【生協組合員の意識動向】「安全・安心」は当たり前、「簡単・便利」へ 生活協同組合連合会コープネット事業連合・赤松光理事長インタビュー2014年2月18日
・100万人から2000万人の組織へ
・「食の安全」は当たり前の社会に
・若い層は「安さ」を求める
・宅配でも競争激化、厳しい経営環境
・「美味しさ」前面に生協らしさを追求
・社会貢献で協同組合の存在感を
1970年代、食の安全や健康問題などでオピニオンリーダー的役割を果たしてきた生協は、いまや2000万人を超える巨大組織となり、「個配」など新たなビジネスモデルを創りだすなど日本の流通業界にその存在感を示している。一方で、多くの「普通の人」を組織化したことで、組合員の意識にも大きな変化が生まれてきている。生協組合員の意識の変化とそれにどう対応しようと考えているのかを、首都圏を中心に400万人以上を組織するコープネット事業連合の赤松光理事長に率直に語っていただいた。
社会の変化に
どう対応するのか
◆100万人から2000万人の組織へ
――理事長がある集会でいまは「質」ではなく「簡便性・利便性」を生協組合員は求めているという主旨のお話をされていました。1970年代から80年代にかけて現在の地域生協が各地に元気よく誕生したころは、価格よりもより良い品質で安全・安心な納得できる食品を求め、社会のオピニオンリーダー的な役割を果たしていたと思いますが、時代が変わり生協の組合員意識も大きく変化してきているわけですね。
「変化には2つの要因があります。1つは社会そのものが変化してきていることです。70年代というのは公害問題から食品添加物や農薬問題があって、消費者全体が食の安全とか健康問題に非常に敏感になり、20歳代から30歳代の若いお母さんたちが、自分たちの力で安心なものを子どもに食べさせたいと考え、生協に入ってきた時代です」
「当時は、安全・安心が第一で『なぜ加工食品を扱うのか、手づくり』だというのが主流でした」
――もう一つの要因は…。
「組合員の組織率の変化です。70年の全国の地域生協の組合員数は100万人未満ですが、2010年は2000万人へと20倍に増えています。つまり普通の人が増えてきました」
「ある意味で70年代の生協は『敷居の高い』組織でしたが、その後、80年代以降、宅配の品目が増え、OCR注文で代金は自動引き落としになるなど便利になってくる。そうすると、買物に行けない子育て層が増えてきます。組合員アンケートでも『安全・安心』と並んで『簡単・便利』が上位にくるようになります」
(写真)赤松理事長
◆「食の安全」は当たり前の社会に
「しかし、組合員は急増しますが、供給高は93年頃をピークに停滞しています。そして2000年代になると、食品安全法など法律が整備され、農薬のポジティブリスト制が導入されたり、食品安全委員会が設置されるなどして、『食の安全』は生協のアドバンテージは少なくなりました。」
――そうしたなかで「簡単・便利」が当たり前になってきた…
「SM(スーパーマーケット)やCVSが増えて近くで買えるようになったこと。一方でショッピングセンターができ1週間分とか『買いだめ』ができるようになりました」
――そうするといま生協に求められているものは何でしょうか。
「普通の人の生活に合わせたものの供給。そして一時、高齢者は『手づくり』といわれましたが、実は高齢者ほど少量を手づくりするのは難しいから『簡単・便利』の方がよいということになっています。しかも最近は、冷凍食品もよくなり、出来合いのモノの味が良くなってきているので…。つまり高齢化に伴ってより『簡単・便利』が求められてきていると思います」
◆若い層は「安さ」を求める
「そして『安全・安心』『簡単・便利』に加えていま新たに求められているのは『安さ』です」
――それはどういうことですか。
「特に若い世代にこの要望が強いといえます。なぜかといえば、若い世代の所得は格差が大きく、年収300万円以下の人が増えていますが、この人たちを生協は30%程度しか組織しきれていません。この人たちは倹約志向が強く『生協では買い物できない』と思っているからです」
「生協はいまの世の中の変化に追いついているかといえば『安全・安心』『簡単・便利』では追いついていると思いますが、所得の低い人たちへの対応をどうするかという『低価格』では追いついていないといえます」
――これからのターゲットということですか。
「必ずしもそうとはいえません。なぜかといえば、簡単・便利でおいしくて安全で安心を担保しながら、『安く』を実現することはなかなか難しいからです」
「消費者全体をみれば、多くの人は量販店やSM、CVSで買い物し、所得の低い人たちはディスカウント店と二つに分かれ、その中間で生協はその特徴をどう持たせていくかが問われていると考えています」
(写真)簡単便利な料理メニュー。
◆宅配でも競争激化、厳しい経営環境
――「個配」は自宅で買い物ができ簡単・便利だということで伸びてきたわけですね。
「この分野でも、宅配がどんどん増えてきて、必ずしも生協のアドバンテージではなくなり『曲がり角』にきています」
「つまりさまざまな分野で『なぜ生協でなければいけないのか』ということが問われていて、もう一度、生協のアドバンテージを打ち出していかなければいけなくなってきています」
――全国の主要生協の供給高推移をみていると、店舗の供給高がジリジリと下がっていますね。
「宅配は少しずつですが伸びていますが、店舗はかつて1兆円ありましたが、いまや1兆円を切っています。しかもほぼ赤字経営です。つまり生協の店舗は負けているということです。したがってこの対策をしっかりしなければいけませんが、以前に比べれば赤字の幅もだいぶ改善されてきています。しかし、宅配も競争が厳しくなっていますから、経営的には厳しいといえますね」
◆「美味しさ」前面に生協らしさを追求
――最近はCVSとか小型店が元気で、若い人だけではなく高齢者も利用するなど流通業界自体が大きく変わってきていると思います。そうしたなかで生協はどういう展開をしていくのでしょうか。
「いま生協に残されたものは何かというと、宅配の基盤は揺るぎなくあるので、これに磨きをかけていくことです」
――どういう磨きを…
「一つは、商品そのものです。冷凍食品とか宅配に適合した商品はかなりあります。商品説明がしっかりできるので生協の宅配が日本一売っているものがけっこうあります。そうした商品をさらに広げていくことです」
「もう一つは、コープ商品だけではなく一般商品も含めて商品開発のスピードをあげることです。開発のテーマは、まず『美味しさ』を前面にだし美味しさでは負けないということです。そして、量を少量など『必要量』に合わせることです。三つ目が『簡単・便利』です。そうした基準で冷凍食品も評価します」
「素材関係もカットしたものとか、セットものとかが、むだがないこともあって、伸びています。勝負は『味』ですから、もう一度『味の発掘』をしようといろいろ検討をしています。四つ目は社会性です。『日本の自給力を上げる』『バランスの良い健康的な食生活の提案』『安全・安心の取り組み』など、食に関する社会的な取り組みを重視していきます。」
「一方で、インターネット注文でしかできない少量商品の開発もしています。例えば『○○さんのトマト』とか『原種のキュウリ』とか…。先日は千葉の種子まで遡ってこだわったカボチャを売りました。こうした隠れた素材も発掘していこうと考えています」
――宅配ではほかには…。
「現在は週1回配達がベースですが、毎日2万食届けている宅配弁当にいろいろな商品を乗せるとか、『ネットスーパーには負けない』ことを次期中期計画の柱の一つとして考えています」
◆社会貢献で協同組合の存在感を
――商品政策などは分かりましたが、そのうえで生協らしさを出すとすると…。
「人と人とのつながりを大事にして、地域の困りごとをきちん解決をしていくという『社会貢献』です。具体的には、子育てと高齢者層への対応です」
「子育て層に対しては、現状の育児へのサポートや『子育てひろば』などに加えて何ができるかを考えていきます。高齢者対応では『見守り協定』への協力とか、夕食宅配に品目をのせてバランスよく栄養が摂取できるようにするとか…。介護分野では、新しいサービス付き高齢者向け住宅を千葉で準備していますが、今後さらに広げていくつもりです」
「さらに宅配も受けられない『買い物弱者』とか、『孤独死』にどう対応するかも考えていきますが、これは生協だけではできないので行政などと連携してできれば強みになります」
――生協らしい、協同組合らしい取り組みですね。
「人口が減って高齢化し、生活全般が変化していますから、それに対応した事業の組み立てを考えていかなければいけない時期にきていますし、いまが勝負どころだといえます」
――大きな転換点といえますか…。
「生協だけではなく協同組合自体が、協同組合間提携を含めて、社会の変化に対応できるよう脱皮する時期にきていると思います」
――ありがとうございました。
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