農薬:農薬危害防止運動2015
【平成27年農薬危害防止運動始まる】農作物・生産者・環境の安全を2015年6月4日
・手慣れた作業でも気を引き締めて
・農薬の適正使用で病害虫・雑草防除
・登録のある農薬を使用方法を守って
・農薬の散布時には周辺環境に配慮
・全ての管理徹底が安全につながる
・モデル防除暦作成“見える化”図る
・直売所出荷を含む全生産者へ指導
・栽培から出荷まで安全管理実践を
水稲はもちろん野菜や果樹などの農作業が忙しい時期となった。そしてこれからの数カ月、病害虫や雑草が発生しやすいため、高品質で安定した収量の農産物を収穫するためには、的確で適切な防除が必要となる。国(農水省・厚労省・環境省)は毎年、6月1日から8月31日までの期間を「農薬危害防止運動」実施期間と定め、適切な農薬使用に取り組んできている。また、JA全農も毎年この期間を「安全防除運動」月間と位置づけ、「農作物、農家、環境」の3つの安全のための基本を確認し、実践する運動を展開している。そこで、今年のJAグループの安全防除運動のポイントなどについて、JA全農肥料農薬部技術対策課にまとめていただいた。
◆手慣れた作業でも気を引き締めて
JA全農は、JAグループにおける経済事業において、技術や物資、情報を効率的に利活用する仕組みを構築し、その事業活動を通して食料を供給していく責務を担っている。これからの日本農業は農家の高齢化がますます進む一方で、大規模経営体が増加し農地集約が一層進むと考えられる。また、農産物の輸出入の拡大も予想されることから、国産農畜産物の安定供給と低コスト生産のための生産現場への対応強化がますます重要となる。消費者が求める「安全・安心な農産物の提供」、生産者が求める「安全かつ省力・低コスト農業生産」に応えるため、JA全農の営農および生産資材部門では様々な事業に取り組んでいる。
また、農薬事業の柱としてJAグループの安全防除運動がある。昭和46年にスタートし農薬の適正使用と安全な農作物の提供のため、その時々の社会的背景や生産現場での課題などに対応しながら、一貫して「農作物、生産者、環境」の三つの安全を柱に取り組んできている。
農薬は安全な農作物の生産、安定供給のために欠かせない資材であることから防除に関する正しい知識の普及、生産者を守る保護具への理解、圃場周辺や周辺環境への影響軽減などに取り組んできた。また、農薬の適正使用を進めるため、防除日誌の記帳、防除暦の検証とともに農薬の残留分析を実施し、実際に農薬を使用して栽培された農作物の安全性も立証してきた。
水稲面積が多い日本では春からの本田での作業が5?6月に集中する。毎年行なう慣れた作業ではあるが、うっかりや見落としなどによる事故を起こさないよう気を引き締めるためにも、作業の忙しくなる6月を推進月間と位置づけ、啓発資材なども活用しながら生産者への注意喚起や巡回指導など各生産地で実施している。
◆農薬の適正使用で病害虫・雑草防除
日本は高温多湿で、国土が狭いため多種類の作物が集約的に栽培される場合が多く、病害虫が発生しやすい環境にある。そのため、病害虫・雑草防除を確実に行う必要がある。農薬は農作物の安定生産のためにも必要な資材である。決められた使用方法を守って使えば、農作物の安全性は確保できる仕組みとなっている。そのため、農薬の適正使用の遵守を最重点に、防除の記録と確認、飛散・流出防止対策、保管・管理などを全生産者に実践していただくとともに、農薬適正使用の指導手段として防除暦を整備し、その活用とさらなる充実に取り組むこととしている。
◆登録のある農薬を使用方法を守って
農作物の防除に使用できる薬剤は農水省が認可した資材だけであり、使用方法も定められている。農薬の使用方法は、効果とともに収穫時には残留農薬基準値以下となるよう使用時期・使用量・回数、散布方法などが決められている。その使用方法を守って使えば、収穫物から基準値を超えて農薬が残留することはないが、時折、基準値超過の事例が報告されている。使用時期や希釈倍数を間違えた、適用のない作物に使用した、という事例である。
使い慣れた農薬であっても適用内容が変更となったり、同じ薬剤でも作物により使い方が変わるものもあるので、使用前には、再度農薬ラベルを確認する習慣をつけるようにする。使用回数は、本剤のみと成分ごとの総使用回数で制限される。必ず確認し適用範囲内の使用回数にとどめることである。
また、食品の安全性確保のために新たな評価法が導入された。短期に多量に摂取した場合でも安全性が確保出来るようにするためである。新たな評価の結果、既存農薬において使用方法等を変更せざるを得ない場合もあるので,登録変更内容に留意し、変更後の使用内容で使用するようお願いする。
なお、農薬は最終有効年月が記載されているので期限内に使いきるよう購入時に調整するようにする。
◆農薬の散布時には周辺環境に配慮
農薬の効果を十分に発揮させるためには、圃場整備やその後の管理が重要となる。農薬は水系や土壌、周辺環境への影響を確認した上で登録されているが、農薬を使用する際には圃場外に出さない配慮が必要となる。特に水田においては、農薬の効果を十分に発揮させるためにも田面の均平化、湛水深の確保などの圃場整備とともに、施用した農薬成分を圃場外へ出さない水管理が重要であり農薬処理後7日間の止水管理を徹底していただきたい。
農薬を適正に散布していても飛散を防ぎきれない場合もあるが、事前の対策、散布時のきめ細かな対応によりリスクを減らすことはできる。使用する農薬については、より飛散の少ない剤型や周辺作物にも適用可能な薬剤へ切替える、農薬散布時では、風や散布方向に注意するなど飛散防止対策の基本となる方法をしっかり行うことでリスクは減らすことが可能である。飛散低減ノズルや遮蔽ネットの使用など散布条件や圃場環境の改善によっても十分な効果が得られる。
なお、住宅地や公共施設、養蜂場などが圃場近くにある場合は、農薬散布を事前に連絡し、被害防止のための対策をお互いに行なうなど、地域一体となって取り組む体制づくりをお願いしたい。
◆全ての管理徹底が安全につながる
生産者の健康管理、散布機具の整備、農薬の保管・管理と、あらゆる場面で管理を徹底していくことが事故をなくし安全につながる。農薬を使用する時は、面倒と思わず保護具をしっかり着用し、自らの安全も確保する。また、農薬は専用の保管場所で鍵をかけて管理し、使用者以外が触れないようにする。
散布機具は使用後は必ず洗浄をすることを忘れないようにする。散布液調整の際は希釈液を作る前に器具内に水を通して洗浄し、コックを開いた直後の液はなるべく作物にかけないようにするとより安心である。
また、作物の残留基準値超過の事例として散布器具の洗浄不足も原因の一つとなっている。散布器具内に農薬が残ったまま次の作物に使用したことで対象の作物に使っていないはずの農薬が検出されたり、薬害を起こす事がないようにしたい。散布器具は使用後の洗浄と使用前の再度の洗浄確認を是非実践していただきたい。
◆モデル防除暦作成“見える化”図る
防除暦には栽培ステージに沿った防除対策など多くの情報が盛り込まれており、農薬の選定や防除法の確認のための重要な資料として生産者に活用されている。防除暦は、防除の技術情報や指導を伝えるだけでなく、農産物の安全性を確保するためのツールとしても機能している。省力・低コスト、効率防除の観点からも防除暦の作成・活用が大きな役目を果たすと考えられる。
JA全農では、モデル防除暦の作成を進めている。モデル防除暦では栽培スケジュールに沿って防除が必要な病害虫を明確にし、防除が必要となる発生の目安を示した上で、どういう薬剤をいつ使用すればよいのかを「見て分かる」ようにする。また、定期的な農薬散布ではなく、病害虫の発生を見ながら適期散布の実践につなげる。作成する暦には効率的な防除法のほか、抵抗性問題、環境への配慮、低コスト・省力防除などを盛り込むなど多面的な視点からの防除体系の提案を合わせ行っていく。
なお、生産地で使える暦にするには、実際の栽培状況に合わせて作成していくべきであり、「全ての地域、全ての作物で防除暦を作成すること、多様な生産者にも対応できること」ことが今後の課題となる。
◆直売所出荷を含む全生産者へ指導
生産形態や販売方法も多様化してきており、地域の農産物直売所も多くなってきた。出荷者の中には、少量多品目のみを栽培する場合も多い。これらの生産者に対し防除対策、農薬適正使用の指導が十分でないことも考えられる。また、直売所においては、農作物の生産から加工・販売まで、衛生面や表示など全工程におけるリスク管理が求められる。地産地消を進めるJA全中とも連携しながら、JA直売所を中心に出荷者に対し生産・販売においての問題点・課題等を認識いただき、十分な対応策を実践していただきたいと思う。
◆栽培から出荷まで安全管理実践を
農作物を栽培から、収穫物を出荷するまでには多くの注意すべき事項があることは言うまでもない。農薬の適正使用はもちろんであるが、圃場整備においては、圃場周辺からの汚染がないよう整備し、使用する水の安全性を確認しておく必要もある。生産段階においては資材の選定・保管、作業性の効率、農機具の管理も重要となる。そして収穫した農作物が汚染されることのないよう収穫用資材を区別し、生産作業の資材と混在させないよう保管管理をしっかり行うことである。
安全な農作物を提供していくためにも、農薬の適正使用、安全管理を実践していただきたい。
(全国農業協同組合連合会 肥料農薬部技術対策課)
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