剤を使用することはできず、1キロ粒剤の均一散布しか選択枝が無い場合などである。

いずれにしろ、自分の水田の状況をよく把握し、それにあった除草剤や剤型を選ぶようにする必要があることを覚えておいてほしい。

基本技術積み重ね

3．まとめ 当たり前のことを確実に

水稲用除草剤のサステナブルな使い方を整理するとおおよそ次のようになる。

まず第1に健全な苗を育て、代かきを十分に行ってデコボコのない均平な田んぼにする。第2に発生している雑草の状況（発生の種類、発生の時期）を把握し、それにあった除草剤を選択する。第3に、使用する除草剤の適用内容や注意事項をよく読んで、選択した除草剤が最も効果を発揮できる時期を逃さずに使用量や使用条件を守って、きっちり均一に散布する。第4に除草剤散布後の水管理（7日間止水など）を着実に実行する。

これらは、従来からいわれているごく当たり前のことではあるが、実際の使用現場では、これらのどこかが抜けたり、ミスしたことが原因となって、雑草の取りこぼしや薬害の発生に結びついてしまうことが多い。

水稲用除草剤が水を介して拡散し処理層をつくるという特性がある以上、以上のことを十分に理解した上で除草剤を選択・使用され、除草剤が持つ本来の性能が十分に発揮されることを願うものである。