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農薬:農薬危害防止運動2020

新たな運動テーマを設定 令和2年度農薬危害防止運動を実施【農薬危害防止運動】2020年5月26日

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農林水産省は、「令和2年度 農薬危害防止運動」を、農薬を使う機会が増える6月から8月にかけての3ヶ月間、厚生労働省、環境省等と共同で実施する。本年度の新たな運動テーマは「農薬は 周りに配慮し 正しく使用」。農薬使用者のほか、毒物劇物取扱者、農薬販売者等を対象に、農薬の取扱いに関する正しい知識の普及と啓発に取り組む。農薬の使用現場では関係団体等と一体となり運動を推進する。本年度については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に十分配慮し、密閉空間、密集場所、密接場面を避けて実施するほか、外出自粛などの各都道府県等の状況に応じて、可能な取組を進める。

農業生産に大きく貢献する農薬の適正使用を徹底

新型コロナウイルス感染症の対策に向け、ワクチンや治療薬の研究開発が世界各国で進められている。農作物もまた、ウイルスや細菌に侵され、害虫や雑草による被害も甚大だ。農薬は病害虫・雑草による収量低下を防ぎ、農業生産性の向上と食の安定供給に大きく貢献している。
農薬は農薬取締法をはじめとする関連法規により、使用方法や残留基準等が厳密に定められており、適正に使用する限り安全だ。
しかし、農薬使用者や周辺環境などに対する被害事例や農作物から基準を超えた農薬成分が検出される事例等も散見されている。
近年は局地的豪雨や大型台風などが頻発しており、農薬を緊急的に使用する状況も増えている。本運動の趣旨と目的を理解し、より実効性のある取組を進めなければならない。
重点指導項目は四つ
平成30年12月1日に施行された改正農薬取締法で「農薬使用者は、農薬の使用に当たっては、農薬の安全かつ適正な使用に関する知識と理解を深めるように努める」とされたことを受け、改めて農薬の適正使用等に関する必要な知識の普及、農薬の使用に関する情報提供等を通じて農薬使用者の自発的な知識・理解の向上や農家の適正使用を図っていく。
適正使用を周知する媒体では、引き続き2019年度農薬危害防止運動の実施要綱に盛り込んだ三つの運動テーマ「農薬を知る。理解する。適正に使う。」のロゴなどの使用に努める。
重点指導項目としては、(1)土壌くん蒸剤を使用した後の適切な管理の徹底、(2)住宅地等で農薬を使用する際の周辺への配慮及び飛散防止対策、(3)誤飲を防ぐため、施錠された場所に保管するなど、保管管理の徹底、(4)農薬ラベルによる使用基準の確認の徹底、と四項目を掲げている。

◆3つの実施項目を軸に運動を展開

本年度の運動における具体的な実施事項は、次の3項目に要約されている。
1.農薬及びその取扱いに関する正しい知識の普及啓発
2.運動中に実施した活動や取組に係る検証の実施
3.農薬使用者、農薬販売者等の関係者への指導等

◆ポスターやインターネットなどで幅広く啓発

特集 農薬危害防止運動1

シンジェンタポスター2020

(図1、2)啓発ポスター

本年度の啓発ポスターには、新たな運動テーマ「農薬は 周りに配慮し 正しく使用」が盛り込まれた(図1、2)。毎年、運動に参画した農薬企業が独自にポスターを作成して全国に配布する啓発活動も行われている。
広報誌等による普及啓発は、報道機関に対する記事掲載の依頼や広報誌、ポスター、インターネットなど多様な手段を用いて行う。
また普及啓発の取り組みでは、関係法令等の啓発資料を配布するほか、電子メールやSNS等を活用した情報配信等によっても、正しい知識の普及を図る。
地域の実情に応じて、生産者団体や作物ごとの部会及び出荷先等を通じた情報発信を行うことで、個々の農薬使用者に指導事項の周知徹底が図られるように工夫することも盛り込まれた。

◆運動の実効性を高めるよう実施の効果や成果を検証

運動中に実施した活動や取組に係る検証の実施では、農薬による危害の防止、農薬の適正使用等に係る指導、普及啓発のために実施した活動、重点指導項目として位置付けた事項への取組状況等について、実施の効果や成果を検証し、次回以降の運動の実効性を高めるよう努める。

 

関係者に対する指導等を四つの留意事項に整理

農薬使用者、農薬販売者等の関係者に対する指導等については、次の四つの留意事項にまとめられている。
1.農薬による事故を防止するための指導等
2.農薬の適正使用等についての指導等
3.農薬の適正販売についての指導等
4.有用生物や水質への影響低減のための関係者の連携

◆事故防止の注意事項を徹底

農薬使用時の不注意などによる事故を未然に防止するためには、農薬使用者、病害虫防除の責任者、防除業者等への関係法令や過去の事故例とその防止策をまとめた「農薬による事故の主な原因等及びその防止のための注意事項」の周知徹底が行われる。
人に対する事故の原因としては農薬用マスク、保護メガネなど防護装備の不備や防除器具の点検不備などがある。通行人や近隣住民への配慮不足、強アルカリ性の農薬と酸性肥料の混用による有毒ガスの発生、農薬散布作業前日の飲酒や睡眠不足等、体調が万全でない状態で作業を行ったために起こった事故例もある。
農薬散布時には、マスクやメガネなどの防護装備を着用するとともに、現場混用の際は、「農薬混用事例集」等を参考にしたい。
土壌くん蒸剤の使用にあたっては、防護マスクのほか、施用後にビニール等で確実に被覆することも重要になる。
住宅地周辺では、農薬を散布する日時や農薬の種類を事前に告知しておくことはもちろん、農薬が飛散して周辺住民や子供たちに健康被害をおよぼさないように注意しなければならない。
その対策には「住宅地等における農薬使用について」(農林水産省、環境省)や「公園・街路樹等・病害虫・雑草管理マニュアル」(環境省)が参考になる。

◆有人・無人航空機に関わる留意事項の遵守を徹底

有人ヘリコプター、無人ヘリコプター又は無人マルチローターなどの有人・無人航空機を用いて農薬を散布する場合、関係法令を遵守することはもちろん、特に無人航空機で農薬を散布する場合は、航空法に基づき事前に国土交通大臣の許可・承認を受けることが必要となる。
有人ヘリコプターについては農林水産省消費・安全局長通知として、「農林水産航空事業の実施について」と「農林水産航空事業実施ガイドライン」が通知されていたが、令和元年7月30 日付で、新たに「無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」と「無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」が通知された。
これらの通知に共通する留意点のひとつは、有人・無人航空機のいずれであっても、事前に散布日時や農薬の種類等を周辺住民に周知して危害防止に万全を期すとともに、作業関係者の安全を十分に確保することである。
また無人航空機を用いて農薬を散布する場合は、実施区域周辺の地理的状況等の作業環境を十分に勘案し、実施区域及び実施除外区域の設定、散布薬剤の種類及び剤型の選定等の空中散布の計画を検討することをはじめとして、10項目にわたる留意点がまとめられている。
一方、農薬事故や被害の実態を原因別にみると、最も件数が多いのは保管管理不良や泥酔等による誤飲誤食である。農薬やその希釈液等は、飲食品の空容器等に移し替えたりせず、施錠された農薬保管庫に保管するなど、管理の徹底が求められる。
さらに毒劇物たる農薬の飛散、漏れ、流れ出し等により、保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、直ちに保健所、警察署又は消防機関に届け出るとともに、危害を防止するために必要な応急の措置を講じなければならない。また毒劇物たる農薬の盗難、紛失にあたっては、直ちに警察署に届け出なければならない。

◆農薬の適正使用を徹底、薬剤耐性菌対策も

農薬による危害を防止し、農作物の安全を確保するために、農薬使用者は、適用作物や使用量、希釈倍率、使用時期及び使用回数等の農薬使用基準、適用病害虫の範囲、使用方法等を遵守しなければならない。
留意事項では、農薬の適正使用におけるGAP(農業生産工程管理)の有効性を指摘。農業者に対しては、「GAPの共通基盤に関するガイドライン」や、GAP認証の取得にあたって求められる農薬適正使用に関連する事項を参考にした具体的な取組の積極的な指導が求められている。
農薬の散布作業では、飛散防止も重要になる(図3)。防除しようと思った作物以外の作物に農薬が飛散した場合、その作物に農薬登録がなければ非登録農薬の使用となる。
また水稲除草剤の使用で、十分な止水期間をとらずに水田内の水を流してしまったことなどにより、河川から農薬登録保留基準案を上回る濃度の農薬成分が検出される事例がみられる。注意事項に記載された止水期間を遵守し、水漏れの原因となる畦畔の管理を行う必要がある。

特集 農薬危害防止運動2(図3)飛散防止も重要

農薬登録番号がないにもかかわらず、農薬としての効能効果をうたっている資材や病害虫の防除効果がある資材は、無登録農薬の疑いがあり、農薬取締法に違反する可能性があるため、使用も販売も行ってはならない。
その他の留意事項では、薬剤耐性菌対策が加わった。農作物等の防除における抗菌剤(殺菌剤)の使用に関しては、農作物等の病害虫防除の分野での薬剤耐性菌の発達も重要な課題となっている。同一系統の薬剤の連続散布を避け、病害虫の発生状況に応じた計画的かつ必要な範囲での使用が重要であることに留意することが求められている。

◆農薬の適正販売を徹底

農薬を販売するには、都道府県知事への届出が、毒劇物に分類される農薬の販売には都道府県知事等への届出と登録が義務付けられている。
毒劇物に分類される農薬の販売においては、譲受人の身元並びに使用目的や使用量が適切かどうかを十分に確認する必要があるとともに、一般消費者への販売を自粛しなければならない。
近年、農薬に該当しない除草剤がドラッグストアやインターネットで販売されるようになっており、その際の「非農耕地専用」という表示が、購入者に公園や緑地等であれば使用できると誤解される事例がある。
農薬に該当しない除草剤の販売においては、容器や包装に農薬として使用できない旨を表示することや農耕地以外の場所でも農作物の栽培・管理に使用できない旨の周知に努めることが求められる。

◆蜜蜂などの有用生物や水質への影響を低減

農薬使用においては蜜蜂の被害防止対策など環境への配慮も不可欠だ。蜜蜂の被害は水稲のカメムシ防除時期に多く発生し、水田に飛来した蜜蜂が水稲のカメムシ防除に使用される殺虫剤に直接暴露すれば、被害が発生する可能性が高い。
被害を軽減させるには、農薬使用者と養蜂家との間で農薬散布の情報共有や巣箱の設置場所の工夫・退避、粒剤の使用や蜜蜂の活動の盛んな時間の使用を避ける等、農薬の使用の工夫が有効となる。
蜜蜂の被害軽減対策では、養蜂家に対し、日頃から巣箱の移動手段を検討するとともに、退避場所における新たな蜜源を確保するなどの取組に努めることなどを指導。また農薬使用農家に対しては、害虫の発生源になる圃場周辺等の雑草管理について、農薬を使用する圃場の畦畔や園地の下草等の雑草管理を徹底することなどの指導が盛り込まれた。
水産動植物の被害や水質汚濁への配慮も重要になる。特定の農薬を地域で集中して使用すると、その農薬に感受性の高い生物種に大きな影響を与える可能性があるため、できるだけ多様な農薬を組み合わせて使用する必要がある。
またゴルフ場の農薬散布では、「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止及び水産動植物被害の防止に関わる指導指針の制定について」(環境省)を参考に、排出水に含まれる残留実態を把握しつつ、ゴルフ場関係者への指導・助言に努める必要がある。

JA全農等関係団体独自の運動を推進も 

JA全農や農薬企業の団体である農薬工業会、農薬卸商の団体である全国農薬協同組合等、関係団体による独自の活動も毎年活発に行われている。
JA全農は、JAグループとして昭和46年から安全防除運動に取り組んでおり、農薬の適正使用と安全な農作物の提供のために、「農作物、生産者、環境」という三つの安全を掲げ運動を展開している。農薬の適正使用の推進に向け、防除日誌の記帳や防除暦の検証を行うとともに、農薬の残留分析を実施するなど、農薬を使用して栽培された農作物の安全性の立証を積み重ねている。
農薬の使用に当たっては、農薬ラベルに記載されている情報の確認を励行したい。登録内容の変更等、最新情報は、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)のホームページ「農薬登録情報提供システム」で確認できる。

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