スギ人工林はモモンガの生息地として機能 人工林活用で希少動物の保全へ 森林総合研究所2023年12月7日
森林研究・整備機構森林総合研究所は、これまで報告されてきたニホンモモンガの断片的な知見を集約することで、同種が植林されたスギを営巣や滑空移動の経路と、花粉を冬季の食料など様々な用途で利用していることを明らかにした。
巣箱から顔を出すニホンモモンガ
ニホンモモンガは、世界で本州、四国、九州にのみ生息するリスの仲間だが、多くの都府県で絶滅が心配されており、生息地の保全が必要と考えられる。これまでの研究から、同種は人工林でしばしば目撃されることがあるが、人工林に生息する理由はもちろん、生態についてもほとんどわかっていなかった。
一方、ニホンモモンガが樹と樹の間を滑空によって移動するという珍しい行動や、見た目の可愛さから、目撃情報は比較的多くの文献に情報として残されている。そこで、そのような断片的な知見を集約することで、その生態を明らかにし、同種が人工林に生息する要因を探った。
研究では、ニホンモモンガの目撃情報が記載された文献を収集し、生息地、営巣木、繁殖の有無、食性、滑空移動などの情報を集約したところ、生息環境が示されていた33文献に基づくと、これまで同種が発見された場所の少なくとも約6割は人工林や、人工林と隣接する二次林・天然林だった。さらに詳しくみていくと、植林されたスギが様々な用途で利用されていることがわかった。
例えば同種はスギにできた樹洞に頻繁に営巣し、巣材には細かく裂いたスギの樹皮を良く利用し、滑空移動をするときにスギの樹幹によく着地していた。成長したスギは樹高が高く樹幹が真っすぐであることから、遠くまで滑空する出発点として有利で、着地もしやすいと考えられる。また、同種は植物食で樹木の葉や花、芽、種子など植物の様々な部位を採食するが、食料が不足する冬季にはスギの花粉を含んだ糞が頻繁に見つかることから、スギの雄花を良く食べている様子だった。
このようにスギ人工林は、ニホンモモンガの生息に必要な住居、食料、そして移動経路を提供し、本種の生息地として機能していることが示された。
スギ人工林がニホンモモンガの生息地として機能していることはわかったが、これは同時に、同種の生息は人間の影響を受けやすいことを意味しており、人工林の管理を工夫することによって、希少な野生動物と共存可能な環境を創出できる可能性を秘めている。今後は、人工林管理のガイドラインにニホンモモンガなどの希少な動物の保全、それらとの共存を目指すフレーズが登場すると考えられる。
同研究成果は9月7日、『Journal of Vertebrate Biology』誌で公開された。
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