【クローズアップ 7&I鈴木会長退任】小売業界のパワーバランスが変わるか?2016年4月25日
榎本博之アズライト代表
小売業界に常に新たな風を吹き込んできた7&Iの鈴木敏文会長が退任するという。このことは7&Iグループだけの問題なのか、それとも小売業界に何らかの影響をおよぼすのか、「激変する食品スーパー」で小売業界の動向を連載してきた榎本博之氏に分析してもらった。
◆求められる新リーダー像とコンセンサス
4月7日の鈴木敏文会長の退任表明により、7&I内部のゴタゴタはしばらく続きそうだ。一連の報道により、内部の軋みは白日の下にさらされ、新しい経営陣には、内外から過剰なプレッシャーがのしかかるだろう。無難な取り組みでは許されないし、新しい取り組みでの失敗も避けたい中で、どの様に舵取りを行っていくか注目が集まる。
最も気になるのは、経営判断のスピード感である。
セブン-イレブン(セブン)はこれまでの業界常識を大きく変える取り組みを実現させてきた。流通の効率化を図るために、小口配送・共同配送の実現や、サービス強化の部分では公共料金の受付に始まり、銀行業務、PB商品の拡大充実など業界のリーディングカンパニーとして先鞭をつけてきたのは間違いない。
これらの功績には、多くの反対を受けながらも、事業を推進してきた鈴木氏のリーダーシップによるところが大きい。当面は、そういった指示・命令ではなく、組織(チーム)による検討が進むに違いない。
しかし、1万8000店以上ある店舗網をまとめ上げ、さらなる成長に導くには、新たなリーダー像の形成とコンセンサスが求められる。本部と加盟店との関係が必ずしも順風満帆とは言い切れず、火種がくすぶっていると聞く。
今は、日販の開きから見ても業界内におけるセブンの優位性は保たれているが、リーディングカンパニーとしての取り組みが減っていくと、足元をすくわれるリスクは否定できない。
特に、コンビニエンスストア(コンビニ)業界は大きな転換期を迎えようとしている。
◆トップの座狙うファミマ、ローソン
セブンに加え、ファミリーマート(ファミマ)、ローソン、3社による寡占化が進み、業界再編への動きは加速している。
ファミマは、ユニーとの経営統合を控え、これが実現すればセブンと店舗数において肩を並べる規模となる。
また、店舗規模では後れを取ったローソンも、新社長を迎え追撃体制を整えている。
これまではファミマ、ローソン共にセブンの後追い的な印象が強かった。しかし、今のこのタイミングは、新たな手を積極的に打ち、あわよくば業界のパワーバランスを変えるチャンスとも言える。
今後のセブンはもちろん、競合であるファミマ、ローソンの動きもあわせて注目したい。
◆構造的な問題抱えるGMS
また、GMSのイトーヨーカドー(ヨーカドー)が2017年2月までに20店舗の閉鎖を予定しており、未だ再建の目途が立っていない状況下での今回の刷新である。これまでも鈴木氏がセブン流の経営手法を入れ、再建に取り組んできたが、あまり成果を生み出しているとは言えない。
ヨーカドーに限らず、大手GMSは軒並み苦戦しており、構造的な問題を抱えている。
7&Iの始業であるヨーカドーにどのようにテコ入れを図っていくのか注目が集まる。海外機関投資家からは売却までの選択肢に入れた抜本的な改革を要求されている。こちらも今後の動向から目を離せない。
◆弁当・総菜にビジネスチャンスが
さて、今回の出来事を受けて、農産物への影響はあるだろうか?
他社と比べ、セブンは生鮮農産物の販売には積極的とは言えない。定番となる必需品を中心に、補完的な品揃えをしているのが一般的な対応である。一部エリアの店舗では、産直品を中心とした販売スペースを設けているところもあるが、スペースや流通コストの問題から全国に拡大する気配はない。
一方で、カット野菜やカットフルーツなどの工場加工のチルド品にはかなり力を入れており、お弁当・総菜類の販売を含め、原材料としての活用など、大きな影響力を持ち続けると言えよう。そのため、今後も安心・安全の面から国産農産物を積極的に扱う意向は強く、ビジネスチャンスとして期待できると見られる。
また、スーパーと同様、コンビニでもお弁当・総菜類のご当地・産地のキャンペーンが展開すれば、その店舗網を活かした販売力は強大だ。
新たな動きによりチャンスが増えるのであれば、生産者にとってもプラスに寄与するだろう。取引条件や衛生管理などクリアしなければならない課題はあるが、生産者もチャンス獲得に向けたアンテナを張っておくべきである。
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