不健康な食生活がもたらす「隠れたコスト」年間8兆ドル FAO世界食料農業白書2024年11月26日
国際連合食糧農業機関(FAO)は、156か国を対象に実施した調査・分析から、世界の農業・食料システムにおける隠れたコストは年間約12兆米ドルに上ることを明らかにした。この金額のうち約70%(8.1兆米ドル)は、不健康な食生活が原因となっており、心臓病、脳卒中、糖尿病などの非感染性疾患(non-communicable diseases, NCDs)に関連している。
農業・食料システムのタイプを示す世界地図
同調査・分析によると、世界の隠れたコストを増やしているのは、主に、高中所得国や高所得国のより工業化が進んだ農業・食料システムにおける健康面の隠れたコストで、次いで環境面での隠れたコストだった。
同報告書は、健康への影響を分析するにあたり、13の食事リスク要因を指摘。全粒穀物・果物・野菜の摂取不足、ナトリウムの過剰摂取、赤身肉や加工肉の多量摂取などが含まれる一方、農業・食料システムは多様で、システムによりリスク要因が大きく異なると指摘する。
隠れたコストは農業・食料システムのタイプによって異なる
歴史的に見て、農業・食料システムは伝統的なものから工業的なものへと変遷。それぞれの段階において多様な結果や隠れたコストをもたらしている。同報告書では、世界のさまざまなタイプの農業・食料システムにおいて、隠れたコストがどのように顕在化しているかを検証した。
分析を容易にするため、この調査では、類型論を採用し、農業・食料システムを6つのグループ(「危機長期化システム」、「伝統的システム」、「拡大システム」、「多様化システム」、「形式化システム」、「工業化システム」)に分類。この枠組みを用いることで、各システムに固有の課題と機会を、的を絞って理解することができ、それぞれに合った政策や対応策を策定することが可能となる。
例えば、ほとんどの農業・食料システムのタイプにおいて、全粒穀物の摂取量が少ない食生活は主要な食事リスク要因となる。一方、紛争が長引いていたり、政情や経済が不安定だったり、広範囲にわたり食料不安に直面したりしているような「危機長期化システム」や、生産性が低く、技術導入が限定的でバリューチェーンが短い「伝統的システム」において一番の課題は、果物や野菜の摂取量が少ないこととなる。
ナトリウムの摂取量が多いことも重大な問題で、農業・食料システムが「伝統的システム」から「形式化システム」へと移行するにつれてナトリウム摂取量は増加傾向。「形式化システム」でピークに達し、「工業化システム」になると減少する。一方、加工肉や赤身肉の大量摂取は、「伝統的システム」から「工業化システム」への変遷を通じて着実に増加し、「工業化システム」では食事リスクの上位3位内に入っている。
食事リスクだけでなく、持続可能ではない農法が環境に与える影響も、隠れたコストを増大させている。 温室効果ガスの排出、窒素の流出、土地利用の変化、水質汚染に関連するコストは、「多様化システム」の国々では急速な経済成長と進化する消費・生産パターンが相まり、そのコストは特に高く、推定7200億米ドルに達する。
「形式化システム」及び「工業化システム」もまた、大きな環境コストに直面しているが、「危機長期化システム」の国々は、各国のGDPの20%に相当する、相対的に最も高い環境コストを負担している。
貧困や栄養不足などの社会的コストは、「伝統的システム」と長期化する危機による影響を受ける「危機長期化システム」において最も顕著。社会的コストは、「伝統的システム」と「危機長期化システム」のGDPの8%と18%にそれぞれ相当し、生計の改善と、統合的な人道支援・開発・平和構築の取り組みが早急に必要であることを示している。
世界食料農業白書2024は、現地の状況に適応し、利害関係者の優先的課題を把握することが重要であることを強調。この点に関し、同報告書では、多様な国及び農業・食料システムの中から、オーストラリア、ブラジル、コロンビア、エチオピア、インド、英国など代表的な事例を示している。
集団的行動に向けた呼びかけ
同報告書は、総じて、農業・食料システムをより持続可能で、強靭で、包摂的で、効率的なものにするために、価値主導型の変革を呼びかけている。そのためは、GDPのような従来使われてきた経済的尺度ではなく、隠れたコストを認識する真のコスト会計を活用する必要がある。
この手法により、意思決定者は、食料安全保障、栄養、生物多様性の保全、そして文化的アイデンティティが農業・食料システムにおいて果たす重要な役割を認識することとなり、農業・食料システムの社会的価値を高めるようなインフォームド・チョイス(十分な説明を受けたうえでの選択)をできる。この変革を達成するためには、分野間の隔たりを埋め、健康・農業・環境にまたがる政策を調整し、すべての利害関係者の間で便益とコストが公平に分配されるようにすることも必要。
FAOの屈冬玉事務局長は、「私たちが今、どのような選択をし、何を優先課題とし、どのような解決策を採るかが、私たちが今後共にする未来を決める。世界の農業・食料システムの変革は、SDGsを達成し、すべての人のための豊かな未来を確保するための基礎となる」と指摘した。
同報告書は、この変革には、生産者、農業関連企業、政府、金融機関、国際機関と消費者を巻き込んだ集団的行動が必要と強調している。
重要な記事
最新の記事
-
令和6年「農作業安全ポスターデザインコンテスト」受賞作品を決定 農水省2024年11月26日
-
農水省「あふ食堂」など5省庁食堂で「ノウフク」特別メニュー提供2024年11月26日
-
鳥インフル 米オクラホマ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月26日
-
「りんご搾り粕」から段ボール「りんごジュース」出荷へ実用化 JAアオレン2024年11月26日
-
鹿児島堀口製茶 DX通信に追加出資 地域農業の高度化と地域創生へ2024年11月26日
-
海の環境保全と国内水産業を応援 サンシャイン水族館で生産者と交流 パルシステム2024年11月26日
-
アグリビジネス創出フェア 農水省ブースに「レポサク」展示 エゾウィン2024年11月26日
-
2大会連続日本一の技術 坂元農場の高品質な牛肉づくりを紹介『畜産王国みやざき』2024年11月26日
-
「プレ節」発売10周年記念 無料配布イベント実施 マルト2024年11月26日
-
不健康な食生活がもたらす「隠れたコスト」年間8兆ドル FAO世界食料農業白書2024年11月26日
-
農業資材などお得に 2025年「先取り福袋」12月1日から予約開始 コメリ2024年11月26日
-
宅配システムトドックに「通販型乳がん検査キット」掲載 コープさっぽろ2024年11月26日
-
食品宅配サービスOisix「鈴鹿山麓育ち みんなにやさしいA2ヨーグルト」新発売2024年11月26日
-
需要好調で売上堅調 外食産業市場動向調査10月度 日本フードサービス協会2024年11月26日
-
気候変動緩和策 土地利用改変が大きい地域ほど生物多様性の保全効果は低い結果に2024年11月26日
-
雨風太陽 高橋代表が「新しい地方経済・生活環境創生会議」有識者構成員に就任2024年11月26日
-
サカタのタネ スペイン子会社がアルメリアで新本社の起工式を実施2024年11月26日
-
キッチンカーや体験コーナー 配送センターを1日限定で開放 パルシステム神奈川2024年11月26日
-
JAながさき県央とWeb完結2商品の取り扱いを開始 オリコ2024年11月26日
-
「全国こども食堂応援募金」12月6日から実施 イオン2024年11月26日