ウイルスと寄生蜂とイモムシ 3者の相互作用による蜂殺し遺伝子を発見2021年8月2日
東京農工大学大学院農学研究院生物制御科学部門の仲井まどか教授と、森林研究・整備機構森林総合研究所の高務淳主任研究員、農業・食品産業技術総合研究機構の立石剣リスク管理部部長、渡邊和代契約研究員らの研究チームは、バレンシア大学(スペイン)、サスカチュワン大学(カナダ)、安東大学(韓国)との共同研究で、寄生蜂に対抗するために昆虫や昆虫に感染するウイルスが持っている、全く新しい遺伝子を発見した。今後、寄生蜂を用いた新たな害虫防除技術の開発や、ウイルス学、進化学への貢献が期待される。
3者の相互作用(A)とPKFの蜂殺し作用(B~D)
昆虫は寄生蜂やウイルスなど、様々な天敵にさらされる。寄生蜂は昆虫に寄生して昆虫の体を食べて成長し、最終的に寄生した昆虫を殺してしまう。ウイルスは昆虫に感染し、同様に昆虫を死に至らしめる。これら寄生蜂やウイルスが寄生、感染することにより昆虫の増加が抑制されることから、農作物や森林の害虫防除に利用されている。このような天敵は、宿主に寄生する能力を進化させているが、昆虫側も天敵に対抗する戦略を進化。一方、同じ昆虫を宿主とする天敵同士の間には、宿主をめぐる競争が勃発する。
今回研究に使われた、同じイモムシを宿主とする寄生蜂と昆虫ポックスウイルス(EPV)は、宿主をめぐる競争関係にあり、EPVに感染したイモムシの体内では、寄生蜂幼虫が死ぬことと、その原因は、タンパク質であることを研究チームは突きとめていた。しかしそのタンパク質をコードする遺伝子や、その遺伝子と類似する遺伝子が生物やウイルスにどの程度分布しているかなど、寄生蜂が死に至るしくみはわかっていなかった。
研究チームは、EPV が寄生蜂を殺すタンパク質(殺蜂タンパク質)遺伝子をゲノムにコードしていることを発見。寄生蜂(Parasitoid)を殺す因子という意味で、Parasitoid Killing Factor(PKF)遺伝子と命名した。
EPV に感染した宿主(イモムシ)では、PKF が宿主体液中に蓄積し、同一個体に寄生した寄生蜂にアポトーシスを起こさせて殺すことを明らかにした。EPVは寄生蜂を殺すことで、寄生蜂との資源競争に勝つ。PKF 遺伝子は、ウイルスと昆虫との間や、異なるウイルスとの間で遺伝子水平伝播し、複数種のウイルスと昆虫に広く分布していた。これら昆虫のPKF も、EPV のPKFと同様の機能を持ち、PKF の発現を阻害すると寄生蜂の死亡率が減少した。これまで昆虫は、寄生蜂に対して主に宿主の細胞性の免疫機構によって寄生蜂に対抗しているとされていたが、研究チームは、細胞性の免疫機構に加えて、体液中に分泌されるエフェクターが寄生蜂への防御機構として働いていることを世界で初めて明らかにした。寄生蜂への新たな免疫機構の発見となる。
同研究の成果を基盤に、PKF以外の殺蜂タンパク質の探索や、より詳細な殺蜂機構の解明することで、寄生蜂の寄生能力を拡大したり増強したりして 、害虫防除技術の高度化を図ることができる。また、人や動物、植物等のウイルスも含め、広くウイルス学の発展に寄与。新たな進化学の展開が期待される。
ウイルス自体の構造や宿主を制御する遺伝子の研究に加え、ウイルスや宿主を取り巻く生物を含めた生物間相互作用の中で働く遺伝子の研究へ
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