農薬:JA全農がめざすもの
【JA全農がめざすもの】肥料農薬・鉄コーティング水稲直播 水田農業の省力化・低コスト化に貢献する2014年12月5日
JA全農普及面積拡大をめざして
・経営規模拡大を促進する
・水田フル活用や複合経営に貢献
・全国26府県に169の実証圃が
JAいずもコスト低減目的に着実に面積を拡大
・大きなポイントは「作り置き」ができること
・生育初期の巡回指導強化
・TACが生産者を勇気づける
水稲栽培の省力化・低コスト化技術としてJA全農では「鉄コーティング水稲直播栽培」の普及を図っている。26年度は、JAの営農指導員などを対象とした基礎講習会を全国各地で6回開催し計224名が受講しているが、さらに一歩進めた「応用講習会」を、8月大阪、9月広島、10月千葉、11月宮城で開催した。
こうした取り組み内容と、応用講習会で報告されたJAいずもの取り組みを紹介する。
普及面積拡大をめざして
JA全農
◆経営規模拡大を促進する
水田農業は日本農業の根幹であると同時に地域経済を支える重要な柱でもある。しかし今日の姿は、担い手である農業生産者の減少、消費の停滞や農産物価格の下落等による収益性の低下など大きな悩みを抱えているのが実情だといえる。一方で、高齢化して農業を続けることができなくなった人たちの農地を預かることで、農業経営の大規模化も進んできている。
しかし、規模が大きくなると、限られた人数での育苗作業や分散した水田での移植栽培にかかる労働力と労働時間の負担が大きくなる、という問題が生じてきている。
そうした問題を解決する方法としては、早生から晩生までの品種を組合わせた作期分散が考えられるがそれにも限界がある。
そこで注目されているのが、種籾を水田に直接播種する水稲直播栽培だ。直播栽培は、育苗・移植作業は不要なので春作業の省力化がはかれ、通常の移植栽培に比べて労働時間で約2割、10a当たり生産コストが約1割削減できる。さらに収穫期が1?2週間程度遅れることから、移植栽培と組み合わせることで作業のピークを分散し、経営面積の拡大も可能になる。
だが、出芽・苗立ちが不安定、播種した種籾を鳥に食べられることがあるなど、収量が移植栽培に比べて約1割低下するという問題がある。
そうした直播栽培の問題を解決した水稲直播栽培技術が「鉄コーティング水稲直播栽培」だ。
(写真)
鉄コーティング種子
◆水田フル活用や複合経営に貢献
JA全農では、平成20年にこの栽培技術に注目し、取り組みを開始。同年には鳥取、島根、広島の3県8JAで実証展示圃を設置。その後、毎年、試験実施JAを集め、鉄コーティング水稲直播栽培技術研究会を開催して、技術実証を通じた課題整理と対応策について協議してきた。
そして26年1月に、優れた低コスト生産技術として全国的に定着させるために「鉄コーティング水稲直播推進大会」を開催し、さらに積極的にこの栽培技術を普及していくことにした。この推進大会で決定されたJA全農の取組みの基本方針は
水田のフル活用と水田作における農家経営の安定に資すること、並びに、大規模経営体の複合経営の一助とすることを目的とし、優れた低コスト・省力栽培技術として鉄コーティング水稲直播栽培の普及に取り組む。
普及具体策として
[1]講習会の開催:営農指導員向けの技術講習会の定期開催。生産者向けのJA別講習会の開催。
[2]展示圃の設置(後述)
[3]普及に向けた組織化:JAは管内の鉄コーティング水稲直播栽培農家の登録・組織化。県域では普及会の設立、普及推進大会開催など。
[4]行政・指導機関との連携。
[5]JA別・県別目標の設定と進行管理。
を決めた。
◆全国26府県に169の実証圃が
JA全農では26年度から実証圃を、「普及展示圃」(省力実証圃)と「大規模実証圃」に区分けして設置している。
「普及展示圃」は「省力・低コストの実証」を目的にし、原則10?30a規模で「省力に資する資材(肥料、農薬)を用いて栽培」し、その効果を確認調査する。
一方「大規模実証圃」は、「大規模経営での課題解決と経営収支改善実証」を目的としている。すでに鉄コーティング直播の経験があり、原則1経営体あたり2ha以上で設置する。実証後には経営指標の提出が可能という実践的な圃場だ。
26年度の設置数は、省力実証が13府県98カ所、大規模実証が10府県10カ所となっている。その他、県本部が独自に設置運営している実証圃や展示圃が13府県61カ所あり、これも加えると全国26府県で169カ所に実証圃が設置されたことになる。
水稲直播面積(乾田直播+湛水直播)は、東北や北陸地域を中心に増加傾向にあり、全国で約2万ha取り組まれていると推定されている。なかでも鉄コーティング直播の面積は、26年度は約1万2000haに普及とJA全農では推定している。今後も省力・低コストに貢献できる技術として拡大したいという。
(写真)
機械操作の説明受ける応用講習会参加者(千葉で)
コスト低減目的に着実に面積を拡大
JAいずも
◆大きなポイントは「作り置き」ができること
JAいずも(島根県)は、生産コスト低減を目的に、平成20年産に実証圃1.7haを設置し今日まで鉄コーティング直播に取り組んできている。
JAいずもが取り組みを始めたポイントは、
[1]コーティングコストが安価
[2]発芽がよく、表面播種なので生育の観察が可能
[3]動力散布機、散粒機でも散布可能
[4]鉄コーティング種子の作り置きが可能
ということだった。
とくに「作り置きが可能かどうか」は重要で、「カルパーのように播種直前にコーティングするとなると、JAのような機関としては、多くの農家要望に応えることができず、個々に取り組んでもらうより方法がない。このことが足並みが揃わない理由にもなる」(同JA営農部総合対策課 原田透係長)からだ。
翌年の21年産は、飼料用米の低コスト生産手法と飼料用米なら、という取組みやすさも手伝って多目的田植え機、動力散布機や散粒機、手蒔きの方法で面積が21.2ha(主食6.2ha、飼料15ha)に拡大するが、「飼料用米なら…」という安易な取り組みを行った結果、発芽不良、雑草の発生、水管理不足による生育不良ほ場が散見されたため、関係機関と一緒に圃場巡回を行い対策をまとめる。
22年産は21年産の反省にたち、生産者を限定し、鉄コーティング大量製造機を導入し、種子製造から栽培指導まで足並みのそろった活動を展開。栽培面積は13.2ha(主食6.2ha、飼料7.0ha)。
◆生育初期の巡回指導強化
その後、23年産からは直播栽培の優位性と栽培技術の向上から主食用米(きぬむすめ)中心に面積を拡大(主食11.1ha、飼料10.0ha、合計21.1ha)。
24年産(主食17.3ha、飼料14.3ha、合計31.6ha)、25年産(主食28.0ha、飼料5.5ha、合計33.5ha)の栽培面積は横ばいだが、コシヒカリとつや姫の直播展示試験にも着手する。
26年産は主食27.4ha、飼料18.0ha、合計45.4haと、再び飼料用米が大きく拡大したが、過去の反省から生育初期の巡回指導を強化したという。
また、試験的にシリカゲルを導入して仕上げコーティングしたが、塊が激減。塊があっても軽く手を加えるだけでホロリと崩れる状態に仕上げることができ、コーティング技術も進化した。
◆TACが生産者を勇気づける
いままでの慣れた移植栽培から鉄コーティング直播栽培に転換することは、生産者にとって「とても勇気がいる」ことだ。やってみたいという気持ちがあっても、なかなか踏み切れないものだ。しかし、省力化やコスト低減には大型農家ほど関心も高いといえる。JAいずもでは、講習会など公の場では質問しにくいことも、「TACが個別に詳細な説明を行うことで対応した」と、TACの果たした役割を原田係長は強調する。
さらにTACは、県の普及員やJA営農指導員と一緒に直播全圃場巡回を行い、各圃場の課題と今後の対策をまとめ、後日、TACが個別に課題と対策の詳細説明を行ったり、農家と一緒に水管理を行うなど、栽培技術の向上を図ってきた。
20年産の1.7haから始まったJAいずもの取り組みは、紆余曲折を経て、26年産では45.4haへと拡大してきた。それを実現したのは、生産者の高齢化などによる耕作放棄地解消問題、生産費・粗飼料高騰対策、転作対応などさまざまな課題を解決する一つのしかし重要な手法としてこの鉄コーティング水稲直播栽培を位置づけ、着実に取り組んできたJAの姿勢、そしてそれを具体化してきた営農指導員やTACの地道な活動だといえる。
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