農林業をしながら生物多様性を保全 保護区外での考え方を提示 森林総合研究所2022年4月14日
森林総合研究所らの研究グループは、自然保護区外での生物の保全の考え方を同一種の個体の集団(個体群)のモデル開発により理論的に提示した。
生物の保全においては、自然保護区の設定がこれまで重視されてきた。一方、近年は生物の移動分散を考慮すると、保護区外の環境の改善も同等に重要だと提唱されるようになった。しかし、保護区外では人工林や農地など多種多様な土地利用が行われており、こうした複雑な景観で生物の移動分散をモデル化するのが難しいことから、保護区外での保全活動について理論的な裏付けがされていない。
同研究では、複雑な景観における生物の出生、分散、死亡過程を理論的に解析するため、生物の移動を電子回路における電気の流れに見立てて空間を捉える集団モデルを世界で初めて開発。このモデルを用いて様々なシナリオで保護区外の周辺環境を改善した場合の効果をシミュレートした。
その結果、周辺環境は生物が保護区から移出しやすいように改善するより、生物が移動する際の生存率を増加させるように改善する方が生物の保全により効果的であることを示した。また、改善した周辺環境によって保護区同士を連結すると生物を保全する効果がさらに高まることや、保護区の面積と周辺環境の改善面積の間に相乗効果が発生することを示すことができた。
これらシミュレーション結果は、保護区外の農林業を行うエリアも生物の保全にとって重要で、そのために必要な配慮の考え方を示している。農林業関係者など多様な主体が生物多様性の保全活動に参画することの重要性を示すものとして、社会における生物多様性の理解や保全意欲の向上につながることが期待される。
同研究成果は2月22日、『Journal of Applied Ecology』誌でオンライン公開された。
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