農薬:農薬危害防止運動2019
農薬を知る 理解する 適正に使う 平成30年度農薬危害防止運動(6月1日~8月31日)2019年5月31日
農林水産省は厚生労働省、環境省と共同で、都道府県や関係団体の協力のもと、6月から8月にかけての3か月間、「2019年度 農薬危害防止運動」を実施する。運動は農薬の安全かつ適正な使用および保管管理の徹底、環境に配慮した農薬使用等を推進するために毎年行っているもので、本年度の実施要綱には、新たに運動のテーマ「農薬を知る。理解する。適正に使う。」が設けられた。農薬使用者のほか、毒物劇物取扱者、農薬販売者等を対象に、関係法令等に関する講習会などを開催し、農薬の取扱いに関する正しい知識の普及と啓発に取り組む。農作業が本格化するこれからの数か月は農作物の収量や品質に大きな影響を及ぼす病害虫・雑草が発生しやすく、農薬を使う機会も増える。異常気象により、農薬を緊急的に使用する状況の可能性もある。改めてその趣旨と目的を理解し、運動に取組みたい。
農薬の適正使用を呼び掛ける農水省のポスター
実施要綱の中で運動のテーマを明確化
2019年度農薬危害防止運動の実施要綱には、新たに運動のテーマ「農薬を知る。理解する。適正に使う。」が設けられた。昨年12月1日施行の改正農薬取締法で規定された「農薬使用者は、農薬の使用に当たっては、農薬の安全かつ適正な使用に関する知識と理解を深めるように努める」を受けて、運動のテーマを改めて明確化し、これまで以上に農薬の適正使用の周知徹底に取り組む。
また具体的な実施事項についても、新たに(1)土壌くん蒸剤を使用した後の適切な管理の徹底、(2)住宅地等で農薬を使用する際の周辺への配慮の徹底、(3)誤飲を防ぐため、農薬の容器の移し替えについて注意喚起、(4)農薬ラベルによる使用基準の確認の徹底を、重点指導項目として掲げている。
農薬は農薬取締法をはじめ、毒物及び劇物取締法、食品衛生法等の関連法規により、使用方法や残留基準等が定められており、適正に使用する限り、農作物の安全性は確保されている。
しかし、農薬使用者や周辺環境などに対する被害事例のほか、農作物から基準を超えた農薬成分が検出される事例、農薬登録を受けることなく農薬としての効能をうたっている資材や成分からみて農薬に該当する資材が販売、使用される事例も散見されている。
5つの実施項目を軸に正しい知識の啓発を
農薬危害防止運動では、関係法令に基づき遵守すべき事項について周知するとともに、農薬およびその取り扱いに関する正しい知識を広く普及させることにより、農薬の適正販売、安全かつ適正な使用および保管管理ならびに使用現場における周辺への配慮などを徹底。農薬の不適切な取り扱いやそれにともなう事故等を未然に防止するのが目的だ。
具体的な実施事項は、次の5項目に要約される。
1.啓発ポスターの作成および配布、新聞への記事掲載等による、農薬およびその取り扱いに関する正しい知識の普及啓発
2.農薬による事故を防止するための指導
3.農薬の適正使用等についての指導
4.農薬の適正販売についての指導
5.有用生物や水質への影響低減のための関係者の連携
ポスターや講習会を通じて幅広く啓発
農水省等による今年の啓発ポスターには、三つの運動のテーマが盛り込まれた(図)。農薬企業が運動に参画し、独自にポスターを制作して全国に配布する啓発活動の例もある。
農薬や農薬使用に関する正しい知識の啓発普及については、報道機関に対する記事掲載の依頼や広報誌、ポスター、インターネットなど多様な手段を用いて行われる。また農薬使用者や毒劇物取扱者、農薬販売者などを対象にした講習会の開催に加え、万が一事故が発生した場合に備え、医療機関には農薬による中毒時の症状、および応急処置などについてまとめた資料も配布される。
◆農薬の事故防止への対応
農薬使用時の不注意などによる事故を未然に防止するためには、農薬使用者、病害虫防除の責任者、防除業者などへの関係法令や過去の事故例とその防止策をまとめた「農薬による事故の主な原因等及びその防止のための注意事項」の周知徹底が行われる。
人に対する事故の原因をみると、農薬用マスク、保護メガネなど防護装備の不備、防除器具の点検不備などがあげられる。通行人や近隣住民への配慮不足、強アルカリ性の農薬と酸性肥料の混用による有毒ガスの発生、農薬散布作業前日の飲酒や睡眠不足、病中病後など体調が万全でない状態で作業を行ったために起こった事故の例もある。
農薬散布時には、マスクやメガネなどの防護装備を着用するとともに、現場混用の際は、「農薬混用事例集」等を参考にしたい。土壌くん蒸では、防護マスクのほか、施用後にビニール等で確実に被覆することも重要になる。
住宅地周辺では、農薬を散布する日時や農薬の種類を事前に告知しておくことはもちろん、農薬が飛散して周辺住民や子供たちに健康被害をおよぼさないように注意しなければならない。
その対策は、「住宅地等における農薬使用について」(農林水産省、環境省)に示されている。学校や病院、公園などの植物や街路樹などへの農薬散布でも同様の注意が必要であり、「公園・街路樹等・病害虫・雑草管理マニュアル」(環境省)が参考になる。
有人ヘリコプターや無人航空機(無人ヘリコプター、ドローン)を用いて農薬散布を行う場合、関係法令の遵守はもちろんだが、事前に散布日時や農薬の種類等を周辺住民に周知する必要がある。また、無人航空機で農薬を散布する場合、航空法に基づき事前に国土交通大臣の許可・承認を受けなければならない。
農薬事故や被害の実態を原因別にみると、最も件数が多いのは保管管理不良や泥酔等による誤飲誤食となっている。農薬やその希釈液、残渣は、ペットボトル、ガラス瓶などの飲食品の空容器等に移し替えたりせず、施錠された農薬保管庫に保管するなど、管理の徹底が求められる。
◆農薬の適正使用を徹底
農薬による危害を防止し農作物の安全を確保するために、農薬使用者には守らなければならない基準が定められている。適用作物や使用量、希釈倍率、使用時期および使用回数等の農薬使用基準、適用病害虫の範囲、使用方法、使用上の注意等の遵守である。
農薬危害防止運動の実施事項には、「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」を参考にした取り組みの指導がある。安全な農産物の生産のために、GAPの点検項目の中の農薬適正使用について、注意喚起と積極的な指導が求められている。
農薬の散布作業では、飛散防止も重要になる。防除しようと思った作物以外の作物に農薬が飛散した場合、その作物に農薬登録がなければ非登録農薬の使用となってしまうからである。
また河川から農薬登録保留基準案を上回る濃度の農薬成分が検出される事例がみられる。水稲除草剤の使用で、十分な止水期間をとらずに水田内の水を流してしまったことが要因のひとつと推察されている。注意事項に記載された止水期間を遵守し、水漏れの原因となる畦畔の管理をしっかりと行う必要がある。
販売や使用が禁止されている農薬については、使用したり、譲渡したりせずに、関係法令を遵守して適正に処理しなければならない。
同様に農薬登録番号がないにもかかわらず、農薬としての効能効果をうたっている資材や病害虫の防除効果がある資材は、無登録農薬の疑いがあり、農薬取締法に違反する可能性があるため、使用してはならない。
◆除草剤の販売に新たな指導
農薬を販売するには、都道府県知事への届出が、毒劇物に分類される農薬の販売には都道府県知事等への届出と登録が義務付けられている。農薬登録番号等の表示がなく、病害虫の防除効果をうたっている資材は無登録農薬の疑いがあり、その資材を販売することは農薬取締法に違反する可能性がある。農薬販売者にも農薬使用者と同様に、こうした資材を販売しないように指導が徹底されている。
毒劇物に分類される農薬の販売においては、譲渡人の身元ならびに使用目的や使用量が適切かどうかを十分に確認する必要があるとともに、一般消費者への販売を自粛しなければならない。
農薬の適正販売では、新たに農薬として使用できない除草剤の販売に対する指導が加えられた。農薬取締法の登録を受けていない除草剤は、農作物等の栽培・管理に使用することはできない。農薬に該当しない除草剤がドラッグストアやインターネットで販売される際の「非農耕地専用」という表示が、購入者に公園や緑地等であれば使用できると誤解される事例がある。
農薬に該当しない除草剤の販売においては、容器や包装に農薬として使用できない旨を表示することや農耕地以外の場所でも農作物の栽培・管理に使用できない旨の周知に努めることが求められる。
◆有用生物や水質への影響を低減
農薬使用においては蜜蜂の被害防止対策など環境への配慮も欠かすことができない。蜜蜂の被害は水稲のカメムシ防除時期に多く発生し、巣箱周辺の死虫からはカメムシ防除に使用可能な農薬成分が検出されているが、周辺に水稲が栽培されていない地域でも被害事例が報告されている。
被害を軽減させるには、農薬使用者と養蜂家との間で農薬散布の情報共有や巣箱の設置場所の工夫・退避、巣門を閉鎖し日陰に設置などの対応に加え、粒剤など飛散しにくい剤型を選ぶ対策が求められる。
水産動植物の被害や水質汚濁への配慮も重要になる。特定の農薬を地域で集中して使用すると、その農薬に感受性の高い生物種に大きな影響を与える可能性があるため、できるだけ多様な農薬を組み合わせて使用する必要がある。因果関係は必ずしも明らかではないが、ほ場周辺の井戸水から高濃度の土壌くん蒸剤が検出された事例もあるため、農業現場における土壌くん蒸剤の使用状況等を把握することも大切だ。
またゴルフ場の農薬散布では、「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止及び水産動植物被害の防止に関わる指導指針の制定について」(環境省)を参考に、排出水に含まれる残留実態を把握しつつ、十分に留意することが必要となる。
全農など関係団体も安全な防除に取り組み
関係団体による独自の活動も毎年活発に行われている。JA全農は、JAグループとして昭和46年から安全防除運動に取り組んでいる。農薬の適正使用と安全な農作物の提供のために、当初から「農作物、生産者、環境」という三つの安全を掲げ運動を展開している。農薬の適正使用の推進に向け、防除日誌の記帳や防除暦の検証を行うとともに、農薬の残留分析を実施するなど、農薬を使用して栽培された農作物の安全性の立証を積み重ねてきた。
特に防除暦についてはモデル防除暦の作成を進め、栽培計画に沿って防除が必要な病害虫を明確にした上で、防除が必要となる発生の目安を示し、効果的な薬剤の選定と使用を分かりやすくすることで、スケジュール散布ではなく、適期散布の実践につなげている。近年は、少量多品目の生産者が多い農産物直売所への啓発活動を行うなど安全防除運動の充実と強化にも取り組んでいる。
また農薬企業の団体である農薬工業会は毎年、農薬危害防止運動の時期に合わせて、同会の会員と関係団体を対象にした農薬危害防止に関する講演会を開いている。
今年は6月12日、都内千代田区の会場で、「農薬暴露に係わる最新事情/農取法改正を受けて」と題して開催する。農薬の危害防止や蜜蜂に対する農薬の影響評価、農薬のドリフト低減に配慮した散布技術などをテーマに、農林水産省や大学、研究機関などによる講演が予定されている。
わが国は高温多湿な気候であり、病害虫や雑草が発生しやすい。気候温暖化にともない海外から侵入する病害虫・雑草のリスクも高まっている。農薬は高品質で安全な農作物の生産に欠かせない資材であり、農業の生産性向上と食料の安定供給に大きく貢献している。
農薬をよく知り、理解し、適正に使用することは農作物の安全確保の基本であり、消費者から信頼を得る礎となる。
農薬の使用に当たっては、その都度、農薬ラベルの表示内容の確認を励行したい。登録内容の変更等、最新情報は、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)のホームページ「農薬登録情報提供システム」で確認できる。
安全チェックの徹底を訴える全国農薬協同組合のポスター
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