流通:加工食品の原料原産地表示を考える
加工食品の原料原産地表示を考える[1] 食品表示、一元化制度を創設2013年3月12日
・栄養表示の義務化
・注目される基本理念
・複雑な原料原産地表示の要件
・正確な理解が難しい表示の実態
・どう方向転換を図るか
食品表示を一元化する食品表示法(仮称)案の骨格がこのほど明らかになった。現在は食品衛生法、JAS法、健康増進法の3法が根拠となっているが、それぞれの食品表示の規定を統合、新たに包括する制度を創設するのが目的だ。
一方、JAグループは従来から加工食品の原料原産地表示拡大を求め、昨年の第26回JA全国大会決議の実践指針にも「加工食品の原料原産地表示義務拡大に向けた働きかけを強める」ことを盛り込んでいる。その理由を端的にいえば、現在の表示制度では国産原材料であっても表示不要の場合も多く、消費者が「国産を選びたくても選べない」状況だから。JAグループは、消費者の国産への需要を喚起し食料自給率の向上につなげるには原料原産地表示の拡大が必要だとの立場だ。
この問題については今回の新法とは別に検討の場が設けられることになっており、新法成立後にその動きが出てくるとみられる。
そこで今回は食品表示の基本法ともいえる新法の骨格とそのポイント、現在の原料原産地表示をめぐる問題点などを整理する。
原料原産地表示、新法成立後に検討
新法に「消費者の権利」明記へ
◆栄養表示の義務化
食品には現在、3つの法律それぞれの目的から表示が制度化されている。
名称や賞味・消費期限、保存方法など共通する表示項目も多いが、たとえば添加物やアレルギーに関する表示(小麦を含む、かに・えびを含むなどの表示)は食品衛生法に基づく。同法の食品表示の目的が「衛生上の危害防止」だからで、一言でいえば「食品安全の確保のため」ということになる。
一方、原材料名や原産地などの表示はJAS法に基づいている。その表示目的は「品質」とされている。すなわち、さまざまな原料で製造される加工食品の場合、原料原産地の違いでその食品の「品質」に大きな差がもたらされるなら、適正に表示し消費者の選択に役立つようにしなければならない、という考え方に立つといえる。
さらに食品には任意表示ではあるが、エネルギーやタンパク質などの栄養成分表示もされている。これは「国民の健康の増進を図る」ことを目的とする健康増進法に基づく。 現在検討されている新法は、これら各法律の食品表示の規定を統合、食品表示に関する一元的な制度として創設しようというもので、これまで任意表示だった栄養表示が義務づけられるというのがポイントの一つだ。
◆注目される基本理念
今回明らかになった新法の骨格で注目されるのは基本理念の盛り込みが検討されていることだ。
検討されている方向では、食品表示を「消費者基本法に基づく消費者政策の一環」だと位置づける。そのうえで「消費者の権利の尊重」と「消費者の自立の支援」を新法の基本理念とする案が示されている。
このように消費者の権利の尊重を明記するが、一方では「小規模の食品関連事業者等の事業活動に及ぼす影響等に配慮」との内容も盛り込まれる見込みだ。義務表示を拡大し消費者の権利を尊重すると同時に事業者による表示が実効性を持つようにするための配慮も行うという方針のようだが、この点は今後議論になりそうだ。
ただし、表示違反の場合の指示、命令、食品回収などの措置に加え、新法では立入検査を必要に応じて行うとしていることや、適格消費者団体による差止請求権規定を設けることも検討されている。 また、食品表示基準の策定については厚労大臣や農水大臣のほか、財務大臣との協議も明記されていることから「酒類」もこの新法の表示対象になるとみられる。
◆複雑な原料原産地表示の要件
消費者庁はこうした内容の新法が成立した後、原料原産地表示について検討していく方針だ。
では、現在の原料原産地表示問題は何か、改めて整理しておきたい。
JAS法に基づく原料原産地の義務表示対象品目は、先に触れたように、
[1]:原産地に由来する品質の差異が加工食品としての品質に大きく反映されると一般に認識される原材料
という要件に加え
[2]:[1]のなかで製品の原材料のうち、単一の農畜水産物の重量割合が50%以上である商品、というのが要件となっている。
この要件のもと、現在、22食品群と個別4品目(農産物漬物、野菜冷凍食品、うなぎ蒲焼き、かつお削り節)が対象になっている(表)。
一見、リスト化されているので分かるような気になるが、義務対象の要件は非常に理解がしにくい。逆に義務対象要件を免れている具体例を挙げると問題が分かりやすいだろう。
◆正確な理解が難しい表示の実態
▽「生あん」は原料原産地の表示対象だが生あんに砂糖を加えて加熱しながら練った「練りあん」は対象外。
▽単に蒸しただけの「蒸し鶏」は表示対象だが、しょうゆ味等の調味液をかけたものは対象外。
これらの事例はJAS法の「加工」の定義が原因。JAS法では生鮮品に新たな属性を付加される(=加工)と表示が除外されることになっている。
さらに「原材料の50%以上の重量が単一農産物」という要件になっていることから、
▽黒糖加工品の黒糖は表示対象だが、黒糖の重量が50%未満の「黒糖まんじゅう」や「黒糖かりんとう」は対象外。
▽生、または解凍した食肉にフライ用の衣をつけた食肉は表示対象だが、衣の重量のほうが50%以上なら対象外、といった事例も生じる。
◆どう方向転換を図るか
さらに輸入原料を使用し国内で調理・加熱した加工食品は原産国が日本となり、原料原産地の義務対象外となっている。
具体的な事例でいえばこんなことも起きている。
▽冷凍で輸入された味付け焼き鳥を、国内で小分けして包装加工した場合は原産国表示(加工地表示)がされる。
▽しかし、一次加工した半製品としての焼き鳥を冷凍で輸入し、国内で調理・加熱した場合は表示義務なし。 こうした事例が生じるのはJAS法が「品質の差異」に着目しているから。
原材料の産地が加工食品の品質に差異をもたらすのであれば、原産地表示は消費者にとって提供すべき情報だろう、という考え方だ。だが、その考え方に立ってさまざまな要件を設定している限りは、ここで紹介したような消費者に誤認を与える表示も生じてしまうばかりか、表示対象の拡大自体が困難になる。
このような問題を今後、どう乗り越えていくのか。その実践事例としてJA全農の原料原産地表示の自主基準導入がある。
次回はその取り組みを紹介しながらこの問題を考えていく。
●食品表示法案(仮称)の骨格(検討中)
【全体像】
★食品衛生法、JAS法、健康増進法の「食品に関する規定」を統合し、食品表示に関する包括的かつ一元的な制度を創設。
○整合性の取れた表示基準の制定
○消費者、事業者双方にとって分かりやすい表示
○消費者の日々の栄養・食生活管理による健康増進に寄与
○効果的・効率的な法執行
【目的】
○食品を摂取する際の安全性の確保
○一般消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会の確保
【基本理念(検討中)】
○消費者基本法に基づき、消費者の権利の尊重と消費者の自立の支援が施策の基本
○食品生産の現況をふまえ、小規模の食品関連事業者の事業活動に及ぼす影響等に配慮
【食品表示基準】
○内閣総理大臣が以下の事項の食品表示基準を策定
▽名称、保存の方法、期限(消費期限・賞味期限)、原材料、添加物、栄養成分の量・熱量、原産地その他食品関連事業者等が表示すべき事項
▽表示の際に食品関連事業者等が遵守すべき事項
○食品表示基準の策定・変更?財務大臣、厚労大臣、農林水産大臣に協議/消費者委員会の意見聴取
【指示等】
○消費者庁長官(内閣総理大臣等):表示基準違反の業者等に遵守を指示、命令、危害の発生・拡大防止の必要があるとき、食品の回収や期間を定めた業務停止命令
【立入検査】
○違反調査のため必要がある場合には、立入検査、報告徴収、書類等の提出命令、質問、収去
【申し出等】
○適格消費者団体による差止請求権の規定を設けることを検討中
(今後の検討課題:準備が整ったものから新たな検討の場で検討開始)
○中食・外食(アレルギー表示)、インターネット販売の取り扱い
○遺伝子組換え表示、添加物表示
○加工食品の原料原産地表示
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