バイカル地域での現生人類の拡散時期と要因を解明 森林総合研究所2023年11月30日
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、カンザス大学、東京都立大学、金沢大学の国際研究グループは、バイカル湖の湖底堆積物の花粉と、周辺地域の遺跡の年代データを比較し、森林ステップの拡大がアジア北ルートの人類拡散の要因であることを解明した。気候変動に対する人類の適応を示す重要な成果といえる。
アフリカからアジアに向かう現生人類の拡散については、約5万年前の氷期といわれる時代にアジアの北ルートと南ルートに別れたとされている。シベリアのバイカル地域はその頃の遺跡が多数確認され、地中海地域からアルタイ山脈を経て続く北ルートでの拡散途上の重要な地域となっている(図1)。
図1:ユーラシアにおける上部旧石器時代のアジア北ルートの人類拡散
遺跡から出土した石器、骨角器、ペンダントなどの遺物の特徴から、これらの遺跡は上部旧石器時代初期に区分され、その年代は約4.5万年前に遡ることが分かっているが、西アジアからバイカル地域への拡散過程の詳細や、寒冷で乾燥したこの地域の環境になぜ人類が定着できたのかは、明らかになっていなかった。
同研究グループは、バイカル地域における現生人類の拡散とその要因を明らかにするために2つの分析を行い、総合的に考察。まず、氷期(寒冷期)の5~2万年前を対象に、バイカル地域の遺跡から出土した炭化物や骨片など合計282試料の放射性炭素年代測定値を分析し、1000年ごとの人類の活動状況の変化を調べた。次に、バイカル湖の湖底堆積物に含まれる花粉分析を行い、時代ごとの植生の変化を調べた。その結果、現生人類の居住強度が約4.4~4.0万年前に急増したことから、現生人類は上部旧石器時代初期の約4000年間に渡ってこの地域に居住し、バイカル地域における初期の人類拡散および定着が起きていたことが分かった(図2)。
図2:バイカル湖湖底堆積物中の針葉樹花粉の割合の変化(左)、
バイカル地域の居住強度(中央)、自転軸の傾き(右)の対比
同時に、この時期には氷期のそれ以外の時代に比べて、マツやトウヒなどの針葉樹に加えイネ科などの草本類の花粉が多く出現。このことから、氷期においても、4.5~4.0万年前には温暖で湿潤な時代が5000年間続き、森林ステップ植生が拡大していたことが分かった。これは、バイカル地域での森林ステップとそれに伴う食糧となる多様な動物の拡大が、現生人類の拡散と定着の重要な要因となったことを示す。
この成果は温暖化などの気候変動に対する人類の適応を示す具体的で重要な知見で、さらに日本へと続くアジア北ルートでの人類拡散を考える上で役立つといえる。
同研究成果は9月22日、『Science Advances』誌でオンライン公開された。
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